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3 魔法があるようです

フレデリックは、順調に成長していますが、チート能力の片りんが見え隠れしているようです。

 私が産まれてから10か月くらい経った頃だった。漸く掴まり立ちが出来て、部屋の中でハイハイとつかまり立ちをしている頃、侍女のスザンヌさんが部屋のランプに明かりを灯していた。でも、この部屋のランプって不思議なんだ。灯油を継ぎ足しいていないし、火が付く訳でもない。ランプのガラスのホヤの中には水色の石が据えられていて、スザンヌさんが右手に持った短い棒、そう、オーケストラの指揮棒みたいな棒をその石に向けてブツブツ何かを言っている。最後に『ライト』と言うと、棒の先から赤い光が伸びていき、石に当たったらその石が眩く輝いていた。ランプには直接触っていないのに光っている。あれって絶対魔法だ。今まで、そんなことをしていたなんて全く知らなかった。


  「バア、バブ。」


 私は、スザンヌさんの持っている棒を指さした。


  「フレデリック坊ちゃん、このワンドが欲しいのですか。でも、これはあげられませんが、そうですねえ。何か無いかな。」


  スザンヌさんは、他のメイドに何か言付けていた。しばらくすると、木の棒と綿と布を持ってきて、木の棒を芯にして、綿を包んだ布製の杖を作ってくれた。それを手にした私は、思いっきり可愛らしい笑顔でお礼を言ったが、当然、


  「バア、バブ」


 としか言えずに、顔も引き付けを起こしそうに見えただろう。その場でお座りをして、杖を前に差し出す。ランプの方に向けて、『ライト』と唱えてみた。勿論、口には出さずに心の中だけで唱えた。何も起こらない。当たり前だ。既に明かりが付いているランプに、ライトの魔法が掛かるわけがない。それ位、魔法理論を学んでいなくても分かることだ。まあ、気分だな。魔法を唱えた時に、本当にランプに火が付く気がしたのだから、いつか成功するかも知れない。それからは暇さえあれば、まあ、ずっと暇なんだけど、杖を持ってランプに向けている。時々、先っちょを咥えてチュウチュウ吸っているので、スザンヌさんがもう一本作ってくれて、常に清潔な布製の杖を咥えられる、いや使えるようにしてくれた。


 1か月位したら、『ライト』と言えるようになった。大人が聞いたら


  「バイボ」


 としか聞こえないだろうが、気持ち、気持ち。私が、そればかりで遊んでいたせいか、スザンヌさんが古いランプを床に置いてくれた。勿論、間石はセットしてある。いつか本当に魔法が発動すればランプに灯りが灯るようになるだろう。


 1歳のお誕生日を迎えた頃、手放しで歩けるようになったので、部屋の中をグルグル走り回っている。スザンヌさんが作ってくれた布製の杖を上から下に振り下ろしながら走り回るのだ。その際、『ベン!』と大きな声を出すようにしている。大きな声を出すのは、呼吸法としては理に適っている。走りながら声を出すのは、1歳児にとってはかなりきついが、これも鍛練、毎日継続することが大切なのだ。途中、ステン、バタンと転ぶことがあるが、そんな時はスザンヌやベティが直ぐに抱き起こしてくれた。うん、これも何故か気持ちがいい。自分が大切にされているんだと実感する瞬間だからかも知れない。


 魔法の訓練と基礎体力の鍛練(?)を初めて3か月位が経った頃、突然、父上が部屋に入って来た。ちょうど、杖を振りながら走り回っていた時だったので、そのまま走り続けていた。


 父上は、何も言わずにじっと見ていたが、チョイチョイとスザンヌを手招きした。


  「スザンヌ、フレデリックは何をしているんだ?」


  「何か分かりませんが、剣の稽古のようです。放っておくとヘトヘトになるまで走り回っていますから。」


  「あの『ベン、ベン』と叫んでいるのは何かね?」


  「分かりません。最初から、あの言葉を叫びながら走り回っていましたけど、未だに意味は分からないままです。」


  「あの布の剣はどうしたのかね。随分短いようだが。」


  「いえ、あれは魔法用のワンドのオモチャです。私がお部屋のランプにライティング魔法を掛けているのを見て、私のワンドを欲しがっていたようでしたので、料理用の木串に綿を巻いて危なくないようにしたのです。それが、凄く気に入ってしまわれて、寝る時もベッドの中に持ち込んでいるんですよ。」


  「そうか。ふむ。」


 そんな会話が進んでいるとは思わず、そろそろ疲れて来た私は、コテンと床に横になると、そのまま眠り込んでしまった。いつもスザンヌさんが私をベッドまで運んでくれるので、目一杯疲れ切るまで走り込みをやる事ができるのだ。あ、そう言えば何回かスザンヌさんの胸の間に挟まって眠ってしまったこともあったっけ。乳母のベティは、ミルク臭いけど、スザンヌさんはバラのような甘いにおいがするんだ。


 目が覚めたら夜だった。手元には、布製ワンドが置かれていた。少しお腹がすいた気がするが、まだ我慢ができる。オムツは新しい物に交換されていたので、暫くは大丈夫だろう。


 そっとワンドを手にして、ワンドの先端に魔力を流してみる。体の中から、何かが右手に流れていくのが分かる。最初は、お臍のあたりがモゾモゾして、そのモゾモゾが右肺から右肩へ上がって来て、その後右腕を抜けて右手からワンドに流れていった。ワンドの先端が僅かだが光っている。この光は、私の魔力が光っているのだろう。何となくこれ以上光らせたらいけない気がした。ワンドに巻かれている綿や布が発火しそうな気がするのだ。


 私は、魔法の原理を知らない。呪文を詠唱したいが、言葉も喋れないし、と言うか1歳3か月の乳児が魔法を使えたら、それはそれでホラーな気がするし。取り敢えず、今は魔法を使うための準備期間ということにしよう。


 この時、フレデリック(近藤周作)は知らなかったのだが、魔法は魔力操作と魔力量によって、使用できるレベティが決定されるものであり、フレデリックの行なっている鍛錬は、両方を鍛える最善の方法であることを。




(ヘンリー・フォン・ランカスターの視点です。)

 我が家の3男フレデリックの奇行には、正直、驚いた。乳母や次女からは、大人しく手間のかからない子供だと聞いていた。腹が減った時とオムツが汚れた時以外は一切泣かないらしいのだ。夜泣きもないし、乳児特有の癇癪的な鳴き声もしないし。次男のグレンベティも大人しい赤ん坊だったから、マリアンヌの子は皆そうなのかと思っていたが、フレデリックは少し他の子と違うようだ。


 フレデリックの部屋に入って様子をみたところ、犬じゃあるまいし、同じところをグルグル回って何が楽しいのだろう。それに、あのワンドのオモチャを振りながらの奇声、あれは一体何だ?あれで剣の稽古だとしたら、1歳3か月の乳児が剣の稽古などするものだろうか?フレデリックは、3男であるので、15歳になると貴族籍を失い自立していかなければならない。今から、剣の修行を始めていくのも良いのかも知れない。しかし1歳3か月で剣の稽古をするなんて聞いたこともない。そんな我が子への剣の師匠は誰にしよう。うーん。あ、あいつがいいか。近衛騎士団の新人で、グラバー東部辺境伯の3女、えーと名前は何と言ったかな?まあ、いいか。近衛騎士団長にお願いしておけば、間違い無いだろう。




 暫くして、父上から木刀のプレゼントがあった。かなり小さめで長さ50センチ、重さ400グラム位だろうか。赤紫色の木刀で、木目が綺麗に入っている。日本にあった紫檀の木刀に似ているが、両刃の直刀を模しているところがこちらの世界らしいと言える。


 この木刀は、父上からスザンヌさんを通じて頂いたが、忙しい父上とはあまり接点がなく、高位貴族家では年に数度、年始や誕生日等の特別なイベントでもない限り、夕食を一緒に摂ることは無いらしい。ましてや私は1歳3か月の乳児である。朝食でさえ一緒ではない。まあ、ベティの乳が主食の私だから致し方ないが、奥の乳歯がある程度生えたら乳離れしようと思っている。


 そんなことより、まずはこの木刀だ。私にとっては、かなり重い。長さだって私の肩位まではある。おそらく思いっきり振ったら、反動ですっ転んでしまうだろう。最初は、しっかりと型が出来るようにゆっくり振ることにしよう。


 取り敢えず、正眼に構えてみる。うん、重さで前のめりになりそうだ。それでも、まっすぐ木刀を振り上げるのと同時に右足を前に出し、頭の後ろまで振り上げた木刀を振り下ろすのと同時に左足を引きつける。木刀を振り下ろす時、丹田に力を込めて『面』と気合いを入れるのだ。


   「ベン!」


 どうしても、面とは聞こえないだろうが、構うことはない。自分が分かっていれば良いのだ。何度か繰り返して振っていると、不思議な感覚に囚われたのだ。丹田に力を込めていたはずが、何か別のものが丹田付近に集まって来たのだ。この感覚、おそらく魔力だ。現代日本では『気』とか『勁』とか言われる得体の知れない、しかし確実に存在しているであろうと思われるものだ。しかし、それらの存在が物理的な何かをなすことはなく、あくまでも精神的なものだろう。この世界の魔力は、存在そのものが人々に認知されているし、魔力が光になったり炎になるなど物理現象を発生させている。


 今、私の丹田つまり臍の下あたりには確かに魔力が集まっている。それなら、その魔力を木刀に流したらどうなるのだろうか。ほんの少しだけ流し込んでみる。特に木刀に変化はないが、それまでの素振りとは明らかに違う事があった。木刀が軽く感じるのだ。理由は分からない。しかし、これでは、せっかくの素振りが自分の鍛練にならない。この能力は、ここぞと言う時だけ使うことにし、通常の素振りではキチンと筋肉の力のみを使うことにしよう。


  結局、100本程素振りをしたら疲れ切ってしまい、もう寝ることにした。ベティに乳を貰い、オムツを変えてもらってから布製ワンドを手に持ち、木刀を枕元に置いてぐっすり眠ってしまった。

 魔法の適性は、通常人は1つか2つ持っていれば良いそうです。フレデリック君は全属性の適性がありそうです。

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