23 ルッツさんは最強の冒険者のようです
冒険者ギルドでの登録、テンプレイベントが発生します。
私達の冒険者登録が終わったら、ギルド内が騒然となった。どうやらルッツさんのパーティーがAランクになったかららしい。私はよく知らないのだが、スザンヌさんみたいな新人が、
Aランクパーティーに入れるなんてあり得ないらしいのだ。1人のモヒカン刈りの男が、私達の方に近づいてきた。
「おい、てめえ。前は凄かったようだけど、ずっと活動してねえくせにおかしいじゃねえか!」
ジョアンナさんが、その男に注意する。
「ルッツさんは、元々Aランクパーティー『風の旅団』のリーダーだったのです。今回、新パーティーを結成したのですから、当然、ランクはAとなるのです。」
「ふざけるな。実力なら俺達の方が上だろう。何なら、今、勝負してもいいんだぞ。」
ルッツさんが、ニヤリと笑った。なんか嫌な気がしたが、黙っていることにした。ルッツさんが、その男達に話しかけた。
「じゃあ、一番分かりやすい方法で決めるか。我々のパーティーと勝負だな。」
「ルッツさん、宜しいんですか。こちらの『竜のアギト』は、Bランクパーティーで最上位なんですよ。パーティー戦なんか無理です。」
「それは、やってみなくちゃ分からんだろう。」
結局『竜のアギト』と、勝ち抜き戦になった。勝ち抜き戦って、こちらはルッツさんだけだし、向こうは6人パーティーだ。どうやって戦うんだろうか。幾らルッツさんが強いと言っても、相手も一流の冒険者だ。万が一が無いとは限らないだろう。
皆でギルドの裏の鍛錬場に向かう。勝負は、勝ち抜き総当たり戦だ。勝つと、そのまま残って次の相手と戦う。最後に勝ち残ったパーティーの勝ちだ。こちらはルッツさん1人。向こうは先峰が完全装備のタンク、次鋒がアーチャー(弓手)、中堅が魔導士、四将が斥候、副将がテイマーで大将があのモヒカン刈りの戦士だ。さすがBランクパーティーだ。バランスが取れている。これはルッツさん、苦戦しそうだな。早速、試合が始まる。武器は、模擬剣や鏃抜きの矢だ。魔法は、致命傷にならなければ自由と言うルールだ。
私とスザンヌさんは、周りの見物人達の輪の中で見ている事にした。進行と審判はジョアンナさんだ。ジョアンナさんが、試合場の中央に立って両者の出場を促す。
「それでは、両者、中央へ。」
『竜のアギト』チームはフルアーマー装備のタンクの男が大きな盾を持って前に出て来る。ルッツさんは、え?出てこようとしない。
「フレ坊ちゃん、前に出て。」
はあ?私?それっておかしくないですか?私、ポーターですよ。荷物持ちですよ。それに4歳児ですよ。
ルッツさんが、私用のショートソードを持って近づいてきた。渡してくれる時、『力は半分でお願いしやすぜ!』って、あり得ませんけど。しょうがなく、中央の開始戦(引かれてないけど)付近まで進む。会場からは驚きと呆れの声が漏れて来る。
「あのう、ルッツさん。この坊やで良いんですか?」
「ああ、問題ない。ポーターだって立派なウチのメンバーだ。」
仕方がない。刃引きのしてある両刃のショートソードを両手の青眼に構える。ジョアンナさんの『始め』の号令で、思いっきり打ち間に飛び込んで、タワーシールドの上から突きを打ち込む。相手が盾ごと吹き飛んでしまった。盾が大きく歪んでいる。あれ、どうしたのかな。盾をしっかり構えていなかったのかな。
ジョアンナさんの右手が上がって、『勝者、ルッツさんチーム。』と宣言した。
場内がシーンとしてしまった。次の選手は、アーチャーだ。既に左手には3本の矢を携えている。こんな至近距離では、狙う必要もないだろう。ジョアンナさんの『始め』の合図で、相手は大きく下がって距離を空ける。遠距離攻撃の鉄則は、近接戦闘を避ける事だ。続け様に3連射を撃ってきた。私は、ショートソードで全ての矢を打ち払い、相手との間合いをつめる。驚いた相手が次の矢を準備する前に、右小手を打ち込み、弓を持てないようにした。折れてはいないと思うけど、ヒビ位は行ったかな。
ジョアンナさんの右手が上がって、『勝者、ルッツさんチーム。』と宣言した。
次の中堅戦の相手は女性魔導士だ。少しワクワクしている。今まで攻撃魔法を受けた事がないので、良い勉強になるだろう。相手の魔導士さんは、ジョアンナさんの『始め』の号令とともに魔法が放てるように、最初からブツブツと呟いている。試合が始まった。すぐに相手のワンドが振り下ろされ、赤い炎の玉が私に向かって来る。避けても、至近距離で爆発されては終わりだ。私は、そっと水魔法を刃に纏わせ、炎の玉を上に弾き飛ばした。そのまま相手の間合いに入り込み、相手の足を蹴りで払って、倒れた相手の喉元にショートソードの剣先を当てる。
ジョアンナさんの右手が上がって、『勝者、ルッツさんチーム。』と宣言した。場内がシーンとしている。この試合の異常さに気が付いたのだろう。
4歳児が、次々とBランク冒険者を倒しているのだ。どう考えてもおかしいと思うだろう。私は、段々楽しくなってきた。おそらく、私が幼過ぎて、相手も全力が出せないうちに勝負が決まってしまうのだろう。でも、理由がどうあれ勝てる時に勝つのは剣士としての常識だ。
次の相手は、斥候つまりスカウトだ。相手は細い短剣2丁を両手に持ってスピード勝負を仕掛けるつもりらしい。勿論、受けて立つ。『始め』の合図で、相手は姿勢を低くし、両手剣を後ろに隠して走り込んでくる。私も、ショートソードを脇構えにして、相手の右横を全速力で通り過ぎる。そのままショートソードを切り上げて相手の右胴に打ち込む。私が通り過ぎて、すぐに反転、相手に対して残心を示すと、相手はそのまま気を失って倒れ込んでしまった。
ジョアンナさん、勝者の宣言、忘れてますよ。
「フレ君、今、何をしたの。お姉さん、見えなかったんだけど。」
はい、瞬動を使って0秒ですり抜けました。本当は、1000分の6秒位かかっているんですけど。
次の相手はテイマーのおじさんで、魔獣は牙の大きなファングウルフだ。通常のオオカミよりも2回りほど大きく、下顎から生えている犬歯が極端に伸びて口からはみ出ている。うん、格好いいな。試合開始と共に、その魔獣が、姿勢を低くして飛びかかろうとしたので、私が体内の魔力を体から迸らせて相手に向けると、戦意を無くしたのか尻尾を丸めて両足の間に挟み込んでしまった。私が、一歩近づくと、その場で腹ばいになって降参のポーズだ。
キュイーン!
「勝者ルッツさんチーム。」
勝利者宣言を聞いて、最後に残ったモヒカン男が抗議してきた。私が勝ち続けるのはおかしい、ルッツさんが何かしているに違いないと言うのだ。完全に言いがかりだが、そんな事で争うのも下らない。ルッツさんは、この場から出て行ってもらう事にした。
これで最後の試合だ。これでは冒険者の実力を見るという初期の目的が果たせない。次のモヒカン男は、私と同じ剣士だ。相手の実力をじっくり見る事にしよう。
試合が始まった。相手の獲物はロングソード、両手剣だ。最初から相手は大きく振りかぶって打ち込んでくる。あまりの大振りに呆れてしまうが、まあ、相手に威圧をかける位には有効だろう。相手の振り下ろしを剣の鎬を擦り上げるだけで、相手の剣は大きく左に外れてしまう。慌てた相手は。すぐに横薙ぎに胴を払いに来るが、ショートソードで切り下ろすと共にガラ空きの右小手に軽く刃を当ててやる。
そんな事にお構いなく、ブンブンとロングソードを振って来るが、受けて流して切り払い、隙を見つけては軽く相手の右小手に剣を当てておく。幾ら刃引きの剣といえども鉄製の模擬剣だ。相手の右小手は皮膚が破れ、剣を振るごとに血飛沫が飛び散っている。
そのまま何合いや十数合打ち合っただろうか。周囲から『ひでえ!』、『もう、勘弁してやれよ!』との声が聞こえてきた。チラッとジョアンナさんの方を見ると、私の気持ちを察したのか、『やめ!』の合図が出た。中央の開始戦付近まで戻ると、
「両者、引き分け。1対5でルッツさんチームの勝ちです。」
とジョアンナさんが宣言した。相手チームのリーダーは、その場で崩れ落ちポーションを右小手にかけられている。うん、久しぶりの勝利者宣言を聞いた。試合場に戻ってきたルッツさんから『お疲れさん。』と、声をかけられて、『あ!スザンヌさん。』と思い出したら、スザンヌさんは怖くて見ていられないとレストランに隠れていたらしい。まあ、私が負けたらルッツさんが出る予定だったので、スザンヌさんが試合に出ることはないんだけどね。
鍛錬場には、ギルドのお偉いさんも来ていたらしく、後で執務室に来るようにとのことだった。4階建てのギルドの1階は、受付とレストラン、2階は講堂と研修室、3階がギルド事務室と更衣室、4階が冒険者用の宿泊施設になっている。宿泊施設も大部屋は無料だが雑魚寝が原則の部屋で、個室は1泊銀貨4枚だそうだ。王都の簡易旅館でも素泊まり銀貨7枚が相場だから安いことは安いのだろう。
ルッツさん達3人で、3階のギルドマスター室に行くと、中は結構豪華な部屋になっていた。でもデスクの上に乱雑に積まれた書類が高級感を台無しにしている。
ギルドマスターは、50過ぎの渋いおじさんで、領地なしの伯爵に叙爵されているらしい。いわゆる法衣貴族だ。私も正直に自己紹介をしたが、事前にルッツさんの勤務先を把握していたみたいで、特に私の身分に言及することはなかった。
ギルドマスターは、全国の冒険者ギルドのトップに当たる人で、お名前を、
ギルベルト・フォン・レオパルト
と自己紹介していた。ギルベルト卿が、今日の試合についての講評をしてくれた。まず最初のタンク戦で、あのタワーシールドをへし曲げるなど通常の力では絶対に無理だと言われた。次に、飛んでくるファイアボールを剣で弾き飛ばすなど初めて見たそうだ。次に、あんな近距離で放たれた矢を切り落とすなど、普通の動体視力では絶対に出来ないらしい。その他、いろいろ言われたが、最後に、あのワンコに何をしたのか聞かれた。はっきり言って、何もしていない。魔力を練っただけで、降参されてしまったのだ。魔獣を見た事がなかったので、魔獣ってあんなものなものだと初めて知った。あ、魔獣って可愛いかも。
4歳児が、そんなに強い訳ないと思うのは、正常な神経です。
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