20 婚約式って大変なようです
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婚約式って、結婚式のようなものですが、どうしてそこで戦闘が始まるのですか?
今日は婚約式の日だ。季節は8月と一番暑い時期だが、王都ではカラッと乾燥した感じの夏なので、気温ほど暑さは感じない。婚約式は、王城のレセプション会場で行われるが、国王陛下主催のパーティーが開かれる大広間、王太子殿下や公爵閣下、宰相が主催される中広間、それに閣僚や高位貴族が主催する小広間があるが、今日の婚約式は中広間で行われる。
私達は、それぞれの王都屋敷で支度をして、馬車で王城に向かう。メルボルン公爵邸は、元々王城の敷地内にあるのだが、やはり馬車で向かうそうだ。
私達ランカスター家は、
父:ヘンリー・フォン・ランカスター
母:カトリーヌ・フォン・ランカスター
長兄:ジョルジュ・フォン・ランカスター
次兄:グレンベル・フォン・ランカスター
の4人と私が馬車に乗って王城に向かう。
スザンヌと各侍女、従者達は別の馬車だし、ゾリゲン団長以下30騎の騎士達は騎馬で随行する。
メルボルン公爵家は、当主は勿論のこと、バーン・フォン・メルボルン卿とクリスティーヌ様が出席なさるそうだ。クリスティーヌ様は、最近、とても調子が良く食欲もおありと伺っているが、3日毎の治癒の度に、どこかの臓器が結核菌に侵されて発症しているので油断は出来ない。11月になればストレプトマイシンの治験も終わる予定なので、投与さえすれば劇的に良くなるはずだ。
王城は、白色大理石作りで一見5階建てのように見えるが、東西南北そして中央の尖塔の高さから10階以上の高さがあるだろう。尖塔の先端には王室旗が翻り、中央の尖塔には国旗がはためいている。正面の車止めに馬車を停めて降車し、10段ほどの大階段を登ると、お城の1階のエントランスだ。並んでいる騎士達の騎士服の色から、彼らが王城警備騎士団だと分かる。私達に捧げ剣の騎士の敬礼をして迎えてくれた。
お城の中に入ると王室付きの侍従・侍女達が控え室に案内してくれる。ここで、本日の招待客が全員来城するのを待つのだ。王城で行われる王族が臨席される行事には、招待された貴族は、よほどの理由がない限り参加が義務付けられている。本日の招待客は両家を合わせて300人程で、その300人には招待者の家族は含まれていないので、最低でも6〜700名は参加するだろう。
予定の時間になった。会場の中央扉が開けられる。私とベス嬢が並んで入っていく。私の左腕にベス嬢が右腕を絡ませている。メンデルスゾーンの『結婚行進曲』が奏でられる中、中央正面奥の一段高くなった席に座られている国王陛下と女王陛下の前まで進み、その場でしゃがみ込む。
進行の侍従が、声明文を読み上げる。
「メルボルン公爵嫡孫エリザベス・フォン・メルボルン・アスラン嬢様と婚約者ランカスター侯爵3男フレデリック・フォン・ランカスター卿」
うん、あくまでも私は婿殿ですからね。メインディッシュの添え物の温野菜ですから。
「面を上げよ。」
顔を上げて、陛下の足元を見る。
「2人の婚約を認める。」
私達の婚約が正式に認められた瞬間である。これで婚約式は終わりである。国王陛下夫妻が壇上から下がると、他の王族達も続いて別室に下がって行く。これから披露宴パーティーだ。侍従達が、ひな壇を片付け、テーブルをセッティングする。侍女達が料理と飲み物を運び込んでくる。楽団が静かな室内音楽を奏でてくれる。
いつの間にか、国王陛下をはじめ王族達も室内に入って来ていた。日本みたいに乾杯の音頭とか来賓挨拶などはなく、そのまま歓談の場になる。私達は、最初に国王陛下に本日のお礼をしに行く。私達がお礼をしないと、他の貴族達が国王陛下に挨拶ができないしきたりらしい。
国王陛下の前に行き、私は貴族の礼、ベス嬢はカーテシーをする。
「国王陛下、本日はお忙しいところ、私達のためご臨席賜り、誠にありがとうございます。この御恩に対し、永遠に変わらぬ忠誠をお誓い申し上げますので、ご鞭撻のほどよろしく申し上げます。」
「もうち上げまちゅ。」
「うむ、フレデリック、そちは幾つになる?」
「4歳にございます。」
「若い、いや幼いのう。その歳では、婚姻の何たるかも分からないであろうに。」
何て答えて良いか分からないので、黙っていたところ、皇后陛下から、
「あらあら、お二人が困ってらっしゃるわよ。それにフレデリックちゃん、この子、強いらしいわよ。」
え?何の話ですか?もしかして、あの盗賊征伐のこと、バレてます?
「母上、私も聞いたのですが、どうも信じられません。ウチのダルシアと模擬戦をさせても構いませんか。」
この男の子が、王太子なのだろう。年は13歳、生意気盛りの年齢だ。ダルシアという人は、近衛騎士団の団長で、我がランカスター騎士団のゾリゲン団長が近衛騎士団を辞める理由となった人だ。確か、3公爵家の一角、ブレーメン公爵家の二男だったはずだ。
「アンドレイ、幾ら何でも、4歳の幼児を7剣聖の1人であるダルシアと戦わせる訳には行かないだろう。」
「いえ、父上。戦わせるのではありません。剣の腕前を見るだけです。」
「うーん。フレデリック、そちはどう思う。」
「陛下のご意向とあれば異存はありません。むしろ7剣聖の一人と言われるダルシア卿と剣を交えることが出来ますれば、末代までの誉。是非ご指南を賜りたくお願い申し上げます。」
国王陛下は、少し吃驚していたようだ。4歳とは思えぬ態度と言葉使い、それに剣聖と模擬戦をやりたいなど、普通の幼児では絶対にあり得ないことだ。
進行の侍従から模擬戦開始の案内があり、会場の中央が大きく開けられた。メイドさん達と侍従さん達はテーブルを片付けるのにてんやわんやしている。王太子殿下もそういうところを考えれば良いのに。
中央に出てきたのは白い騎士服を着た30前の男つまりダルシア卿だ。ひと目見ただけで、この男の品性が分かってしまった。釣り上がった狐目、大きく曲がった鷲鼻、何よりも薄い唇がこの男を貧相に見せている。
この模擬戦の得物は木刀、ダルシア卿は少し長めの80センチの木刀、対する私は50センチ強のショートソードを模した木刀だ。お互いに一礼をして正面に立つ。ダルシア卿は、右半身で、右手に持った剣を前で振っている。
対する私は、両手で持って、青眼に構える。じっと相手の動きを遠山の目付で追いかける。この男、誰にもバレないように無詠唱で身体強化を掛けている。とても4歳児に対する姿勢とは思えない。そもそもゾリゲン団長と比べると、同じ剣聖かと疑いたくなるほどレベルが低いのだ。しかし、それならコチラもやりやすい。大きく息を吸い、気を身体に漲らせる。
「参る。」
言葉と同時に瞬動で打ち間に入る。相手のガラ空きの右小手に軽く、本当に軽く打ち込んでみる。ところが見事に小手が決まり、ダルシア卿は木刀を床に落としてしまった。
「ま、待て。今、お前は何をした。魔法を使ったろう。」
「いえ、我がランカスター騎士団ゾリゲン団長から教わった秘伝『瞬動』を使っただけです。魔法は一切使っておりません。何でしたら、宮廷魔導士殿にご確認を。魔力の痕跡があれば、魔法を使った証拠でしょうから。」
会場内がシーンとしている中、私のボーイソプラノの声だけが響き渡る。しかし、それで納得する位なら、騒ぎ立てたりしないだろう。
「魔法を使わなくても、スキルを使ったら、やはりズルだろう。正々堂々、力と技のみで勝負すべきだ。」
どの口が言うかと思ったが、ここは定番通りに、
「分かりました。それではスキルも使わずに、正々堂々と稽古をいたしましょう。あのう、どなたか審判をお願いできますか?」
一般の貴族は、関わり合いになりたくないのか、誰も手をあげない。
「俺がやってやろう。」
青い騎士服を着た30代半ばの渋いイケメンだ。きっと、この人は7剣聖の1人、シュリンガー王城守備団長だろう。その動作には一分の隙も無く、日頃の鍛錬による成果が伺える方だった。
「シュリンガー団長、よろしくお願いします。」
騎士の礼をしながら、お願いしたら、少し驚いていたようだが、すぐにニヤリと笑い、
「おう、任せとけ!」
模擬戦が始まった。今回も、両手剣で構える。そのまま右上段に構えを変える。ダルシア卿はビクンとしてしまったが、すぐに飛び下がり大きく間合いを開いた。
私は、構えを右脇構えに変え、相手を継ぎ足で追う。打ち間に入ると同時に、右下から逆袈裟斬りで切り上げ、剣先が空を切ると、そのまま鋭い突きを繰り出す。ダルシア卿は、盾を持って防御することに慣れているのか、つい、左手を前に出そうとする。その左手を切り落とすように打ち込んで、返す木刀で右胴を撃ち抜く。
ゴキッ!ボシュン!
あ、左手が砕けたね。後、肝臓が破裂したかも知れない。まあ、王室には治癒魔法師がいるだろうから、あまり心配していないけど。
「それまで。勝者、フレデリック卿。」
開始戦に、中段の構えのまま戻り、そこで納刀してから、3歩下がって一礼して、その場で回れ右をした。
会場内から、拍手がパラパラとしていたが、国王陛下が、
「見事、天晴れじゃ!」
と言って、大きな拍手をしたので、会場中が割れんばかりの歓声と拍手に包まれてしまった。
シュリンガー団長が、気を失っているダルシア卿の怪我の程度を見て、
「あーあ、こりゃ駄目だ。もう再起不能かー?坊主、お前、誰に剣を習ってる?」
正式にはセフィロ嬢が剣の師匠なのだが、ここは正直に言おう。
「我が家の騎士団の団長であるゾリゲン卿と副団長のルッツ卿です。」
「カーッ!あの2人か。それで納得だ。で?あの2人に1本でも入れられたか?」
「いえ、未だ未だ力不足で。」
「そうか、うん、そうだな。うん。」
何か、1人で納得していたようだ。ゾリゲンさん、ルッツさん、あなた達、この人に何をしたのですか?
これで、フレデリックの異常さが皆の知るところになったのですが、本人は自覚がありません。
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