2 転生したようです。
いよいよ、本編が始まりました。でも、まだ新生児ですので、チート能力はありません。
真っ暗闇の世界で意識が戻った。声が聞こえる。女の人の声だ。声のする方向を向いてみる。あ、重力もあるみたいだ。背中の感じから、布団の中にいるようだ。おそるおそる目を開けてみる。光が網膜に飛び込んできて、最初は何も見えない。そのうち視界が落ち着いて来て、目の前でニコニコしている女性が見える。自分の母親だろうか?真っ赤な髪の小太りの顔だ。日本人では無い。ヨーロッパ系の顔で、顔中のソバカスがせっかくの美貌を台無しにしている。
「奥様、奥様!目を開けられましたよ。フレドリック様が目を開けられました。」
そう言いながら、その女性は何処かに行ってしまった。どうやら、この家の使用人らしい。暫くすると、何人かの足音がして来た。透き通るような金髪と緑色の瞳をした綺麗な女性が私を抱き上げる。この人が母親だろうか?と言う事は、ここは絶対に日本では無いな。
(貴女が私の母ですか?)
そう聞こうと思って発声したが、口から出て来た言葉は『バブー』だった。まあ、仕方がない。漸く目が開いたばかりの赤子が喋れる訳がない。周りに注意すると、母の近くに誰かいるようだ。視界には入らないが、2人、どうやら小さな子がいるような気配がする。気配?なんだ、それ?気配って、こんなに分かるものなの。意識を配ると、確かに小さな子供が2人いる。母親の前で立っているようだ。そこまで気配って分かるのか。あ、それよりもお腹が空いている方が大事だ。そう思うと、何故か泣きたくなって来た。我慢できない。よし、泣こう。思いっきり泣いてみることにした。
「あらあら、泣き始めちゃった。どうしたのかしら?」
「奥様、フレドリック様は、お腹を空かせていらっしゃるのですよ。ベティ、ベティ。フレドリック坊っちゃまに乳を差し上げて。」
私は、母親から若い女の子に預けられて、乳を吸わせて貰う。少し恥ずかしかったが、そんな事など構っていられない。今は、この空腹を満たすことが最優先だ。乳を吸いながら、そばに寄って来た子供達を見ると、3歳から5歳位の男の子だ。上の子は、グレーの髪色で、母には余り似ていない。意志の強そうな目をしているが、将来イケメンになりそうな気がする。下の子は、赤い髪色で可愛らしい顔つきをしている。母親と同じ緑色の眼がクリッと瞬きをしている。
オッパイを吸いながら、部屋の中を見てみると日本の住宅とは全く異なっている。所謂、西洋アンティーク盛り沢山の部屋だ。大きなテーブルとソファセット、シックなキャビネットやチェストなど、日本だと数十万円以上しそうな家具がゆったりと置かれている。
皆が来ている服にしても、母は濃緑色のベルベットドレスで襟と袖口には高級そうなレースが飾られている。髪型は、サイドアップにしていて、緑色の宝石のついた髪飾りをしていて、今日は結婚式ですかと聞きたくなってしまう。私に乳を飲ませている女性は、15歳位だろうか。丸顔の可愛らしい顔をしているが、来ている服は、まるでナイチンゲールのような服装だ。こんな若い子が乳母をしているなんて信じられないが、この世界では普通のことなのかもしれない。
私達の側には、先程の年配の女性が立っているが、彼女はどこから見てもメイドと分かる黒色のメイド服に、白色のエプロンを付けている。さすがに、秋葉原のようにフリル付きのエプロンではないが、清潔かつ機能性重視のエプロンと言う感じだ。
きっと私の兄達だろうが、この2人の服装は、まんま絵本に出てくる小公子だ。紺色ベースのベルベットジャケットに半ズボン、白色タイツに黒革靴、髪型は上の子は肩までのおカッパ、下の子は短めのツーブロックだ。
そんな風に、周囲の状況を確認しながら乳を飲んでいたら、いつの間にか意識を失っていた。
◆
私が生まれた生まれた家は、侯爵家いわゆる高位貴族家で家名はランカスター、私はその家の3男で名はフレデリック・フォン・ランカスターとなる。この国はアスラン王国と言うそうだ。この国の貴族制度は、王族と王族の正当な王位継承権を持つ公爵家、王国建国当時から国の重鎮を司っている7大侯爵家、国境警備を任され独自の騎士団を編成保持している辺境伯爵、中位貴族の伯爵、下位貴族の子爵と男爵、貴族として扱われるが原則領地を持たず子孫に継承が出来ない騎士爵と準男爵がある。騎士爵は王国騎士しか叙爵される事はなく、辺境騎士は、あくまでも辺境伯が任命権者であるため、貴族としての優遇措置はないようだ。準男爵は、大商人や大規模農家など高額納税者や王国政府内で永年勤続で表彰された者が、叙爵されるようだ。
ランカスター家の領地は王都の南側に広がる広大な田園地帯で、穀物以外にも酪農と果樹栽培が盛んな土地柄だ。7大侯爵家の中でも王都に接続していることからも最も王家の信頼を得ており、王室の守り刀としての位置付けである。現在、父のヘンリーは王国政府の軍務7大侯爵家卿に任じられており、王国騎士団の命令指揮権の他、国防の責任者として辺境伯軍への統括指揮権を有している。
母カトリーヌは、父の最初の妻が長男を産んだ後、急逝してしまい、その後添えとして南部のブレンボ辺境伯家から嫁いできた人で、当時、まだ15歳だったそうだ。王都の貴族院学校卒業後直ぐに嫁いできたそうで、日本では考えられない。いや、日本だったら犯罪だろう。母は、武門の代表として常に鍛練を欠かさない父ヘンリーとは全く違い、おっとりとしていて、いかにも高貴な令嬢という雰囲気で、毎日、誰かのお茶会や慰問会に参加しているようだ。高位貴族家では、王家と同じく、生まれた子供は自分では育てず、乳母や侍女が育て上げるのが普通のようだ。当然、子育ての知識など有しておらず、日に2〜3回、子供の様子を見にくる程度だ。
長兄のジョルジュ兄は、現在5歳、間もなく6歳になるそうだ。先の国王の王弟殿下メルボルン公爵家の御息女から降嫁して来たマリアンヌ様で、年は父と同じと言うから、生きていれば26歳か27歳だったろう。元々お身体が弱く、お子を儲けるのは無理と言われていたそうだが、どうしても父の子を産みたいと、無理をしたみたいだ。その無理が祟って、ジョルジュ兄のお誕生日を迎える前に命の火が燃え尽きてしまった。
父は、後添えをもらう気などなかったが、生母の血を継ぐジョルジュ兄の病弱が予想されることを危惧した親戚関係にあったブレンボ辺境伯が無理矢理、母を送り込んだ次第だ。それかで生まれたのが次兄のグレンベル兄だ。現在3歳で、見た感じおっとりとしている。話し方も、少しゆっくりだが、それは母もそうなので血筋だろう。
貴族家の次男は、長男のサブという立場で、長男に男子が生まれるまでは、別家を建てることはなく、長男の領地運営を手伝うか、王国政府の役人や騎士になるのが普通だ。将来的には、高位貴族の養子に行くか、騎士爵や準男爵に叙爵されて年金生活を送るのが普通らしい。
3男である私は、15歳で王立の貴族院学校か騎士学院を卒業後は、家を出て自立の道を探さなければならない。父の弟達は5人いるが、次弟は王国騎士団の王都守備団長をしている。王国騎士団は、国王陛下と国王のご家族をお守りする近衛騎士団、王城内外で王城を警備する王城守備団、王都の外部から敵の侵入を防ぐ王都守備団がある。その他、王都内の治安を維持する王都警護隊があるが、この警護隊は軍務卿である父の指揮下ではなく宰相直轄部隊だ。日本で言う警視庁みたいな役割だと思えばいいだろう。
これらの知識は、私が2歳の誕生日を迎える頃までに乳母やメイド達の茶飲み話の中から聞きかじったもので、きちんとした家系や王国内の貴族事情は、5歳になって家庭教師が付いてから学ぶそうだ。
◆
この世界と元の世界の大きな違いは、魔法の有無と亜人と呼ばれる人型の生物がいることだ。亜人の種類は、広範囲に渡り、エルフ族、ドワーフ族、魔神族、獣人族が代表的で、その他に魔物として扱われるが二足歩行で道具を使い、高レベルの魔物は言葉も話すそうなので亜人との区別はよく分からない。
代表的な人型魔物にはゴブリン族、コボルト族、オーク族、オーガ族、サイクロプスなどの巨人族、バンパイア族、ハーピー族、サハギン族などがいる。
魔物と動物(野獣)の違いは良く分からないが、魔物は家畜化する事ができないなど幾つかの相違点があるらしい。まあ、詳しいことは追々調べていけば分かるだろう。兎に角、今は食べることと寝ることが仕事と割り切って、もう寝ることとしよう。
自分がどこの誰なのか、それを知るのも大変です。
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