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12 いじめっ子がいるようです

 今回、この物語のヒロインが初登場です。でもねえ、まだまだ先が長いです。

 祝賀会が始まった。ジョルジュ兄は父上達と一緒にいるが、私とグレンベル兄はパーティー会場に隣接した部屋にいる。ここは子供達専用部屋のようで、壁沿いにはスイーツやドリンクが置いてあり、お腹が空いている子はサンドイッチや果物を食べるようになっているようだ。


 グレンベル兄は、大勢の子供が苦手のようで、壁沿いの隅っこにじっと立っている。部屋の中心には、グレンベル兄より少し大きな男の子達が集まっていて、周りを見ながらケタケタ笑っている。少し離れた所には着飾った女の子達が集まっていて、こちらはヒソヒソと何やら話し込んでいる。皆、私よりも年上のようで、私だけ場違い感が半端無かった。


 一番年長者らしい男の子がグレンベル兄を手招きしている。グレンベル兄が気が付いて、嫌々近づいていくと、その男の子が大きな声で、


  「グレンベル、この部屋には何も遊ぶものがねえじゃねえか。去年もつまんなかったけど、今年もダメだな。あー。」


 

と言って、仲間達と笑っている。グレンベル兄は、顔を真っ赤にして俯いたままだ。女の子達も、面白そうに2人のやりとりを見ているようだ。部屋の周りには、大勢の子供たちもいたが、関わり合いになりたく無いモードの子達ばかりだった。


  「おい、グレンベル。侯爵家なんだから、なんか面白いものを見せてくれよ。なあ。」


  「そうだよ。グレンベル様、何かやって見せてくださいよ。」


 取り巻きのうちの1人は、爵位の低い貴族の子のようで、言葉こそ敬語を使っているが、やはりグレンベル兄を馬鹿にしている雰囲気がありありと分かる口調だ。僕は、グレンベル兄のそばに行き、


  「グレンベル兄、折角だからヴァイオリンを弾いて見せたら?」


  そう言って、部屋の入り口付近に待機していたスザンヌさんに目で合図を送る。スザンヌさんは、すぐにグレンベル兄のヴァイオリンを取りに行った。さっきの意地悪な子は、面白くなさそうな顔で、


  「ヴァイオリンなんか誰でも弾けるんだよ。全然面白くねえじゃねえか。」


 と言って、さらにグレンベル兄を馬鹿にしようとした。少し頭に来た私は、その意地悪な子に魔力でイタズラしてやろうかと思った時だ。突然、女の子の声が聞こえた。


  「あら、わたちは聞きたいでちゅ。きっとおじょうじゅでちゅわよ。」


 声の主は、どう見ても私より小さい女の子で、薄ピンク色の髪の毛と紫色の瞳が特徴的な子だ。喋り方から、私より1年以上は年下だろう。


 突然、自分の意見を全否定された事に腹を立てたさっきの子が、その女の子の前まで進んで、いかにもチンピラのように顔を低くして、


  「お前、偉そうにして。誰だ?」


と脅し口調で問い詰めて来た。


  「あら、レディに名前を聞くときはご自分から名乗るのがマナーでちゅ。しょんなこともちらないの?」


 この子、絶対2歳程度だと思うんだけど。


  「はあ?俺様はリンゲル伯爵の嫡男、ブロン様だ。そこにいるグレンベルのように、サブとは違うんだよ。」


 はあ?伯爵家嫡男?それで、この態度?こいつが家督を継ぐ頃、この侯爵家を継いだジョルジュ兄にどう扱われるか知っているんだろうか。あまりのバカさ加減に呆れ返ってしまう。


  「あら、リンゲル伯爵と言えば、代々、王室で法令作成を担当している法務官でちゅよね。でも領地は無かったはずでちゅ。あ、法衣貴族でちゅね。」


 あーあ、言っちゃった。『法衣貴族』って、どちらかと言うと領地持ち貴族よりも格下に見られるし、官職を失うと爵位も失うことがある位、貴族としては特権が薄いことから、そのように呼ばれることを嫌う者が多いのだ。


  「くそ女。俺は名乗ったんだ。お前も名乗れよ。」


  「わたちを『くそ女』と呼んだでちゅ。わたちの名前はくそ女でちゅ。クソ馬鹿小僧。」


 あ、子供のケンカだ。いや、リアル子供だから『幼児のケンカ』だ。このレベル。


  「おとなしくしてりゃ、図に乗りやがって。」


 そう言うと、ブロンがその女の子に掴み掛かろうとした。私は、咄嗟に魔力で女の子を囲み、ブロンの手を跳ね飛ばしてやった。何も無い空間から攻撃を受けたブロンは、吃驚した顔をしていたが、何か得体の知れないものを感じたのか、涙目になっている。それよりも、私が魔力を流した途端、その女の子は私の方を見て、目を大きく見開いていた。


 え?魔力が見えた?そんな筈はないんだけど。一定の閾値を超えて濃縮すれば自然発光することがあるけど、今回は可視化するようなレベルの濃さじゃあないんですけど。今までの感じだと、魔力を見る事ができるのは私だけだったんですが。


 そうこうしているうちに、グレンベル兄のヴァイオリンを持った専属次女が部屋の中に入って来た。私は、グレンベル兄を部屋の真ん中に引っ張り出して、ヴァイオリンと弓を渡した。さあ、紹介だ。


  「皆様、当家1番のヴァイオリン奏者、グレンベル・フォン・ランカスターがヴァイオリンを演奏します。曲目は・・・・、グレンベル兄、何?」


  「G線上のアリア。」


  「だそうです。それでは、どうぞ。」


  グレンベル兄のヴァイオリン演奏が始まった。この曲は、日本でも聞いたことがある。確か、『バッハ』が作曲した曲だった筈だ。それが何故この世界にも存在しているのか?まあ、私が前世の記憶を持って生まれる位だ。そんな事があっても可笑しくはないだろう。


 そんな事をつらつら思っていると、さっきの子が私のそばに来た。うん、身長が私よりも15センチは低い。どう見ても3歳は行っていないだろう。その子が、少し背伸びをして私の耳元で、


  「ねえ、あなた。さっき何をちまちた?魔法か何かをちたでちょ。


  「え?何のこと?私、いや僕、何もしていないよ。」


 ここは、いかにも何も知らない幼児のフリをしなければ。でも、この子にも魔力が見えると言う事は、他にも魔力が見える者がいると言う事だ。気をつけなければ。


  「ふーん、あなた、お名前は?わたちはエリザベス、エリザベス・フォン・メルボルン・アスランでちゅ。」


 おっと、ジョルジュ兄の母君の実家の方でしたか。先の国王陛下の王弟殿下が公爵家をお立てになり、その2番目か3番目の御息女マリアンヌ様がジョルジュ兄の母君だ。と言う事は、この子はジョルジュ兄の従兄弟に当たるわけだ。どおりで、ジョルジュ兄に似た感じがする訳だ。しかも『アスラン』を名乗っていると言う事は、王弟殿下の嫡男が父親、つまりメルボルン公爵家の直系息女となるのだろう。


  「わ、えーと、僕はフレデリック。フレデリック・フォン・ランカスター。以後、お見知り置きを、レディ。」


  「貴方がフレデリックね。そうだと思ったの。わたちのことは『ベス』と呼んでね。」


  「はい、いや、うん。分かった。ベス。僕のことは『フレ』と呼んでいいよ。」


  「えー!フレ君?あまり可愛くないでちゅ。フィレ君がいいな。ね、フィレ君。」


  「うん、何でもいいよ。」


  「えー!フィレ君、なんか、ちゅめたいでちゅ。将来の婚約者に対して。」


 爆弾発言だった。何、その話。全然、全く聞いてないんですけど。貴族の間では、生まれたと同時に婚約者が決まる事もよくあるそうなのだが、それでも、全く知らないって。うーん、どう考えても、将来、平民予定の私が公爵令嬢を嫁にするなど考えられない。あ、そう言えば・・・・。


  「ねえ、ベス嬢、君にお兄さんか弟っている?」


  「いやでちゅ。ベスって呼んでくだちゃい。それと、わたちに兄弟はいません。一人っ子でちゅ。」


 これで納得。私は、今のところ、『お婿さん候補』な訳ですね。でも、決めるなら、事前に話して貰いたかったな。と言うよりも、この子のさっきの態度、確か、相手を『クソ馬鹿小僧』って呼んでいたよね。とっても将来が心配なんですけど。


 そう言えば、さっきのガキ大将、どこに行ったのかな。と思ったら、ブロン君がこっちに近づいて来た。


  「おい、クソ女、チビのくせに生意気だぞ。お前なんかに絶対負けないからな。さっきは、変な技で吃驚したけど、俺は魔法が使えるんだぞ。見てろ。」


 ブロン君、胸の内ポケットから指揮棒みたいなワンドを出して来て、ベス嬢に向けて詠唱を始めた。


  「火の精霊よ。その力を我に示したまえ。大いなる力を顕現せよ。ファイア。」


 へえ、ファイアの詠唱をフルに言うのって恥ずかしいな。それに薄ピンクのか細い魔力がワンドの先端にチロチロ見えるだけだし、これじゃあね。


  「ファイア。」


 ブロン君、もう一度言ったよね。ようやく100円ライターの炎位の大きさの火がワンドの先にポッと出来た。


  「どうだ、この『地獄の業火』でお前を燃やし尽くしてやるぞ。」


 いや、それ無理だから。そんな炎で人を燃やし尽くせないから。それに、ほら。僕は、口を尖らせて炎を『フッ!』と吹き消した。本当は、魔力を少しだけ吹き付けたんだけど。ようやく出した炎を消されたブロン君、顔を真っ赤にして


  「てめえ、何しやがる、俺の『地獄の業火』を消しやがって。今度は、お前と勝負だ。」


 ブロン君、私の胸倉を掴んできた。ああ、私の方が小さいから馬鹿にしているのね。まあ、私よりも15センチ位背が高いし。でも、私も、元警察官。逮捕術くらい使えるのですが。


 私の胸を掴んでいるブロン君の右腕に、私の両手を下から包むように挟んで掴み、そのまま右足を大きく引いて、ブロン君の右肘を私の左脇に挟み込む。そのままグイッと引き落とすと、関節を決められたブロン君、堪らず腹ばいに倒れ込んでしまった。警視庁逮捕術『脇固め』だ。そのまま後ろにブロン君の腕を捻り上げて関節を外してもいいんだけど、可哀想だから手を離して上げる。あ、ブロン君、完全に戦意喪失、泣き出しちゃった。まあ、子供のケンカだからいいか。


 何事もなかったようにベス嬢の側に戻ると、顔を赤くしたベス嬢が、


  「フィレ君、ちゅごいでちゅ。かっこいいでちゅ。」


 とブツブツ言っている。丁度グレンベル兄のヴァイオリン演奏が終わって、みんなから盛大な拍手を貰っている時だったので、私は再度部屋の中央に行き、


  「盛大なる拍手、ありがとうございます。それではこの後もご歓談をお楽しみください。」


 と挨拶をした。それからは、ベス嬢のスイーツ爆食いに付き合わされて、胸がムカムカしつつ、無事(?)新年祝賀会が終わった。

 フレデリックは、まだ幼児です。異世界転生特典があっても、まだ幼児です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そうこうしているうちに、グレンベル兄のヴァイオリンを持った専属次女が部屋の中に入って来た。 →侍女 「えー!フレ君?あまり可愛くないでちゅ。フィル君がいいな。ね、フィレ君。」 →…
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