11 4歳の新年は、皆で祝うようです
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貴族家での新年は、家族揃ってのディナーのようです。勿論、お雑煮やお年玉はありません。
今日は、1月1日、日本のお正月だが、この世界では『始まりの日』というらしい。創造神テスラ様がこの世界を作った日だとされている。
私は、平均的な日本人らしく、宗教にあまり興味がない。お正月は神社(お寺?)に初詣に行き、節分では豆まきをして、バレンタインデーには貰った義理チョコを食べる。お彼岸、お盆には両親の墓参りをし、命日にはお坊さんにお経をあげてもらう。ハロウインにはバカ騒ぎを眺めながら酒を飲み、クリスマスは、ずっと一人でケーキを食っていた。
そういえば、別れた妻は、今頃どうしているだろう。同じ大学のゼミで知り合い、彼女は水泳の選手だったが、私が警察官になった時、結婚を申し込んだ。お互いに若すぎたのか、結婚して半年もしないうちに別れようということになってしまった。剣道に明け暮れていた私とは生活のサイクルが違い過ぎていたようだ。そのまま、別れてから、彼女が水泳インストラクタとしてテレビに出るようになったことを人づてに聞いたが、もう過去の女性のこととして何も感じることはなかった。
我がランカスター家では、誰かの誕生日と正月元旦には家族全員でディナーを摂る事にしている。両親と兄弟がそろっての夕食は、本当に久しぶりなので、それだけが楽しみだった。しかし、アリスちゃんだけが参加しないのは解せない。貴族家では、テーブルマナーができない間はディナーに参加できないしきたりらしいのだ。そうすれば、子供なりに一生懸命テーブルマナーを覚えるだろうという大人の勝手な理屈だと思うが、まあ、しょうがない。
ディナールームには、正面の父上の席だけが空席で、あとは皆が座っていた。母上は、父上の右隣の席。ジョルジュ兄は母上の向かい側、ちい兄いやグレンベル兄は母上の隣だ。その向かい側が私の席だ。テーブルが大きく長いため、相互の距離がものすごく開いている。今日はシェフ達が腕によりをかけて作ったフルコースのディナーだ。メイド長と家令がドアのそばに控えており、メイドたちや執事たちのサービスをチェックしている。まあ、厳しくチェックしても、今日の料理のほとんどは、この後皆にも振る舞うことになっており、皆の顔もウキウキ顔だ。
父上が部屋に入ってきた。私たち息子一同は立ち上がって迎えるが、母上は座ったままだ。父上から新年の挨拶があってから食事が始まるが、そういえば、今日の朝食時も皆が集まったが特別のイベントはなかった。まあ、メニューもいつもと変わらなかったので、元旦の朝食は普通に過ごすのがしきたりなのだろう。
この世界の料理は、西洋料理に近いものがあるが、調味料が塩と胡椒、それとハーブ類だけなので、味に深みがない。きっと、味噌、醤油がないことが原因なのだろう。また、出汁など旨味調味料もないので、味が淡泊になりがちだ。スープは、野菜と獣の骨を煮込んでいるが、薄味でさっぱりしている。オードブルもサラダとちょっとした干物だけで、見た目もごく普通だ。メインディッシュは魚料理と肉料理だが、煮るか焼くかの2種類の調理方法のみで、食材とハーブでバラエティを付けているだけみたいだ。食後のデザートは、栗の蜂蜜煮と豆の砂糖漬けだが、スイーツが極端に少ないこの世界では、平民には一生口に入らないものだとスザンヌさんが言っていた。
元の世界にいた時も、食事は生きるため、身体を作るために食べるものと思っていたので、グルメとはまったく縁のない生活を送っていた。しかし、この世界に転生してから、卵かけご飯や納豆ご飯を食べたくなるのは日本人の習性なのだろうか。いつか、この世界を旅することがあったら、日本食を探してみるのもいいかも知れない。
食後のティータイムでは、今年の抱負を父上に報告することとなっていた。ジョルジュ兄は、今年の春から、領地に戻り、領地運営を勉強することになっているので、そのことについて思いを語っていた。話の内容は、理路整然としていて、とても9歳とは思えなかったが、あとで聞いたら侍従と侍女がいろいろアドバイスをくれたらしい。まあ、それでもしっかり話せたから大したもんだと思う。
グレンベル兄は、バイオリンの課題曲を弾けるようになって、王都で開かれるコンクールに出ることを目標にしているそうだ。時々聞こえるグレンベル兄のバイオリンは、素人の私が聞いても上手だなと思うくらいだが、コンクールとなるとどうなのだろうか。ちなみに、前の世界にあった楽器で、電気を使わない西洋楽器はおおむね揃っているみたいだ。
私は、まだ3歳だから抱負などないことになっており、欲しいものをいうだけらしいのだが、私は特に欲しいものなどないため、絵本が欲しいといった。この世界の字は完全には読めないが、我が家の蔵書室にある本は専門的な本ばかりで、子供が読むような本は殆どない。スザンヌに聞けば、いろいろと教えてくれるが、スザンヌも色々忙しいようで、ずっと付きっ切りではない。
それで、絵本や子供図鑑みたいなものがあれば字を覚えることができるのではないかと思ったのだ。あと、1年もすれば家庭教師がついて勉強を教えてくれるのだが、その前に色々勉強しておけば役に立つと思うのだ。
父上は、私の希望を聞いて、すぐに買ってくれると答えてくれた。これで本が自由に読めるようになったら、今は全く読めない魔術書を読むことができるようになるだろう。そもそも、この世界の魔法がどの程度のものか全くわからないが、今までの経験からものを動かしたり、自分を浮かせたりは誰でもできるのだろう。また、魔力を纏って身体能力を強化するのも一般的なようだ。私は、それ以上の魔法がどういうものか、まずは本から覚えてみたいと思ったのだ。
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私の誕生日は2月なので、まだまだ寒い時期に4歳になった。この世界では、誕生日を祝うという風習はなく、4歳の誕生日もいつもと変わらない1日だった。ただ、貴族家では、5歳の誕生日に王家主催のお披露目会があり、嫡男や嫡子は、そのお披露目会に参加するらしい。まあ、私には関係ないけど。そして10歳の誕生日を過ぎた4月に、王家主催の誕生会があり、該当する貴族の子女は全員参加するらしい。いわゆる社交界デビューらしいのだが、この会で婚約を発表することが多く、婚約者も同行できるので、上は17~18歳位から下は生まれたばかりの子まで参加するらしい。まあ、あまりにも小さい子は、乳母に抱かれたままで、名乗りを上げて、すぐに退場するらしいのだが。
と言うことで、ジョルジュ兄は、5歳の時にお披露目会に参加したが、グレンベル兄は何もなしで過ごしている。勿論、私も10歳になるまでは何もないだろう。誰にも言えないが、私の新年の抱負は、魔法を覚えることだ。特に覚えたいと思うのが鑑定魔法だ。常に自分の実力を把握し、弱点を克服することができたなら、剣の道も今以上に向上させることができるのではないだろうか。
幸いな事に、今、私は4歳になる目前だ。70歳まで生きたとして、あと数十年は修行する事ができる。焦る事はない。ゆっくり、ゆっくり力をつけていけば良いだろう。
翌日は、セフィロ嬢やゾリゲンさん、ルッツさんなどが父上に挨拶に来た。後、取引のある大商会の会長や飲食店の店長なども挨拶に来る。侯爵家に新年の挨拶に来るのは、商人にとってもステータスのようで家令の叔父さんやメイド長さん達は大忙しだ。
父が寄親をしている伯爵以下の貴族や王城において軍政に携わっている法衣貴族の方々は、3日の日に挨拶に来る事になっており、その日の夕方は大規模な新年祝賀会となる。私は、今までその会に参加する事は無かったが、今年は参加を許される事になった。普通は、5歳以上の子供が参加出来るらしいのだが、今年は特別に私も参加しろと言われたのだ。理由は分からないが、父上の御命令だ。参加するのはやぶさかではないが、スザンヌさんが年末から張り切ってしまっているのが少しウザかった。まず上着は勿論のこと下着まで新しく誂えたし、髪型だって2回も理髪師を呼んでカットさせたりした。最も面倒だったのは、招待した貴族の名前と役職、派閥、親族、姻戚関係そして髪の色や瞳の色を覚えなければならないのだ。もう4歳にも満たない私が覚えるなんて無理に決まっているのに。この時ばかりは、スザンヌさんが鬼ババに見えてしまった。
それでも受験生だった頃、茨城県つくば市にある国立大学に現役合格しようと短期丸覚え戦術の経験がある私は、暗記術には自信があり、大晦日までには完全に覚えることが出来た。それに副産物ではないが、意味のない貴族の名前を覚えるためにこの世界の文字の全てを覚えることが出来たのだった。
3日は、朝から風呂に入り、最後の仕上げに入った。歯を3回も磨かされ、爪は禿げるのではないかと思えるほど艶出しをされた。食事も簡単につまめる物だけにされて、勿論、食後の歯磨きもOKがもらえるまで磨かされた。
夕方5時には、玄関で使用人達と一緒にお客様達のお迎えだ。流石に、この時ばかりは屋外鍛錬場まで馬車の駐車場に使われてしまった。季節は冬、夕方からグッと冷え込むので、玄関先には大きな篝火を左右に焚いて、寒風が吹き込むのを防いでいた。
招待客は、平民である商家や地主などが一番先で、次に騎士爵や準男爵、その後は爵位の低い者順から来訪してくる。どうして、そんなにうまくいくのかと思ったら、招待状におおよその来訪希望時間が書かれていたのだ。そのため我が屋敷前の路上は、時間調整する馬車で渋滞していたそうだ。
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