109 これって数学?算数のようです
いよいよ学院生活が始まります。
今日の2時限目は数学の授業だ。これもライオネス先生が担当している。我が国の最高学府の授業なので、かなり緊張していたが、最初に教科書と練習ノートが配られた。教科書の表紙には『楽しい算数、あなたもこれで暗算ができる。』と書かれていた。なぜか、とても嫌な予感がする。
練習ノートを開いてみると、縦11行、横11列のマスがあり、上の行と左の列にランダムに一桁の数字が書かれている。これって、絶対百マス計算だよね。
ライオネス先生が、皆に説明を始めた。
「えー、諸君は、無試験で当学院に入学してきたわけですが、試験がなかったとはいえ、ある程度の学力はあるものと思います。この学院の授業での最終目標は、君達に貴族として恥ずかしくない程の教養を身に付けて貰うことです。この授業は、君たちが最も不得意な計算問題を繰り返しすることにより、数字を見ただけで計算の答えが出るようになることを目的に偉い学者先生が考えたものです。やり方は、簡単。上の数字と左の数字を足した数を、交差している升目に書くだけです。1ページに100マスあります。今日は、2ページをやってください。わからないところは、先生に聞いてください。あ、これは注意事項ですが、絶対に指を使わず頭の中だけで計算をしてください。それでは、はじめ。」
あきれてしまって物が言えない。ここは小学校か?もう12歳になるというのに、悲しすぎる。あれ、でも後ろの方で何やら数を数えている声が聞こえてきた。
「9たす6は、10、11、12、13,14、15。15だ。」
この声は、まさかダイン君じゃないよね。ちらっと後ろを見ると、何か悲惨なことになっている。ダイン君、上を見ながら一生懸命数字を唱えていた。他のみんなも、指を折ったり、百マスに棒を引いて筆算ではないが何やら書いて計算をしている。もちろん、指など使わずスラスラと解答を書いている子もいるけど、それも極僅かだ。この学院では、卒業レベルでも日本の中学卒業レベルらしいが、そんなことで、この国そのものが大丈夫なのだろうか。
とりあえず、3分少々で2ページを終えておいたが、あとは何もやることがない。暇なので、教科書の一番最後の方の問題集を見てみたが、どう考えても小学校6年生レベルの問題ばかりだ。台形や直角三角形の面積を出したり、馬に乗った人と歩いている人の1日の旅行距離を計算したりって、これ、馬鹿にしてるだろう。もしかしたら、この教科書は前期だけの授業にしか使わない可能性もあり、後期はもっと高度な教科書を使わせてくれるのだろうか。いろいろ考えていたら、ライオネス先生が、時間終了を宣言してくれた。これから解答発表だが、何故に私がそれをやるのか聞きたいんですけど。しょうがないので、前に出て、左上から順に解答を発表していく。発表の途中で、『えーっ!』とか、『本当に?』と声を上げるのはやめてもらいたいんですけど。そのたびに、ドキッとしてしまう。
そもそも、『8+7』が15になるのをどうやって説明しろと言うのだ。8に2を足せば10で、7から2を引けば5が残り、10足す5は15なんて計算する者などいないだろう。もう、そうなるからとしか言いようがないし、それが暗算でできなかったら、2桁の掛け算なんか一生無理だから。
ようやく午前中の授業が終わって、午後はまたクラブ紹介だそうだ。今日は剣術クラブと錬金クラブの説明があるので、どんな紹介をするのか楽しみだ。最後に魔法剣クラブの紹介があるらしいが、私は入部を決めているので、特に聞く必要がないと思っている。
午後、クラブ紹介が始まった。球技や芸術系のクラブ活動がほとんどないので、それほど面白くそうなクラブがなかったが、いよいよ期待していた剣術クラブの紹介が始まった。
「オッス、我々は剣術クラブである。剣術は、国を守り、主を守り、家族を守り、己を守る技である。そこの君、大切な人が魔物に襲われたとき、君はどうやってその人を守るのだ。」
呼び掛けられた男子が立ち上がって、
「魔法で・・・」
と答えたので、一瞬、場がシーンとしてしまった。そうなのだ。魔法があるこの世界では、己の体を掛けなくても大切な人を守ることができるのだ。でも、この場でそれを言ってしまったら壇上の先輩の立つ瀬がなくなってしまうような気がするんですけど。
「えーっと、それでは、これからお手本を見せるから、君たちも剣術クラブに入って、大切な人を守ろうじゃないか。」
見事なスルーだった。それから、模擬剣を使った打ち込み稽古をして見せてくれたが、それ、どう見てもダンスですよね。あらかじめ決めておいた約束動作を次々に見せられてもねえ。
あと、乗馬クラブの紹介で、2人で馬の着ぐるみを着て歩き回るだけで、乗馬の楽しさなんか分かる訳ないでしょう。
次は、騎士団の紹介が始まった。え、この学院、騎士団があるのって思ったら、騎士団って、応援団とか吹奏楽団と同レベルの団で、学院の防護等が任務ではなく、騎士のようなフルアーマーを着用して学院内を歩き回るというクラブらしい。まあ、総重量30キロ近いフルアーマーを着て歩くだけでも大変そうだし、夏の直射日光を浴びたら、熱中症間違いなしだね。
錬金クラブの紹介が始まった。紹介者は、2本のお下げが芋くさい女子生徒で、魔法専科の総代をしている人だった。
「みなさん、錬金クラブに入りましょう。錬金クラブには大勢の女生徒が入っており、皆、かわいい子ばかりです。ウハウハしたいなら錬金クラブ、錬金クラブって『ス・テ・キ!』ね。」
一気に錬金クラブに入る気が失せてしまった。もともと大前提に誤りがある。錬金クラブの女の子はみな可愛い。それでは自分はどうなんだと言いたい。まあ、十人並みというか普通というか、ずっとベス嬢やアリスを見ていた私としては、かわいい基準がものすごく高いのは自覚しているけど、それでも人並みかそれ以上かという判断はできると自負している。そして、壇上に上がっている錬金クラブの女子は、まあ、普通。『十人並み』と言う言葉があるが、この言葉は、十人分の美しさと言う意味ではなく、とても『普通』という意味で、美しくもなく不細工でもないという意味で、まさしく『十人並み』である。
そのことは、会場の新入生たちも感じているのか、どうも熱気が感じられない。そんな雰囲気を感じ取ったのか、その子は、ある品物を取り出して説明を始めた。
「この魔道具を見てください。これは、私たち錬金クラブが長年研究に研究を重ねた魔道具です。用途は、このような広い場所において、私の声を拡大して皆様に聞こえるようにするものです。」
そう言って、その子はその品物をもって、一方を口に当てた。うん、あれって、地球でいう『メガホン』だね。聞こえてくる声も、メガホンの音声を魔力で拡声はしていないし、単に地声に指向性を持たせているだけに過ぎない感じかな。よく見てみると、メガホンに魔法陣が書かれているが、何も反応していないようなので、単なるメガホン以上の効果は無いようだ。
うーん、錬金クラブに入るのもやめようかな。でも、もしかすると素晴らしい魔道具があるかも知れないし、新しい魔道列車のヒントになる物があるかも知れないから、取り敢えず部室を覗いてみようと思っている。
最後は、あの魔法剣クラブだ。コーンフィル部長が緊張した顔付きで壇上に上がって来た。
「皆さん、初めまして。魔法剣クラブ部長のコーンフィルです。魔法剣とは、魔剣とも聖剣とも違う新しい考えの剣のことです。皆さん、この剣を見て下さい。普通の模擬剣です。何も仕掛けがありません。でも、この剣を私が使うと、魔法研として大きな威力を出すのです。こうです。」
コーンフィル部長は、昨日やったように模擬剣の旗位に手を出して、呪文の詠唱を始めた。
「火の精霊よ。その深淵なる力を我に与えたまえ。ファイア。」
模擬剣の刃体が白く光って、剣先からポッと炎が出た。
「見よ!」
コーンフィル部長、大きな声と共に魔力を最大限に込めたようだ。剣先の炎が20センチ程の大きさになって、シュボンと消えてしまった。まあ、生活魔法のやや大きい版かな。でも努力の成果だから、拍手をしてあげた。私一人だけだったけどね。
残念ながら、残念なクラブばかりのようです。
次話は、明日17時に投稿予定です。




