106 魔法剣クラブに入るようです
投稿が切れてから、かなりの間が空いてしまいました。コツコツ投稿をしていくつもりですが、不定期にならざるを得ません。
「ここ、相席よろしいですか?」
突然、後ろから声を掛けられた。振り返ると、艶やかな黒髪の長い髪が僅かにカールしていて、アーモンドの形の大きな目は、透き通るような水色、すらっとしたスタイルながら、僅かに膨らんでいる胸がこれから大きくなりますと主張している絵に描いたようなお嬢様だ。確かクラスの最後列に座っていたので、侯爵家か高位貴族の令嬢だろう。
「あ、どうぞ。私はフレデリック、貴女は?」
「ビビアン。ビビアン・フォン・ブレインと申しますわ。ウエスタン侯爵閣下。」
「あのう、侯爵閣下はいらないです。フレデリックと呼んでください。ビビアン嬢。」
「分かりましたわ。それでは、私のことも『ビビイ』と呼んでくださると、嬉しいのですわ。」
「はい、じゃあビビイ嬢と呼ばせていただきます。ビビイ嬢のお父上は、あの内務卿のブレイン侯爵閣下では無いですか?」
「はい、そのとおりですわ。私はブレイン侯爵家の3女になりますの。」
ブレイン侯爵家は、歴代内務卿を拝命しており、武門よりも卓越
した内政力で王室を補佐してきた名門貴族である。ビビイ嬢は、父親譲りの漆黒の髪と聡明そうな目をしている。ベス嬢とは全く違うタイプのお嬢様だ。
「父からフレデリック様のお話はよく聞いておりますわ。大変、お強いそうですわね。」
「いえ、まだまだ修行の身、この学院でしっかりと『剣の道』を学べればと思っています。」
「『剣の道』ですの?初めて聞く言葉ですわ。」
うん、この世界では剣の技術は『剣術』で、『剣道』などと道の付く言葉は使っていない。武術は、武力を効果的に使う技術であって、日本人のように直ぐに己の生きる道を示すものなどと言う精神論には発展しないみたいだ。私は、剣術と剣道についての違いを説明しようとしたところで、突然の怒鳴り声に邪魔されてしまった。
「ビビアン、こんなところで何をしている。そんな出来損ないの3男坊なんかと話すんじゃない。お前は、俺の婚約者だろう。」
声の主は、アルフレッド君だ。顔を真っ赤にして、ビビイ嬢を睨んでいる。それから、私の方を睨んで、
「お前も、貴族なら他人の婚約者に気軽に声をかけるのが、どれほど非常識か知っているだろう。これだからゴマスリ野郎はダメなんだよ。」
えーと、こいつは何を言っているんだ。こいつの言っていることで正しいのは3男坊と言うことだけだし、出来損ないって一体なんだろう。あとゴマスリって、誰にゴマをするんだろうか。物凄い誤解があるんじゃないかな。ビビイ嬢は、申し訳なさそうな顔をして立ち上がった。彼女のメイドが、せっかくテーブルにセットした昼食をトレイに乗せてビビイ嬢の後をついて行った。
誰もいなくなって一人で食事をしていたら、ダイン君が、昼食の乗ったトレイを持って声を掛けてきた。
「フレデリック様、いや君?ご一緒によろしいですか?」
勿論、大歓迎だ。いくらスザンヌさんやジュリちゃんがいると言っても、一緒に食事するわけにもいかず、一人で黙々と食事するのも味気ないし。ダイン君、席につくとビビイ嬢のことについていろいろと教えてくれた。ビビイ嬢、なんとあのアンドレイ第一王子の婚約者だったそうだ。しかし、ダメンズ元侯爵が処刑され、アンドレイ第一王子が王太子の身分をはく奪されたことから、婚約が解消されてしまったそうだ。貴族にとって、特に女性の貴族にとって、一度でも婚約した事実があると、純潔を貴ぶ貴族社会では致命的な汚点となり、伯爵か子爵以下の下級貴族に嫁ぐしかなくなるそうだ。それも莫大な持参金をつけてだ。ビビイ嬢の父親であるブレイン内務卿は、それではあまりにも忍びないと、去年、何とかしてアルフレッド君の父親と話がまとまり、アルフレッド君の婚約予定者となったそうだ。正式な婚約は学院を卒業してからだそうだが、どうやら嫌がるアルフレッド君には、非常識ともいえる額の結納金と、結婚の暁には持参金を持たせるということで納得して貰ったそうだ。
本来なら、アンドレイ王子とは何もなかったのだから、美しいビビイ嬢には希望者が殺到しそうなものだったが、アンドレイ王子失脚により、その係累にはどのような嫌疑がかけられるかわからずに、皆しり込みしてしまったらしいのだ。ダイン君の話は、以上のとおりだが、ビビイ嬢がそれで良ければ、何も私が口をはさむことなどない。しかし、何か釈然としないものがある。きっと、最後にビビイ嬢が見せた悲しげな顔が気になったのだろう。
暗い気持ちのまま、食事が終わり、午後はクラブ紹介だ。教室に各クラブの部長なりキャプテンが勧誘にくるのだが、音楽クラブがバイオリンコンチェルトによる演奏をしたり、文芸部は、古典の詩の朗読をしたが、バックミュージックにアカペラの合唱があったりと、趣向を凝らした勧誘活動だった。
私が入ろうかなと思っている剣術クラブは、フルアーマーを着た騎士のような男子と、もう昔の大きなリボンを付けた女性騎士の漫画にあったようなドレスを着た女性の二人が、好きどうしなのに戦わなければいけないという小芝居をしたりと、もう、完全に演芸大会になってしまっている。うん、やはり剣術クラブは実際の稽古を見なければ判断できないなと思ってしまった。
ダイン君は、剣術クラブと乗馬クラブにするそうだ。剣術クラブに入ってくれるのは嬉しいが。乗馬クラブは、馬の世話が大変そうだし、ちょっとないかなと思ってしまう。ビビイ嬢は、ピアノクラブとダンス部に入ると言っているのが聞こえてきたが、かなりの女性が一緒に入ると騒いでいた。あ、あれだけの美人で、侯爵家という高位貴族なのだから、人気のあるのも頷ける。
今日は、これで授業が終わりで、少し早く寮に戻れるのだが、ずっと座っていたので、少し体を動かしたくなった。一旦、寮に戻り、着替えてから学院の外周を走ることにした。学院は、本館と学生寮の他に、図書館、文化系クラブの部室や研究室、それにいくつかの道場があり、そのほかに運動場、鍛錬上、馬場等があって、かなり広大な敷地だ。私が、外周に沿って走り始めたが、外周の高い塀の内側が走路となっていて、多くの学生や教師が駆け足をしていた。私は、いつもの速度で、次々と追い抜いていった。追い越された人の中には、抜き返そうと頑張る人もいたが、かなりの速度差があり、直ぐに諦めて自分のペースに戻って行く。学院1周約8キロと言うところか2周半回って、寮の裏手で駆け足を終えた。
最近は、身長も160センチ近くまで伸びて来たし、基礎体力も大分付いて来た。両手、両足と胴回りのウエイトバンドも重さを感じなくなって来たが、これ以上重くすると、流石に服の下にコッソリと付ける訳にもいかないし。
そこで『ワールドグリモワール』に最近追加された『重力魔法』を応用して、自分だけに重力2倍をかけて起き、リストバンド及びアンクルバンドの重りを3キロのものにした。あと、ウエストバンドは装着しないことにしたのだが、もちろん、重力2倍の効果は体重にもかかっているので、通常でも自分の体重分を背負って活動していることになる。それで早朝5時からの20キロ駆け足と3斤の木刀での1000本素振りは継続している。
入学前は、午後は騎士団との稽古もしていたのだが、さすがに学外に出るのは時機早々と思われたので、自主トレだけにしておく。そう思って、鍛錬場の方に行ってみると、ショートソードを両手で構えて、じっとしている集団を見かけた。全部で10名くらいだろうか。剣術クラブでもなさそうだし、何をしているのだろう。駆け足をやめて、側に近づいてみると、どうやら模擬剣を構えて瞑想しているようだ。面白そうなので暫く見ていると、リーダーらしき人が声をかけている。
「さあ、自分の魔力を感じるんだ。魔力は暖かい血液のようなものだ。それが感じられたら、剣を握っている両手に流し込むんだ。雑念は捨てて、魔力を感じることに専念しろ。」
うーん、何だろう。この人たちは魔力を感じていないのだろうか。でも、魔力を剣に流すのって、それほど難しくないのに。もう、少し見ていよう。
私が見学をし始めてから、かれこれ30分位経ったろうか。皆さん、額から汗がだらだら垂れているし、剣を持つ両手もブルブルし始めていた。うん、もう限界ですね。
「やめい。今日は、ここまで。さあ、水分補給を忘れないように。」
「あのう、先輩方、ここで何をやっているんですか?」
「うん、君は、新入生だよね。あ、新入生代表をやった子じゃないか。えーと、我々『魔法剣クラブ』は、明日の午後、クラブ紹介をする予定なんだけど。君、魔法剣に興味があるのかい?」
悪役令嬢は、悲しき令嬢でした。




