104 学院長に呼ばれたようです
学院入学前は忙しいです。
4月になった。王立学院の入学式は4月6日だが、今日、王立学院の学院長に呼ばれたので、新調した学院の制服を着て学院長室を訪ねた。学院の制服は、水色を基調として銀糸で縁取りがされており、胸ポケットには学院の校章エンブレムが貼られている。ズボンは灰色で、どう見ても日本のどこかの高校で制定されているような制服だ。靴も、この世界では珍しいタッセルオンスニーカータイプで、デザインには絶対転生者がかかわっている気がする。
学院長は、確か元公爵家の方が就任されていると聞いている。公爵家は3代までしか認められていないので、4代目になると、王位継承権も失うし、適当な貴族家に降家することになるそうだ。学院長も、現在は伯爵に叙爵されているはずだ。
学院長室は、本間の2階、階段を上がった正面にあり、重厚なドアをノックすると秘書の方がドアを開けてくれた。秘書室の先が学院長の執務室のようだ。学院長は、立ち上がって迎えてくれた。爵位で言えば、侯爵である私の方が高位貴族となるのだが、学院長と学生、しかも新入生という立場を考えれば、そんなに気を使わなくてもいいのにと思ってしまう。
学院長は、私を上席に座らせようとするが、もちろんお断りして出入り口に近いソファに座っておく。学院長は、年齢が50歳位だろうか。頭が少し薄くなってはいるが、意志の強そうな精悍な顔つきで、さすが王家の血筋を引く方だなと思ってしまう。
「初めまして、この度、御学にお世話になるフレデリック・フォン・ランカスター・ウエスタンと申します。以後、ご指導をよろしくお願いいたします。」
「ご、ご丁寧なあいさつ、痛み入ります。わ、私は当学院を任されているベルファイア・フォン・ボルドウインと申します。こちらこそ、いろいろと至らぬことがありましょうが、平にご容赦願います。」
異様に低姿勢なのはどうしてなのだろうか。爵位の差というよりも、私個人を警戒しているような気がするけど。
「それで、本日の御用件は?」
「は、はい。呼びつけておいて、お願いするなど、誠に不躾ではありますが、ウエスタン卿には学年総代と新入生代表挨拶をお願いしたいのですが。」
あ、これって絶対面倒くさい奴だ。学年総代って、何をやるのかな。
「新入生代表挨拶は良いのですが、学年総代とは?」
「学校行事等がある際の総括責任者とか生徒会の代表として色々活動していただくような・・・」
「昨年は、どなたが総代をしていたのですか。ブルーム殿下ですか?」
「いえいえ、とんでもない。そんな畏れ多い。昨年の一年生総代は、文官専科のスミス君です。学年成績も1番でしたし。」
なるほど。文官専科は法衣貴族の子弟もいるが、爵位を持たない平民の子が死に物狂いで勉強して入学してくる子が多く、学業成績トップの子は、文官専科の子が多いとベンジャミン卿から聞いたことがある。それなら今年も、そのスミス君を総代にすれば良いのに。
「その子は総代にしないのですか?」
「いえ、今年はその子よりも優秀な成績というか、学院創設以来の最優秀成績者が騎士専科に出まして。」
うーん、嫌な気しかしないんですけど。
「すべての学科で満点ということで、圧倒的に他を引き離してのトップでして!」
ああ、これはやってしまったね。
「分かりました。しかし、ご存知の通り私も領地経営で忙しい身、総代の仕事に遺漏があってはいけません。そのスミス君に総代代行をお願いできませんか?」
「そ、それならお安いご用で。ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
学院長、なぜに泣いているのですか。伯爵ともあろう方が、そんなに平身低頭する必要などないと思うんですけど。
入学式は、明後日、4月3日である。明日は、入寮日なので代表挨拶を考えている暇がないのが少し気になるけど、まあ、なんとかなるでしょう。
次の日、寮に荷物を搬入するために、朝からスザンヌさんは大張り切りだ。寮の部屋は、第一男子貴族寮の3階、貴賓階だ。角部屋はブルーム殿下と従者そしてメイド2名が入っている。私は、その隣の部屋だ。部屋は、3LDKだがリビングが異様に広い。勿論、ダイニングも8人掛けのテーブルがセットされているが、リビングも応接間を兼ねているので豪華かつ広々としている。寮の3階には、同じような部屋が8室あるが、王族や侯爵子弟以外は入居できないとのことだった。来年はベス嬢も第一女子寮に入居するのだろうが、ベス嬢と同い年の子がいたかどうか分からないけど、こんな広いフロアにベス嬢の1室だけだと可哀想な気がするんですけど。
殿下とは反対側の隣室には、ブルーム殿下のご学友であるロベルト君が入寮している。彼も、確か侯爵家の次男か3男だったような気がする。後、2部屋埋まっているが、誰が入っているのか分からない。そのうち会えるだろうと、対して気にしないでおいた。
王族と公爵家は月300万ジェル、侯爵家は月240万ジェルと60万ジェルの差があるが、部屋の大きさも同じだし、何の差があるのだろうか?スザンヌさんが入手した情報によると、朝食と夕食を部屋まで運んでくれるかどうかの差だそうだ。それってスザンヌさんとジュリちゃんが運ぶことになっているので、無駄なサービスの気がするんですけど。後、洗濯サービスがあり、靴下や下着まで洗ってくれるそうだ。流石に室内の掃除はしてくれないが、ある程度のハウスキープはしてくれるそうなので、スザンヌさん達が必要ないような気がするんですけど。言わないけど。
従者やメイドの食事は、専用の食堂が1階にあり、一般学生と同じ内容の食事が朝食500ジェル、夕食1200ジェルで食べられるようになっている。また使用人専用の浴室も1階にあり、さすが貴族用の寮だけのことはあると感心してしまう。
寮は原則ペット禁止だが、従魔に限って持ち込みが許可されるそうだ。ただし、その際は事前に届けなければならないし、從魔のみで留守番させてはいけないらしい。シュナちゃんは、スザンヌさんとジュリちゃんが面倒を見るので大丈夫だと思うけど、心配なのは冒険者ギルドで從魔登録を拒否されたことかな。でも従魔だと言い張って学校側に認めさせれば、何とかなる気がする。
夕食の時間になった。この学院には男女とも4棟の寮があるが、それぞれの寮の1階に食堂があるが、この貴族寮の食堂だけは、入寮生だけしか利用できないとのことだった。まあ、貴族寮だけは寮費を徴収しているので、食事も特別だとのことだった。ちなみに、伯爵家は月に12万ジェル、子爵家が月6万ジェル、男爵家が月3万ジェルとなっているが、部屋はすべて1LKバストイレ付きで日本の標準的なアパート並みの広さだそうだ。従者やメイドの同室は認められないので、ある程度は自分でやらなければいけないそうだ。
一般学生は、2人部屋が原則で、食事もスープにメインディッシュ、それに季節のサラダとなっていて、メニューは選べない。あ、パンは食べ放題となっている。
しかし、貴族寮の食堂は、スープ以外は3品から選べるし、デザートも付いている。4階は、昼過ぎにスザンヌさんがメニューを持ってきて、今日の夕食を選ぶようになっている。そして夕方、厨房から注文した料理が入ったワゴン車を3階まで運ぶのだが、魔石で動くリフトで上げ下げしている。まあ、毎日がフルコースのようなものだ。でも今日はお昼に注文していなかったので、1階の食堂で他の学生と一緒に食べることにした。
1階の食堂に入ると、奥が3年生、真ん中あたりが2年生、入り口近くが1年生の席になっているようだ。メイド服を着たおばさんが料理を運んでくれるので、適当に男子学生3人が座っている席に相席させてもらう。皆、制服を着たままなのは、この寮のマナーらしい。
「こちら、座っても良いですか?」
「勿論です。ウエスタン侯爵閣下。同席できて光栄です。」
真ん中の黒髪の男の子が、快く承諾してくれた。自己紹介が始まったが、真ん中の子は、東部のベルダン伯爵家の次男でグレン君、右の金髪の子が寄子のハンブル男爵家の嫡男のチョーク君、左の銀髪の子が、やはりベルダン伯爵の寄子のサイモン君で、昨日、王都に到着したそうだ。
そう言えば、ウエスタン領内の領主達の子息や周辺の寄子の貴族の子弟で今年入学する子達はいないのかなと思ったら、私が知らないだけで、直ぐに私のところに挨拶に集まってきた。今年の新入生だけではなく、3年生や2年生の中にもいたようで、全部で8名、うち1年生が5名もいた。女子も同じ位いるみたいで、もう覚えるのが大変そうだ。まあ、それも領主の勤めだから覚えるけど。
学年総代になっちゃいました。




