103 実技試験を受けるようです
いよいよ試験が始まりました。
翌日、実技試験を受けることになった。昨日の学科試験では、ほぼ満点ではないかと思ったが、合格発表は受験番号だけだったので、成績まではわからないし、今日の実技試験も受験番号順に受けるので、昨日の成績は分からない事になっている。ちなみに私の受験番号は9999番だ。え、そんなに受験生はいないはずなのだが、受験生数に関係なく、最終番号を指定されているらしい。
実技試験は、まず軽く準備体操をしてから、学院外周の駆け足から始まった。皆、無言でひたむきに走り続けている。走ってみて分かったが、学院の外周は1周7キロ程はありそうだ。1周目はまだいいが、2周目。3周目と走るうちに脱落者が出始めた。きっちり2時間走り続けて、生き残ったのは83名だった。午後は、剣術の実技だそうだ。
食事は、学院の食堂でとることとなっている。昨日は、試験の教室で弁当を食べたが、今日は食堂となっている。スザンヌさんとジュリちゃんが傍に寄ってきた。あれ、何してるのかなと思ったら、保護者控室で待っていたそうだ。え、何、それ?と思ったが、結構保護者同伴が多いようだ。まあ、日本で言えば中学受験と同じ年だし、保護者同伴もあるのかなと思ったが、私も、スザンヌさん達がいるので偉そうなことは言えなかった。
午後の試験は、大きな屋外鍛錬場で行われた。受験番号が印刷された大きなゼッケンを前後に付け、20人一組で対抗試合をするのだ。前列10名、後列10名がお互いに向き合い、木剣で打ち込み試合をするのだが、3本勝負で2本先取すれば勝ちというルールだ。有効打突部位は、膝から上で、木剣を落としたり、継続不能の負傷を負ったら負けと判定されるのだ。1試合3分で、1試合ごとに1人分ずれて、隣の人と試合をする総当たり戦となっている。試験官5人が、それぞれの判定結果や技の種類を記載しており、受験生1人に5人の試験官が評価しているので、公平な判断を下せるようになっている。
私は、4組目なのだが、4組目だけ、1列11名で試合をするようだ。あれ、でも私の相手がいないのですけど。そう思っていたら、なんと近衛騎士団と王城守備騎士団そして王都守備騎士団の団長と副団長が私の相手だそうだ。それって、何ですか。皆さん、暇なんですかと思ったが、ニヤニヤ笑っているシュリンガー団長の顔を見ていたら、これって絶対暇つぶしに来ているなと思ってしまった。そう言えば、最近、騎士団への練習にも参加していないなと思っていたけど、ここで仇を取られるとは思いませんでした。
私の最初の相手は、近衛騎士団長さんで、1年前に副団長から昇格したメイゼン子爵という方です。すらっとしたイケオジという感じで、代々、近衛騎士団で勤務している法衣貴族で、騎士爵から軍功を上げるたびに昇爵して、現在は子爵位となった方だ。
お互いに剣を顔の前に差し上げて礼をしてから、立ち合いが始まった。メイゼン団長は片手剣で左手にはバックラーを装備するというオーソドックスタイルだ。私は、まずは正眼で構え、相手との間合いを図っていく。お互いに打間に入る寸前、私は瞬動で相手の左横を抜けていき、動を抜いていた。おそらく周囲の者は、動きを見極めることができないだろう。最近は、足さばきのみではなく、剣の振りも超速となり、威力もすさまじいものになっている。メイゼン団長は、5m位吹き飛ばされてしまった。シュリンガー団長が、手を挙げて、試合を止めてくれたので、すぐにメイゼン団長の様子を見に行ったところ、意識はあるが肋骨が数本折れているようで、呼吸が苦しそうだ。私は、鎧の上から無詠唱で『ヒール』をかけて治療してあげたけど、事態に気が付いた救護班が遅れて走り寄ってきていた。
次は、近衛騎士団の副団長の番だったが、辞退されてしまった。近衛騎士団とはあまり合同訓練をしたことがないが、多くの団員が貴族家出身ということで、やはり剣術の強度的には王城騎士団にはかなわないのかも知れない。
次は、王城騎士団の副団長のオースチンさんだ。この方は、騎士には珍しく双剣使いだ。試合開始早々、スキルを使って、両方の剣を目にもとまらぬ速度で振り回して接近してきた。確か、『旋風烈剣』というスキルだったと覚えている。しかし、初見ではないので、対処に困ることはない。オースチンさんお足の動きを見極め、左から右へ体重移動した瞬間、左右の双剣の間を私の斬撃がかいくぐっていく。動きの洟を狙われてしまったオースチンさんは、なすすべもなく、面を取られてしまった。あ、少し威力が強すぎたみたい。救護班の方、お願いします。
次は、ボーア王都守備騎士団長だ。ボーア騎士団長は大剣使いだ。大剣は、振り始めの挙動が大きく、隙も多いのだが、ボーア団長は、体術も達人であり、不用意に近づくと、長い射程の蹴りが飛んでくるので注意が必要だ。私は、ボーア団長が大きく振りかぶって、私の脳天に大剣を振り下ろすまで、じっと我慢をしておく。今だ。大剣が私の頭蓋骨に到達する寸前、大きくのけぞり、バク転をして避けると同時にボーア団長のがら空きの小手を軽く蹴り飛ばした。あ、少し、強かったかも知れない。手首の関節が変な方に曲がっているのが見えた。しかし、さすが大剣、その威力は半端なく、試験会場の端まで大きな亀裂が入ってしまっている。
次は、王都守備騎士団副団長のワイルドさんだ。この人は、Aランク冒険者出身ということだが、初めてお会いする方だ。オーソドックスな片手剣だが、構えを見てもそれほど練度が高くなさそうだ。これならと、私が上段に構えを直したとき、一気にワイルドさんの体が膨れ上がったように感じた。ワイルドさんから真っ赤な炎が立ち上がり、それは竜のように大きなアギトを開けて私に向かってきた。うん、これは大丈夫かな。私は、あえて炎の攻撃をうけることにした。もちろん、何もせずにあんな炎を浴びたら、ただでは済まない。私は、無詠唱で、皮1枚分の結界を体表面に張り詰めておいたのだ。炎がやんだ時、無傷の私を見たとき、『参った。』ワイルドさんは降参をした。
最後は、王国最強の剣士、剣聖シュリンガー王城守備騎士団長だ。今まで一度も勝ったことがない相手だ。よし、気合を込めてやるぞ。と、思った時もありました。シュリンガー団長、ニヤリと笑って、なんと帰っていくではないですか。へ、どうしてですか。私、やる気満々だったのに。ボーア団長が、一言教えてくれました。
「ここで坊とやったら、この鍛錬場、大惨事になってしまうだろ。場所を変えてやるしかないだろうな。」
なるほど、私の斬撃は、最大火力を出そうと思うと1キロ先位までが射程距離だし、最大剣速で振ると、かなりの被害が出る可能性もあるのは間違いないみたい。しょうがない。今日はあきらめよう。そう思って周囲を見ると、既に試験は終わっていたみたいで、皆、こちらを見ている。あれ、何かやっちまった感が強いんですけど。
試験を終えて侯爵邸に帰ると、正面玄関の上に
『祝 王立学院騎士専科合格』
という横断幕が掲示されていた。そしてベス嬢をはじめとして、我が屋敷の使用人達全員が玄関前で整列してくれていた。3月とはいえ、未だ冷え込む時期なのに、ありがとう。でも、合格発表は、明日、王立学院本館前の掲示板に張り出されるまでは結果が分からないんですけど。
今日は、大広間で祝賀会をするそうで、もう、ごちそうが並べられている。あとで、父上や母上、それとジョルジュ兄とグレンベル兄も来るそうだ。あ、アリスはこの前からここにいるからね。グレンベル兄は、王立学院には行かずに、バイオリンの師匠に住み込みで教えて貰っている。音楽学校というものがあれば進学するのだろうが、絶対的な需要が少ないこの世界では、音楽学校を作っても学生を集めるのに苦労するだろう。
次の日、王立学院の合格発表を確認してから、その足で、王城の第2離宮を訪ねた。ブルーム殿下に王立学院合格を報告するためだ。殿下とご学友のロベルト様やライオネッツ様、ドトール様は、昨年4月に入学されており、今は春休み期間中なのだそうだ。殿下とご学友は勿論貴族専科に進学されており、しっかりと帝王学を学ばれてもらいたいと思っている。ちょうど、殿下はピアノの練習中で、もうショパンはほとんど弾けるみたいだ。ピアノの先生は、もちろんシンシア様で、シンシア様の先生は、王都で楽聖と言われているリヒテン準男爵だそうだ。リヒテン卿は、平民、それも辺境の農民の生まれで8歳の時に奉公で王都に来てピアノに出会い、ある貴族家の掃除をしているときに、ピアノを勝手に弾いて才能を見出されたそうだ。そういえば、ブルーム殿下も一度聞いた曲は楽譜なしでも弾けるようだが、才能って恐ろしいですな。
うん、余裕の合格ですね。




