10 武道具店は欲しいものばかりのようです
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今回は、初めての武道具店です。後、魔法も着々と人外になっているようです。
若旦那と呼ばれた人は、ここの店長で、ガンスさんと言うらしいが、オーナーは表通りから少し離れた工房で鍛冶仕事をしているとのことだった。
今日は、木刀を買うつもりで来たので、これまで使っていた木刀を持ってきた。その木刀を見せると、ガンスさんは暫く見ていて、
「この木刀は、特注品ですね。素材を取り寄せなければならないので、2週間位ください。」
はあ、まあすぐにどうにかするというものでもないので、2週間後に受け取りということで注文してもらう。次に素振り用の木刀だが、重さが1200グラムと言っただけで、ガンスさんが目を丸くした。持ち手の柄については、私の手で持てる範囲の太さで作り、刀身部分は、重さをクリアするために太くしてもらいたい。特に重心は剣先部分に寄せるように先太で制作してもらうけど、素材については拘らないので、お任せでお願いした。
これは、さすがに、すぐには作れないので、1カ月の制作期間が必要とのことだった。ついでに、重さ1800グラム(3斤)の木刀も作って貰いたかったが、その重さの木刀を振れることができるときに、私の手の大きさがどれくらいになっているのかわからなかったので、今は1200グラム(2斤)で我慢しておこう。
最後に模擬剣だが、これは片手剣の中から見繕ってもらうことにしたが、私の体の大きさから比較するとちょっと大きめのものにしてもらった。この店の裏手には試し切りや試射をするための広場があるので、そこで、模擬人形に打ち込みをすることにした。初めての模擬剣を手にして、ワクワクする。金属独特の重さが手に伝わり、両手で持って青眼に構えてもしっくりくる。そのまま、上段まで振りかぶって、模擬人形に打ち込んでみる。
ガシューン!
いい感じだ。模擬人形は、木製で今までの試し切りで傷だらけになっているが、さすがに模擬剣で切断することはできなかった。しかし、そこそこ食い込んでいるので、模擬剣としては良くできているのではないだろうか。試しに、魔力を流し込んでみる。さすが、金属製の刃体だ。しっかりと魔力が纏わりついている。そのまま、模擬人形を左袈裟切りで打ち込んでみる。
バシュッー!
あ、切れちゃった。哀れ、模擬人形は左肘のあたりから右腰に掛けて両断されてしまった。あれ、確か模擬剣だよね。刃体の刃はつぶしているんだよね。あ、ガンスさん、間違えて真剣を渡したでしょう。それに、模擬人形、柔らか過ぎくない?これじゃあ、試し切りには使えませんよ。
そう思っていたのは私だけでした。セフィロ嬢とルッツさんは、顔が青くなっているし、ガンスさんは、すぐに模擬人形のところに走ってきて、切り口を確認していた。きっと、私が使う前にほぼ切れかかっていたのではないかと確認しているのだろう。
「フレデリック様、あんた、今何をした?」
「え、試し打ちだけど。」
「いや、最初の初太刀は試し打ちだろうな。それだって、とんでもないけど。そうじゃなくて、2回目、2回目。絶対、魔力を込めたろう。」
あ、さすがルッツさん、すぐに分かってしまったみたい。
「魔力?今、フレデリック様は魔力を使われたんですか。だって、今まで一度もそんなことしていませんでしたよ。」
はい、していません。というか金属製の剣を持ったのは初めてですから。でも、セフィロ嬢が知らないところでは、木刀に魔力を流す練習はしていたんですよ。内緒だけど。
「本当に、うちの若殿は驚いた才能だな。こんな小ちぇえのに、魔力強化ができるんだなんて。」
私は、何も言わずに模擬剣を鞘にしまうと、にっこり笑って
「これ、下さい。」
ガンスさん、ハッと我に返って、その模擬剣を鞘から抜いて、刃体やら柄元なりを色々調べていたがどこも異常がないみたいで、お持ち帰り用に包みにしようとしていたが、私がそのまま、腰に下げて帰りたいと言い、腰に下げるための下げ紐をサービスしてくれた。支払いは、スザンヌさんが売上伝票にサインをして、後日、お屋敷で支払うことになった。そう言えば、スザンヌさん、私が模擬人形を両断しても顔色一つ変えなかったけど、平素から私の行動を見ているので、大概のことは驚かないそうだ。スザンヌさん、平素、私の何を見ているのですか?その方が怖いんですけど。
お屋敷に帰る馬車の中で、セフィロ嬢とルッツさんから、絶対に剣に魔力を込めてはいけないと厳しく指導された。でも、『剣』に込めてはいけないけれど、『木刀』に込めることはOKということですよね。朝の日課は、今まで通りですよね。
次の日から、セフィロさんがいないときは模擬剣でルッツさんと打ち合い稽古をし、セフィロさんとは木刀で打ち合い稽古をするという二種類の訓練メニューをこなすことになった。ルッツさんとは、体力差が激しいので、なかなか打ち込ませてくれないが、それでも一瞬のスキをついて打ち込んでヒヤッとさせることがたまにある。模擬剣の重さは全然気にならない。まあ、それくらい素振りを頑張っているんだけど。
最近は、朝5時半に起きることにしている。部屋の中で、魔力操作により、木刀を動かしているのだが、今は模擬剣を加えて2本を同時に動かす練習をしている。木刀が仕太刀、模擬剣が打太刀だ。模擬剣の方がスムーズに動かせるようだが、それでも2本をそれぞれ同時に違う動きをさせるのはさすがに集中力が必要だ。まず基本である1本目である。空中に浮かせた2本の木刀と模擬剣をそれぞれに向かい合わせにすることから始める。1本なら容易にできたのだが、2本になると急に難易度が上がる。
お互いに青眼に構えたものとして角度を合わせて相互の距離を9歩の間合いから少し離れたところで静止させる。そのままの状態から、打太刀は左上段に構えた位置まで大きな円を描いて回転させる。同時に仕太刀は右上段に構えた位置まで同じように動かす。
それから、3歩の距離を前進させる。この段階で、どちらかが床に落ちたりしてしまう。どうも注意力が片方に寄ってしまうと、もう片方の制御が切れるみたいだ。
相互の距離が3歩になったら、打太刀が大きく見えない仕太刀の正面を打たせる。仕太刀は、少し引いて打太刀の太刀を抜いてから、打太刀の仮想正面に打ち込む。
その後、打太刀は、剣先を下げたまま2歩下がり、仕太刀は、打太刀が2歩目を下がると同時に1歩前に出て、左上段で残心を示す。打太刀は、ゆっくりと剣先を上げて中段に戻り、仕太刀は、左足をすこし下がりながら中段に戻す。それから相互に剣先を下げて9歩の間合いに戻り、中段に構えの位置になって終わりだ。
最初はゆっくりやってもうまく行かない。しかし、何事も『継続は力』だ。頑張ろう。1時間の練習の後は、クールダウンの時間だ。ベッドの上で胡坐をかいて瞑想をする。その際、少しだけ身体をベッドから浮かしておく。これは意識せずに静かに静かに魔力が漏れ出るのに任せて、その魔力に乗っている感覚だ。そうして30分、7時になるとスザンヌさんがドアをノックする。これで、朝の魔法の鍛錬は終了となる。
夜、就寝準備をしてから木刀をワンドに見立てて魔力を通す練習をする。媒体が大きいだけ許容量も大きく、木刀が光り輝くまで魔力を込めてみる。これ以上込められなくなると、窓を開けて夜空に向けて魔力を解放する。誰にも見えないだろうが、空に向けて放たれる魔力は7色の虹のようで、とても綺麗だ。
◆
今日、注文していた素振り用の木刀が屋敷に届いた。早速持ってみるとずっしりと思い。それでも、日本にいたころ、日課としていた素振り用の木刀の3分の2の重さだが、さすがに3歳児には重く感じる。
その木刀を持って、屋外鍛錬場に行ってみる。上着を脱いで、木刀を青眼に構える。魔力を使って身体強化をしたいが、それをしたのでは筋肉の鍛錬にはならないと思い、筋肉の力だけで振ってみる。振るのは何とか出来るのだが、相手の面の位置で止めることがなかなかできない。それでは打ち込んだ後の次の動作に遅れが出るし、何より、打ち込みに力が入らない。
最初は、ゆっくりと、しかし正しい打ち方を心がけて100本を振ってみる。まあまあ振れた気がする。次に100本、剣先に勢いがつく感じで振ってみる。うん、まだまだ勢いが足りない。力の出所が腕だけの感じだ。前後の足裁きをうまく使って身体全体の力を剣先に込めて振ってみる。お、この感じだ。よし、この感じで振り続けてみよう。と思って振っていたら、すぐに500本を振り切ってしまった。少しクールダウンさせないと筋肉のためによくない。しかし、3歳児だからしょうがないのだろうが、本当に筋力がない。これでは思うような動きができる訳がない。
ベンチに座って、スザンヌさんに冷たいものを貰い、少し休憩をしていると、ルッツさんが近づいてきた。新しい木刀に興味があるようだ。
「フレデリック様、それが新しい木刀ですかい。少し振らせてもらえますかね。」
別に断る理由もない。しかも、この木刀は1200グラム(2斤)の子供用だ。ルッツさんなら軽く触れるだろう。私は、木刀をルッツさんに渡して、
「どうぞ、振ってみてください。でも、この木刀、子供用ですからルッツさんには物足りないと思いますよ。」
ルッツさんは、木刀を受け取って目を大きく見開いている。意外に重く感じたのだろうか。でも、それは感じだけで振ってみると大したことはないはずだ。ルッツさんは、片手で何度か振ろうとしたが、途中で思いとどまって両手で持って構えてみる。ゆっくり、そっと振り始めた。うん、剣道の素振りとは違い、半身の姿勢が強いが、それでも上段から下段へ打ち下ろしている。10回も振っただろうか、肩をグルグル回しながら、団員達の方を向いて大声で皆を呼びつけていた。
「おい、誰か、この木刀、振ってみろ。すげえぞ。」
10名程の騎士さん達が集まってくる。最初に、一番身体の大きい騎士さんが挑戦するようだ。さすがにひょいと木刀を持ってみるが、片手で素振りを始めると、顔が引きつっている。しかし、さすがである。10本をあっという間に振ってしまった。続いて次々と他の騎士さん達が挑戦しているが、やっと10本という騎士さんが5人もいたのは驚いた。こんなので、ランカスター家を守っていけるのだろうか。
天然理心流の素振り用木刀の標準品は2斤半つまり1500グラムだそうです。普通の人には振れません。
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