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2-3

 残された二人はゲリラ豪雨に遭った後のように呆然としてベンチに座っていた。和真は今の男が誰なのかよほど聞きたかったが、気まずくて聞けなかった。のどかはじっとケーキの箱を見つめて黙っている。興奮がその胸の内側を駆け巡っていることが、和真にも分かった。


「なんかごめん」


 長い沈黙の後、のどかが言った。和真はだいじょうぶです、と答えた。それに対してのどかはうん、と気の無い返事をすると、ケーキの箱を手に取って開いた。


 白い箱の中に、ベイクド・チーズ・ケーキのホールの半分が、三切れに切り分けられて入っていた。


「……全然食べなかったんだ」


 のどかが呟いた。


「まあ、そりゃそうか」


 そうおどけた感じで言って、ふふふっと自嘲気味に笑った。


「もったいないですね」


 和真はなんとか話題を作ろうと思ってそう言った。するとのどかが、


「じゃあ滝口さん一個食べる? なんてね」


あくまで冗談っぽく言った。和真がええ、とだけ相づちを打って、困った様子を見せると、


「ごめんごめん、やだよね、人に一度あげたものなんて。これは私が処分しちゃうから」


のどかはそう言った。


 和真はのどかがひどく憐れに思えてきた。それに、上辺のこんがり焼けたチーズケーキを見ていると、たこ焼きを食べたきりで、昼食をまだ食べていないことをふと思い出した。ひどく腹が減っていた。


「いや、もったいないからひとついただいていいですか」


「え、本当?」


 それから和真はのどかの持っていたティッシュペーパーを皿代わりにして、ウェットティッシュで手を拭き、手づかみでチーズケーキをかじった。チーズの酸味と砂糖の甘みが口からじんわり体に広がって、和真はずっと溜め込んでいた生活の疲れが、少しだけ癒されていく感覚を覚えた。手作りのケーキなんて食べたのはいつ以来だろう、と思った。


「おかあさん! みてて! みてて!」


 また子供のはしゃぐ声がしたので後ろを振り向くと、先ほどから広場にいる女の子が、複合遊具の端にある鉄棒で前回りをしていた。女の子は一回回るだけでは飽き足らず、二度、三度と繰り返し、


「みて! みいちゃんまだまわれるから!」


と、近くで娘を眺めている母親に向かって叫び、また前回りをした。


 その親子の様子を見てほほえましくなった和真は、前を向いてケーキの残りを味わって食べた。全て食べてしまうと、のどかにケーキのお礼を言った。


「香山さん、食べないんですか?」


 のどかも自分の分を箱から出し、ティッシュの上に置いていたのだが、手をつけていなかった。


「うん、なんだか食べる気がしなくて。それに家にもあるんだよね、もう半分が」


「ああ」


 和真は口ごもった。しかし気を取り直して、気になっていたことを結局聞くことにした。


「誰だったんですか? あの男の人」


「お友達」


「男のお友達ですか?」


 少し間があった。


「うん、不倫相手」

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