石の国の侵略3
第4作目の投稿です。
是非是非、お楽しみください。
造られた剣道場は高校の部活動のような雰囲気だった。
しかし今は大きく異なっていた。
相対して構えている2人、190センチを超える大男の両者が真剣を持っていた。
それに、建物の壁はきれいに破壊され撤去され、外にいるのと全く変わらなかった。
外は登与の鬼道によって、大嵐が吹き荒れていた。
アテルイが言った。
「体は頑強のようだな。戦士としては申し分ない。しかも、特別な運命に守られ、卑弥呼の呪術を伝承している。 少しでも成長すると、やっかいだな―― 参るぞ」
そう言うと、アテルイの大剣が振られた。
その一振りは、相手を殺傷することよりも、相手の剣を粉砕することを目的としているようだった。
一瞬のことだったが、その目的を八広も理解した。
しかし、破壊力ばつぐんの威力がある大剣の一撃一撃は、最速の連続攻撃だった。
最初は体術で避けていたが、最後には体術でも避けきれないほどになった。
そしてとうとう、八広は自分の剣で、アテルイの体術を受けざるをえなかった。
がち――――ん
両方の剣がぶつかり合った時、信じられない音が鳴り響いた。
それはまるで、全く正反対の力が相手を完全に拒否しているかのようだった。
「その剣は! 折れないのか! 」
「くさなぎのつるぎ―― 」
八広が幼い頃の話しだった。
彼の遊び場は当然、海見神社の境内だったが、知らないうちに鎮守の森に入り込んでしまった。
1人ぼっちで、暗い森の中をさまよった彼は大変不安だった。
歩いて歩いて‥‥ とうとう彼の心は折れかかった。
彼はその場にしゃがみ込んだ。
その時のことだった。
「あきらめるのか」
「えっ」
「あきらめるのか」
「しょうがないよ。もうだめだ」
「見ているぞ。よくわかる。必ず立ち上がることができるはずだ」
誰かが、幼い八広に話してきた。
それは、とてもかすかな光りだった。
かすかだけど明るくて強い光だった。
彼は引き寄せられるかのようにフラフラとその方向に向かって歩いて行った。
すると、森の中の薄暗い空間から少し明るい場所に出た。
石で造られた舞台のようなものがあった。
そしてそこには溝があり、何か長いものが溝に埋まっていた。
「これは剣? 」
八広が言うと、いきなり、その剣が話し始めた。
「私は剣だ。何千年もここで待っていた。私はこの八島の神々から命を与えられた。やがて、この国に訪れるであろう災厄を退ける勇者を助けるようにと‥‥ 」
「えっ! 人間ではないのにしゃべれるの? 」
「そうさ。しゃべれるのだが、残念ながら、勇者と出会った後は沈黙する。」
八広はそっと、その長い剣にさわった。
意味はわからないが、その剣は不自然にぐるぐると曲がっていた。
「ねえ。なんでぐるぐる曲がっているの? 」
「‥‥‥‥‥‥ 」
その時、急にまぶしい光りが八広の眼球を捕らえた。
彼が上を向くと、大きな背の高い樫の木の上に太陽が見えた。
彼はすぐにその頂上まで登り、その場所は鎮守の森のはずれで、少し歩くと外に出られることがわかった。
今回、この異次元、邪馬台国の世界に転移する際、彼は考えた。
(今回は戦いになる。僕も戦いの武器を持っていかなくては)
そこで、子供の頃に出会った剣を想い出した。
「そんなに細くて、何重にも曲がっていて、どうしてそんなに強いのだ? 」
アテルイにとっては疑問だった。
大陸の石の国は物質主義で、物の強弱を簡単な基準で判断した。
それで、アテルイが今持つ大剣も、多くの鉄鉱石を使い時間をかけて打った大剣だった。
八広はその質問には答えず、無意識に剣を自分の真上に上げた。
そして無意識に言った。
「八島の神々。天のアマテラス。お怒りをこの剣に集めたまえ。あなたにまつろわない異質な敵。この入江八広が滅せん」
すると、いきなり嵐の中で雷が光った。
次に天から落雷があり、八広が自分の真上に上げた剣に落ちた。
光りは長い剣先をぐるぐる回り、そして再び剣先に向かって逆流し始めた。
八広は剣をアテルイに向かった振った。
すると、雷光が発射された。
「なんと、雷を操れるのか」
アテルイは自分の体の前にチェーンを投げた。
するとチェーンは網のようになり、雷の雷光を防いだ。
しばらく雷光はそこに留まっていたが、やがてそこを向け出した。
アテルイに向かって雷光が飛んだ。
その雷光をアテルイはじっと見ると、大剣を振り下ろした。
雷光はそこで真っ二つに切られ、両側にはじけ飛んだ。
「おう! 特殊な力を持つな。西方の国では勇者と呼ばれている者に近い。特殊戦力が見つかった場合は撤退する。それが我が皇帝陛下から命じられていることだ」
その後、アテルイは外に抜け出し歩き出した。
そして海見山の階段を降り始めた。
ふもとに着き海に向かって歩き海岸に来ると、いさいかまわず飛び降りた。
すると、彼は海の上に立ち海の上を歩き始めた。
入江に侵入した石の国の艦隊の中で、最も大きな帆船までたどり着いた。
「アテルイ様。お戻りになられたとは何か、問題があったのですか」
副官のミリが美しい顔を曇らせて聞いた。
「いやいや、問題では無い。ただ、邪馬台国の中に特殊戦力がいたのだ」
「特殊戦力ですか」
「うん。昔、我に攻撃魔術を放ってきた異世界の若者だ。雷光を操る。しかも、武術の腕も相当なものだ。我の剣の攻撃に相当の時間、絶えていた」
「皇帝陛下に報告しなければなりませんね。ところで、その者の名前は? 」
「そうかそうか。まだ知らなかったな。あのような優れた武人に失礼だった。」
その後、アテルイは甲板の上に出た。
そして海見山の頂上を見ると、調度、その異世界の若者もアテルイを見ていた。
「やはり、魔眼持ちか」
そう言った後、アテルイは嵐の中、人間離れした大声で話した。
「さきほど我と戦い、海見山の頂上で我を見ている者。我はアテルイという者だ。名前は? 」
「八広、入江八広です」
その若者も人間ばなれした大きな声で返事をしてきた。
「八広か‥‥‥‥ 『八』の字を関する。やはり八島の神からのギフトを受けているな」
八広の戦いは、アテルイが海見山を降りていった時点で終わった。
彼はすぐに女王登与に連絡しょうと階段を登り始めた。
頂上にたどりつくと、嵐の中、登与が彼を待っていた。
「登与さん。アテルイは退きました‥‥‥‥‥‥‥‥ 」
八広はそれ以上、何も言えなかった。
白装束1枚の登与が、嵐の大雨でずぶ濡れになっていたからだった。
「最大のご褒美をいただきました」
お読みいただき心から感謝致します。
※更新頻度
週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
一生懸命、書き続けます。