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神武への遠征12(黄泉の国)

第4作目の投稿です。

是非是非、お楽しみください。

 黄泉の国の国王、奈落は、そばに控える相談役の老婆に聞いた。


「この臭いは死者を退ける成分がありますね。どうすればよいでしょうか」


「大丈夫です。黄泉の国の兵士となっている死者は、霊力の強い者ばかりを集めています。ですから、これくらいの反魂(はんこん)の臭いなどに負けません。」


 その言葉のとおり、戦場に死者達がしっかりした足取りで陣をかまえ始めた。


 それを邪馬台国軍の指揮所で見ていた軍師ハンが、入江八広いりえやひろに聞いた。


「八広様。いよいよ死者と戦わなければなりませんね」


「仕方がありません。でも、たぶん大丈夫です。誰でも死者と戦うのは初めてですから尻込みしてしまうかもしれません。僕がなんとかしなければ―― 」


 八広はそう言うと、指揮所を出て最前線の方に歩き始めた。


「将軍が最前線に立たれる必要は全くありません!! 」


 軍師ハンが必死に止めたが、それに答えて八広は振り返るとニコッと笑っただけだった。


 しかし、その笑顔を見た瞬間、ハンは安心した。


 それほど八広の顔は自信に満ちあふれていた――


 八広がしばらく歩いていると、誰かが横に並んで歩き始めた。


 それはザラだった。


「困るわ!! 私の婚約者なのだから、こういうことをする時は私の許可を得てほしい!! 」


「すいません。でも僕1人で行かせてください」


「相手は死者よ、いったいどう戦うつもり」


「この法具でならば切れると言われています」


 八広は青銅の剣をザラに見せた。


「それは何? 」


草薙(くさなぎ)(つるぎ)というものです。実は神々の戦いで使われるものですが、もちろん霊体も切れるそうです。死者の存在も―― 」


「そんな大変な法具を誰からもらったの? 」


「この遠征に出る前、登与(とよ)さんからいただきました」


「そうか、きっと八島の神々から借りたのね」


「登与さんが言うには、八島の神々がくれたそうです。ところで、ザラさんのその剣は? 」


「かっこ良いでしょ。これは宝剣オリハルコンよ、アテルイ兄様が西方遠征の時使ったのだけど、私にくれたのよ。なにしろ西方のバンパイヤとかいう魔物を何体も倒したそうよ」


「バンパイヤですか? 」


「そう、これから戦う黄泉の国の死者と似ているかも。呪われて永遠に生きる者達よ」


「はい。しかしザラさん。相手は死者ですよ。見るだけで恐ろしい姿をしていますが」


「大丈夫、大丈夫!! 私は世界最強の男、入江八広(いりえやひろ)の婚約者なのよ。やがては、その正妻になるわ‥‥少し自信がないのだけれど‥‥ 」




 最前線に八広とザラが現われると、邪馬台国の兵士達は大変驚いた。


 2人は陣形の最も前に立った。


 やがて、黄泉の国の死者の戦士達が突撃を開始した。


 邪馬台国側からは大量の弓矢が放たれた。


 しかし、死者の戦士達は矢に貫かれてもなんともなかった。


 邪馬台国軍は、2人を除き、驚愕(きょうがく)した――




 八広はザラよりも3歩前に出た。


 詠唱した。


「ゆらゆらと ふるべ ゆらゆらと」


 そして上段に構えた草薙の剣を一閃した。


 剣の軌道は強いエネルギーの固まりとなって、突撃してきた死者の兵士達に激突した。


 エネルギーは死者達を全てなぎはらった――




「終わってしまったじゃない!! 」


 半分喜んだような口調で、後ろにいたザラが抗議した。


「ザラさん。そうでもありませんよ」


 八広が否定した。


 死者の兵士はまだ残っていた。


 黄泉の国の後方に数人の巨人の死者の戦士が残っていた。


 彼らまでは草薙の剣の力が届いていなかった。


 巨人の死者は、のろのろと歩いて近づいてきた。


「ふーん。よしよし、八広、少し下がって」


 今度は八広と交代してザラが前に立った。


 背の高い金髪の美女は緑色のエメラルドで作られた甲冑を着込んでいた。


 その姿は戦場に降り注いでいた太陽の光りに美しく輝いていた。


 ザラは満面の笑顔になった。


「八広。よく見ておくのよ。こんなに美しい戦士は世界にいないわよ」


 そして宝剣オリハルコンを構えた。


「オ リ ハ ル コ ン」


 ザラが宝剣を一閃すると、空間を切り裂く力が巨人の死者に発せられた。


 その力が巨人の死者を2分すると、存在を消滅させた。


 その後、得意そうな顔でザラは振り返って、八広に向かってウィンクした。




 黄泉の国の指揮所では、国王奈落と相談役の老婆が戦闘の結果を確認していた。


「負けだな‥‥ 」


 国王奈落がポツンと言った。


 ところが、老婆はそれを否定した。


「いえいえ。奈落様、諦めてはいけません。まだ最高の戦士が残っているではありませんか」


 そう言うと、老婆は戦場の最前線に向かって力強い足取りで歩き始めた。


「えっ!!」


 国王奈落は大変驚いた。


 邪馬台国軍の方でも大変驚いていた。


 激烈な戦場に老婆が1人歩いてきたからだ。


 その老婆は信じられないほどの大声で告げた。


「私の名前は『情念』、私を消せるのなら消して見なさい!! 」


 ザラが八広に聞いた。


「八広様。どうします? あれは、ほんとうにおばあさんなのですか」


「形だけおばあさんに見えますが、人間ではありません。自分で『情念』とか名乗ることを見るととてもやっかいですね」


「どうしてですか」


「あのおばあさんは、たぶん、これまで死んだ人に対して感じた人間の気持ちの集合体です。しかも、無限大の気持ちが合体されていると思います」


「気持ちとどう戦えばよいのですか、私は死んだ人に対する人間の気持ちを否定することはできません」


 ザラがそう言うと、八広も深く同意するようにうなづいた。


「‥‥‥‥ 」




 その時のことだった。


 戦場に大きな声が鳴り響いた。


「八広様。ここからは巫女である私の仕事です!! 」


 それは、はるか遠方にいるはずの登与の声だった。


 そして何かを詠唱する声が戦場に響き始めた。


「無駄じゃよ。私を誰も否定できない―― 」


 余裕で老婆がそう言った。


 しかし、しばらくするとその余裕の態度が急に変わった。


 老婆が少しずつ消えて言った。


「これは!! 神の言葉!! なんて優しい!! 」


 最後に老婆は完全に消えた。


 天から登与の声がした。


「八広様、今、鬼道の最大奥義『消滅』を発動させました。でも『情念』は再び現われるでしょう‥‥ 」




 邪馬台国の神殿、祈祷部屋で、力を使い果たした登与が倒れて意識を失っていた。

お読みいただき心から感謝致します。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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