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神武への遠征9(黄泉の国)

第4作目の投稿です。

是非是非、お楽しみください。

 入江八広(いりえやひろ)は無我の境地になった。


「ふるべ ゆらゆらと ふるべ ‥‥ 」


 棒についている円盤状の宝具の輪を鳴らしていた。


 それは少し、笛の音色にも似ていた。


 その音がなり始めると、彼の前に現われた死者達の動きに混乱が生じた。


 動けなくなったものや、その場に倒れてしまったものがいた。


 彼らに対して、八広が鳴らす宝具の音色は拒絶の力を示した。


 すると、黄泉の国の奥まで続く道の遠くから、騎馬の軍団が駆けてきた。


 近づいてきた瞬間、八広はその先頭が誰なのかはっきりした。


 黄泉の国の国王、奈落が彼に話しかけてきた。


「八広殿、申し訳ない。侵入者を監視するため、生者の世界である、たたら国との国境の近くには、攻撃的な死者を配しているのだ。ほんとうに申し訳なかった」


「奈落様。かまいません、しかし、私の宝具の力が強すぎて、このような状況になってしまいました」


 八広に襲いかかった死者はみな動きを止め、しかも、そのほとんどがその場に倒れ込んでいた。


「これらの死者はどうなりますか」


「もう消滅するでしょう。これらのものは死者の中でも、もっとも生者から遠い者達です。簡単にいうと物に近い。生存する理由がありません」


「そうですか。でも僕が消滅させてしまうのは申し訳ないです」


「申し訳ない―― そんなことは全くありません。彼らにとっては早く消滅する方が幸せなのです。もう、何千年もこのような形で存在しなければならなかった者達も多いのです」


「何千年も前、からですか? 」


「そうですよ。人間がわずかに、獣と区分できるようになった時代からです。さあさあ、八広様、我が王宮に御案内しましょう」


「奈落様。今、私の従者達を呼びますから、もう少しお待ちください」


「えっ!! すると八広様は国境をお一人だけで越えたということですか」


「そうです」


「なんて剛胆な方だ―― 」


「失礼します」


 八広は、黄泉の国の国王、奈落をそこに残し街道をたたら国の方向に向けて走っていった。


 彼の姿を奈落他、黄泉の国の従者達が見ていた。


 地位が高いと思われる老婆が、奈落に言った。


「国王陛下。さきほど、邪馬台国の将軍である八広が詠唱した祝詞(のりと)には強い力がありました。たぶん、八島の神々から直接受け取ったものでしょう」


「そうだな、普通の人間なら口にすることはできない祝詞を彼が詠唱した。彼は特別な人間であるに違いない。我が黄泉の国の行く末を決めてくれるかもしれないな」


「そうですね。このまま黄泉の国が存在していくことは不可能でしょう。あの八広であれば、未来に向かう道を切り開いてくれるのに違いありません」




 黄泉の国の王宮で、八広と奈落は正式に対面した。


 そこには黄泉の国の重臣達も同席していた。


 生者である奈落国王は素顔を見せていたが、中には覆面をかぶっている者もいた。


 覆面をかぶっている者は死者だった。


 腐りかけている顔や骨を見せないという配慮からだった。


「八広どの。友好協定のことは同意しました。ただ、我が国はほとんど他国にお使いいただく産品はありませんが、それでも良いのでしょうか」


「かまいません。黄泉の国は、八島の人々から尊敬される国、多くの人々の心のよりどころとして存在していただければ良いのです」


 奈落の部下である死者の家臣が八広に聞いた。


「具体的にお聞きしたい。我が国が他国に尊敬される、心のよりどころになるとはどういうことか? 」


「我が邪馬台国が率先して、死者や自分の家の祖先達を敬うようにします。1年に1回は、死者を心の底から弔う日を作ります」


「そんなことで良いのか」


「後、もう一つございます。死者が出た時、この八島の国では聖なる方法で火葬することを原則とします。死者はあくまで生者の心の中にだけ存在するようにしたいのです」


「邪馬台国の将軍!! 我が死者になり、このような無残な姿で存在するのはよくないとするのか!! 」


 いきなり、その家臣は覆面をとり、八代に向かって半分腐っているその顔を見せた。


 ところが八広はその顔を見ても、少しも動じなかった。


 その様子を見て、国王奈落は自分の古い記憶を想い出していた。




 奈落の前の名前はイザナギといった。


 イザナギは、八島の国の中で最も強いといわれた勇者だった。


 彼にはイザナミという美しい妻がいた。


 イザナミは見かけが美しいだけではなく、心も非常に美しかった。


 しかし、この夫婦には大きな悩み事があった。


 子供ができないということだった。


 ところが、ようやくイザナミが子供を身ごもったことがわかった。


 王宮でのつとめが終わった後、イザナギは天にも昇るような気持ちで家に帰っていた。


 自分の家が見えて来ると、何か異常な光景があった。


 家の回りを多くの人々が取り囲んでいたのだ。


 非常な不安を感じたイザナギは急いで家の中に駆け込んだ。


 すると、中にも多くの人々がいて、その中にいた妻の母親の顔が泣き顔だった。


 妻の母親は赤ちゃんを抱いていた。


 その顔を見た時、イザナギの不安は吹き飛んでいた。


 彼はイザナミをねぎらおうと、そばに近寄った。


 しかし、妻の顔はとても青白く異常だった。


「イザナミ。どうしたのだ!!!! 」


「あなた。もう子供の顔を見ていただけましたか、かわいらしいでしょ」


「うん、それよりも、お前のことが心配だ」


「あなたのために、子供を産むために私は全力を尽くしました。でも、産むことはできたのよ‥‥ よかった‥‥ でもね、私の体の中の血を使い過ぎてしまったみたい‥‥ 」


 そう言うとイザナミは目を閉じた。


「イザナミ、イザナミ、どうしたんだ。しっかりしろ」


 そう問い掛けると、奇跡的にイザナミが再び目を開けた。


「あなたの言うとおり、もう少しいろいろ食べて、太っておけばよかったわ‥‥ 」


 彼女は最後の力を使い、精一杯イザナギに向かって微笑んだ。


「子供を、かわいがってね‥‥‥‥ 」


 イザナミは再び目を閉じた。


 彼女が命を落したのは明白だった。


「わあ―――― 」


 イザナギは死体となったイザナミの横で泣き伏した。


 彼は泣いた。


 その姿を、誰も見続けることは不可能だった。


 重い重い悲しみに押しつぶされている彼を見るのは、とてもとても辛かった。

お読みいただき心から感謝致します。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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