神武への遠征7(たたら国)
第4作目の投稿です。
是非是非、お楽しみください。
スサノオには、その娘の笑顔の理由がわかった。
「よかった―― もしかしたら、娘さんのその美しく長い黒髪をとかすための櫛だったのですか」
「はい。私の名前はくしなだと申します。ほんとうに、この嵐の中、私の第1の宝物を探し出していただき心より感謝申し上げます」
色白なせいか、その娘の髪の黒さはほんとうに美しく感じた。
(私は、今、何に怒っているのだろう? )
娘を見れば見るほど、月夜見を奪われた怒りがスサノオの心の中から消えていった。
(気持ちが落ち着くな‥‥ この娘を見ると、心の中の傷が消えてしまう)
「スサノオ様!! 私は申し上げたいことがあるのです」
「はい。どのようなことですか? 」
「私の村にも、たたら国の王都で起こったうわさが流れてきます。国一番の勇者で、女王月夜見様の守護者に任命されたスサノオ様が、多くの国民の前でばかにされたそうですね」
「いえ、特にばかにされたとは思っていません」
「せめて、私の前ではほんとうのお気持ちを話していただいて良いのですよ。国中の誰もが、月夜見様を妻にするのは、スサノオ様だと思っていました。そして、もう一つ‥‥ 思っていました」
「もう一つ? それは? 」
「スサノオ様が可哀想だということです。あの、自分のことを『わらわ』というバカ女といつも一緒に、死ぬまで御一緒されるということです。それ以上に悲惨なことはありません」
「え――っ どうしてですか? 」
「確かに月夜見様は絶世の美女かもしれません。しかし、自分に対してあまく、他人に対して厳しい方です。だから、国民の上に立つ王族としては失格だと思います。このような話しがあります―――― 」
その娘は自分の村で起きたある逸話を話し始めた。
娘の村は翡翠という宝石の産地だった。
そしてその翡翠を利用して、さまざまな精巧な装飾品を産出することで有名だった。
ある日、突然、なんの理由も示さずに王女の月夜見が娘の村を視察することが通達された。
王都につながる街道で、村長他多くの人々が王女月夜見の馬車の到着を待っていた。
馬車が停まり、中から月夜見が降りてきた。
「田舎―― このような場所で人間が暮らすことができるの、不思議―― 」
この言葉に村長他の人々は大変困惑し、中には怒りをおぼえた人々が多かった。
「月夜見!! 失礼だろ!!! 国民の大部分が、お前の住んでいる場所を見れば、そっくりそのまま今の言葉を返すぞ!!! 」
月夜見の前にひざまずいていた護衛役の従者が月夜見をたしなめた。
「いいじゃないスサノオ、わらわはわらわが感じたことをそのまま言っているだけよ」
「言わないで、心の底に止めておくことをおぼえなさい!!」
従者が的確なアドバイスをしたが、月夜見は全部無視したようだった。
「月夜見王女様、本日は私達の村にどのような御用事でしょか」
村長が切り出した。
「そうね。ほんとうにこんな村にあるのか疑問に思っているのだけど、翡翠で作った装飾品を見せてください。一番気に言ったものを買うわ」
「それでは、宝物庫を御覧ください」
村長他村の首脳は、王女月夜見の一向を宝物庫に案内した。
中に入ると、村長がそれぞれに翡翠細工の説明を始めた。
しかし、月夜見は全く聞いていないようだった。
村長の説明が一通り終わると、月夜見がいきなり、言い始めた。
「村長、この中にある翡翠細工を全部私が買うわ。どれくらいで買えるの」
「月夜見王女様、それは計算したことがありませんが、1万人が1年間食べることができる米くらいだと思います」
「そんなに安いの。じゃあ買うわ、いいわね。まず、1万人が1年間食べることができる米をこの村に馬車で送るから、その場所にこの中にある全ての翡翠を積んでください」
「月夜見王女様、よろしいのですか。国王である大国主のみこと様のお許しが必要なのではありませんか」
「いいのよ。父上は私にあまいから、何をしても許してくれるのよ」
「国に納められた米は、天候不順で作物がとれない飢饉の時に放出するために、国が備蓄していると聞いておりますが‥‥ 」
「知らない!! いいじゃない!! この村が潤うのだから、あなた村長失格ね」
何を言っても月夜見は人の意見を聞かないことがわかったので、それからみんな黙ってしまった。
月夜見の視察の一向は、宝物庫から街道に待たせている場所に戻るため移動した。
その道筋、川のほとりに何かの神を祭った祠が建っていた。
その村には不釣り合いなほど、豪華な祠だった。
偶然、その祠が月夜見の目に留まった。
「これは、何の神を祭っているのですか」
「川に住むという水竜です」
「なんで竜を祭るのですか? 」。
「実は、この川は上流から上質の翡翠の原石を運んできてくれます。ですから、村としては最大の感謝を込めて水竜を祭っているのです」
「そうですか。水竜が運んでくれた翡翠の原石で作ったすばらしい装飾品を、全て私が買い上げるのですね。それでは、私も無関係というわけではありません」
月夜見はいきなり、その祠に近づき始めた。
そして、その中に入った。
すると、祭壇の正面には見事な勾玉が祭られていた。
それは、これまで採れた最上の《ひすい》で作られていた。
「見事な勾玉だわ。美しいだけではなく、霊力もかなりのものだわ。これならば私の一生を完全に守ってくれるわね。村長、わらわがこの勾玉を買うわ」
「えっ!!! 月夜見様!! 残念ながら、それは不可能です。この勾玉はもう水竜のものなのです。
この村に翡翠を運んでくれる水竜に捧げているものなのです」
「いいじゃない。かわりにお米を捧げなさい。2万人が2年間食べることのできる米を払うわ。いいでしょ」
「月夜見様。竜にとって、このような勾玉は最も大切にしている宝なのです。別名、竜玉という言葉もあります。水竜の怒りを買ってしまいます」
村長の言葉には切、なる願いがあった。
しかし、月夜見は完全に無視した。
「わらわがほしいの。今、いただくわ!! 」
そう言うと、なんと、いきなり、
月夜見は祭壇に祭られている勾玉を手でつかみとった。
そして、自分の首に掛けた。
その瞬間のことだった。
周囲がいきなり暗くなり、暴風が吹き始めた。
上空には厚い雲が何重にもかかっていた。
雷がなった。
竜の咆哮が聞こえた。
かなり激怒しているようだった。
お読みいただき心から感謝致します。
※更新頻度
週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
一生懸命、書き続けます。




