神武への遠征6(たたら国)
第4作目の投稿です。
是非是非、お楽しみください。
その日がやってきた。
黄泉の国からは、生者の国王奈落が直々に答えを聞きにやってきた。
たたら国の王宮で、奈落は大国主のみことと直接対面した。
「大国主のみことよ。返事を聞かせてもらいたい。貴君の御息女、月夜見どのを私の妻にいただけないだろうか」
奈落は顔面を全て覆面で覆った無気味な顔だった。
彼に付き従っている従者達もみな同じだった。
そこには入江八広とザラも、大国主のみことに頼まれ同席していた。
ザラが八広に、小さな声でささやいた
「八広様。黄泉国の人々は無気味ですね」
「そうですね。ただ使者と生者が混在した国では、顔を見せてはいけないのかもしれません」
「顔を見せてはいけないとは? 」
「使者の顔は見るに耐えないからです」
「‥‥‥‥ 申し訳ない。奈落殿、月夜見本人の気持ちを確認したのだけど、貴殿の御希望に添うことはできないのだ。なにしろ父親として、本人の気持ちを最も大切にしてあげたいと思う」
「そうですか。仕方がありません。しかし、そうであれば月夜見どのご本人から、自分の気持ちをお聞かせ願いたいのですが」
奈落はそう言うと、覆面で隠した顔を同席している月夜見の方に向けた。
無気味な顔で見られた月夜見は動ずることのなく、座っていた席から立ち上がった。
「ほんとうに申し訳ありません。奈落様、私にはもう心に決めている方がいらっしゃいます。それは―――― 」
突拍子に、月夜見はとんでもないことを言おうとしていた。
そして、王宮に謁見の間にいた誰もが、すさのおの名前が出てくると思っていた。
「八広様です!!!! 」
「やひろとは誰ですか? 」
いきなり、自分の名前を出されたことで入江八広は大変面食らった。
しかし、この場をうまく治めるために一芝居うつことにした。
「私が八広です。邪馬台国の将軍にして、石の国の王女ザラ様の婚約者です。月夜見様とは、いろいろ話し合いました。そして、第2夫人でも良いから私の妻にということでしたので同意しました」
「えっ!!!! 」
その場に控えていた、たたら国の多くの人々が仰天した。
自分達の王女だ邪馬台国の将軍の側室になるという話しだったからだ。
ただ、奈落は覆面をしたままで八広の方を見た。
彼は、うなづいた。
不思議なことに、八広を見て何かを感じ取ったらしかった。
そして、月夜見と八広がうった芝居をまともに信じた。
「なるほど。立派な方ですね。生者ばかりか死者も、八広様に従うことになるでしょう」
ところが、もう一人、その場にいて芝居をまともに信じるどころか、怒り狂っ者がいた。
すさのおだった。
「ふざけるな。くだらない、嘘をつくな。月夜見、お前が八広のことを好きなわけがない。この男には、こんなにきれいな婚約者がいるだけではなく、あの登与女王がいるのだぞ!! 」
「登与がどうしたっていうのよ。私のいとこに過ぎないわ。必ず勝って八広を私のものにするわ」
「‥‥‥‥ 」
すさのおの顔が怒りに満ちあふれた。
「我の怒り、我が体に蓄積する。我は怒りを噴火させるものになる」
彼は自分が腰に差していた2本の剣を抜いた。
それを止めに多くの衛兵が彼を取り囲んだが、全て一振りで倒された。
「これはいけない」
八広も自分の大剣を抜き駆けつけた。
そして、数回、すさのおの剣を受けると、すさのおが言った。
「くやしいが、お前は強い。たぶん今、この八島の上にいる人間の中で最強だろう。だけど、俺のこの気持ちは抑えることとができないからな。お前、後で何とかしてくれ」
そう言ったすさのおの体は光り始めた。
そして、生身の体は特別なエネルギーを充満させて特別な体になった。
怒れる神スサノオの誕生だった。
彼はぎらぎらした目で王宮の天井を見上げると、飛んだ。
その後、天井を突き破って大きな穴を開けて外に出ていった。
残された人々はざわざわしていた。
奈落は大国主のみことに一礼して言った。
「ものすごい家来がいたものですな。怒りにまかせて神化してしまうとは、もともと何か人間離れした力をもっていたのでしょう」
その後、奈落は月夜見に覆面をした顔を向けて言った。
「月夜見様。あなたが八広を心の底から好きだと言うことはわかりました。今回は、あなたのことをあきらめましょう―――― 」
奈落の声の調子が変わった。
それは、とても優しい声だった。
「あなたの気持ちが八広に届くように、心の底から祈っております」
奈落は月夜見のことを諦めて、素直に黄泉の国に帰って行って。
その日以来、たたら国には毎日大雨が降り続いた。
そして、雷が国土のあちこちに落ちて、山火事が発生した。
怒れる神となったスサノオの仕業だと人々は噂した。
八広も人ごとではなくなった。
うそから出たとはいえ、その半分以上に自分の責任があると思った。
月夜見の心が完全に八広にあると知って、スサノオは絶望していた。
彼はただ、たたら国と黄泉の国との間にある荒野をさまよった。
神化した彼の心の激動は、天候に大きな影響を及ぼした。
大雨が降り続き、轟音を響きかせる雷が頻発した。
彼が月夜見に対して思っていた気持ちは、愛情とは少し違っていた。
たたら国の武芸者の家の子供に生まれて彼は、小さな頃から自然に月夜見の護衛係だった。
それで、自分はいつもそばにいる月夜見と一緒になるという気持ちが自然に固まっていたのだ。
小さな子供の頃から、遠くない未来で月夜見は自分の妻だと確信していた。
神となった彼は、国土に大洪水を起していた。
それは自分の力のためだとうすうす感じていたが、自分の気持ちをなだめることは不可能だった。
ある場所にさしかかった時、彼はあることに気がついた。
洪水となった水の流れに、何かが流されていた。
それは、美しく精巧に作られた櫛だった。
あまりに美しいので、彼は近づき、櫛を手に取った。
しばらく行くと、洪水の水に浮かんでいる小高い丘の上に粗末な家があった。
お腹がすいたスサノオは何かをもらおうと、その家の中に入った。
3人家族らしかった。
父親と母親はずぶ濡れのスサノオを見て、大変恐怖した。
怒れる神となったスサノオのことを、人々は既に知っていた。
恐怖した両親は1歩も動けなかったが、娘は違った。
「スサノオ様。我が家にはとても粗末な食べ物しか残っていません。でもお食べください」
「私が恐くないのか」
「ええ。御事情は全部知っておりますよ、月夜見様を邪馬台国の将軍にとられてお怒りなのですね。お気持ちはよくわかります。でも、あの『わらわ』とかいう女のどこが良いのですか」
「えっ!!!! 」
スサノオは驚いて娘を見た。
彼女の長く美しい、光るような黒髪が印象的だった。
それは自然な行動だった。
「娘。この櫛で美しい黒髪をとかせえばさぞ‥‥ 」
スサノオは先ほど拾った櫛を、その娘に渡そうとした。
「えっ!!!! スサノオ様、ありがとうごさいます。その櫛は私のものでございます」
娘の顔が、あふれそうな喜びで明るくなった。
そのような美しい顔を、スサノオは見たことがなかった――
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週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
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