神武への遠征5(たたら国)
第4作目の投稿です。
是非是非、お楽しみください。
大国主のみこととの話が済んだ後、盛大な晩餐会があった。
その後、八広はたたら国の中を案内してもらうことになった。
入江八広が控え室で待っていると、月夜見が部屋に入ってきた。
「八広様。我が国との友好協定を締結していただき、ありがとうございました。一つ、お聞かせ願いたいことがあるのです。私のいとこ、邪馬台国の登与女王は、ほんとうに私と似ているのでしょうか」
「はい。王女様、お二人の母上どおしが双子の姉妹だけあって、ほんとうに瓜二つです。たぶん、今、人口が少ないこの国の中では最も美しい方と、その次の方になるのは間違いありません」
「私は不思議に思うのです。この世界で同じものなど並び立つはずがないではありませんか。たぶん、登与女王と私とは深い所では全く正反対なのでしょう」
月夜見のその意見に、八広は「なるほど」と思った、あえて、そのことは口にしなかった。
「月夜見様。どういう所が正反対と思われるのですか」
「私の居場所は、暗い暗い夜、闇の世界なのでしょう。これに対して登与様はきっと、明るい太陽の下がお似合いの方に違いありません」
「どうして、そう思われるのですか」
「前に、八島の神にお会いするために通る神界の参道で、時々、登与女王とすれ違うことがあったと申しました。その時、あの方は輝いていらっしゃいました。それに比べると私は―― 」
「月夜見様。あなたは登与女王と同じでなくてもよいと思います。光りは暗闇があって成り立つのです。暗闇も素敵ですよ。疲れた心を癒してくれますから」
「ありがとうございます。私は光りよりも闇が好きなのです。そう言っていただくと、とても勇気が出ます。八広様。あなたは次にどの国に行かれるのですか」
「もっと北にあるという国です。なぜだかわかりませんが、その国の名前がわかりません。誰も僕に教えてくれないのです」
「それならば、私が申し上げましょう。それは死者の国である黄泉の国です。もう、これ以上、八広将軍が遠征する必要はありません。行ってはいけません。もう一度申し上げます。そこは死者の国です」
「死者の国が八島の地上にあるのですか‥‥ それは見過ごせません。なぜなら、自然の摂理に反しているからです」
「そうお考えならば、どうなされますか。死者は殺すことができません。逆に、人間は深い敬意をもって彼らを遇する必要があります」
「‥‥‥‥ そうですね、通常は生者と出くわさないようにしなければなりません。どこかに良い場所があれば、そこにお移りいただくしかないと思います」
「今から古い古い昔の話しです。死者を地下深く封じ込めようとした勇者がいました」
「それで、その勇者はどうなったのですか? 」
「わかりません。記録に残っていないのです」
やがて、入江八広とザラは大国主のみことの案内で、視察に出かけた。
特に希望して、たたら国が最も進んでいる鉄の鋳造工場に時間をかけた。
その工場に近づいた時、八広は気がついた。
「大国主のみこと様、ずっと向こうの空は変ですね。何かに覆われて暗いです。天候が悪いのでしょうか、台風の雲が起こっているのでしょうか? 」
八広がその質問をした時、大国主のみことの顔がとても曇った。
「八広様。あのあたりが国境なのです」
「えっ、隣はなんという国なのですか」
「‥‥‥‥‥‥ 黄泉の国です」
「黄泉の国ですか!! 先ほど月夜見様から教えていただきました。死者の国なのですね」
「はい。そのとおりです。数年前まではもっと遠くに国境があったのですが、だんだん国境が近づいてきました。つまり、死者の国が広がっているのです」
「それは問題ですね。このたたら国だけではなく、最後には邪馬台国も含めて八島全体が死者の国になってしまいます。ほんとうに問題ですね」
「矢広様。大きな問題がもう一つあります。我が娘、月夜見に黄泉の国の王が目をつけたらしいのです」
「目をつけた? どういう意味ですか? 」
「月夜見が、黄泉の国との国境のそばを歩いていた時、黄泉の国の王、奈落がその姿を見初めて引きつめられてしまったのです。奈落は月夜見を妻にしたいと申し出ています」
「奈落という王は死者ですか、生者ですか? 」
「死者の国の王ですから、当然、死者であるのが普通ですが―― それが生者なのです」
「そうなんですか」
「黄泉の国は基本的には死者の国なのですが、その死者と深い縁がある生者を引きつけるのです。例えば、死んだ恋人を忘れられない人が、死んだ恋人に引きつけられるのです」
「気持ちはわかります―― とてもとても気持ちはわかります―― 」
月夜見とすさのおが断崖近くの岩の上に、2人で腰をかけていた。
すさのおが聞いた。
「奈落に返事をするのはいつだ?? 」
「10日間、父上はすっかり忘れているけどね。あの人は、いやなことは忘れて横に置いておくことが得意なのよ」
「そんなことはないぞ、俺は国王が深夜まで机に一人座り続け、険しい顔をしている姿を何回も見た」
「そうしよう‥‥ わらわは暗闇が好きなのだけど、死者や黄泉の国は大嫌い。逆にあの将軍のことは、もしかしたら大好きかも―― 」
「おいおい、それは誰のことだ。もしかしたら、邪馬台国の八広将軍か? 」
「‥‥‥‥ 」
「図星か」
大国主のみことは、王宮にある自分の部屋で夜遅くまで眠れないでいた。
明日、黄泉の国の使者が月夜見と奈落との縁談の答えを正式に聞きに来ることになっていた。
「あなた、お体にさわります。少しでも眠られたらどうですか‥‥ 」
女王のてるよが心配して声を掛けてきた。
「うん。そうだがな。私の心はもう決まっている。ことわりたいと思っているのだよ。しかし、それを聞いた後、奈落がどのようなことをするのか、心配でたまらない」
「大丈夫ですよ。運が良いことに、ただ今、我が国には邪馬台国の大軍が駐在しています。それに、最強の将軍がいるではないですか」
「八広将軍か」
「そうですよ。あの方は歴史を変える方です。八島の歴史をあの方が変えられるでしょう。私も巫女のはしくれですよ―― 八島の神があの方を加護しています」
「そうか‥‥ そうだな‥‥ 八広将軍がその場にいれば問題ないな。任せよ―― 」
「まあまあ」
てるよ女王は、既にぐっすり眠っている大国主のみことの姿を笑いながら見た。
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