自分の匂いはわからない
キリが悪いかもしれません。
「僕は認めないよ!」
「だから、誤解なの!圭は友達で、遊びに来ただけ」
さっきから言い合いしてるけど、なかなか終わらないな。
「け、圭だって!?名前で呼ぶなんて爛れた関係、パパは認めないよ!」
「どうしてそうなるのよ!バカ!」
「うわぁぁぁぁん!!助けて巴!娘がちょっと遅めの反抗期だよ!?」
「はいはい。塩崎さん、どうぞ」
葵のママンかな。コーヒーはさっき飲んだばっかなんだけど、有り難く頂こう。
「あ、どうも」
なんか悪いことしたかなぁ。休日の一家水入らずの時に、俺なんかがお邪魔しちゃって。
「あ、そうだ。塩崎さん、たしかタバコ吸いましたよね?灰皿持ってきますね」
タバコ吸うなんて言ったかな…。いや、言ってないな。初対面でいきなり「僕、タバコ吸うんですよ!」なんて言うわけがない。
「塩崎…?葵ちゃん、さっき圭って言ってたよね?」
「言ったけど…?」
あ、葵ママが灰皿持ってきてくれた。ここまでしてくれて吸わないのは失礼だから、仕方なく吸うか。吸いたいわけじゃなくて、本当仕方なく。
…誰に言い訳してんだよ…。
「塩崎…圭……。塩崎…圭くん!君、圭くんじゃないか!」
はい、そうですよ。
「あら、今頃気付いたんですか?」
「え?え?圭と知り合いだったの?」
ん~…会ったことあるような気はするんだけど、思い出せない!
「たしか、2年前かな。一緒に仕事した事があるんだ。いや~、よく覚えてるよ!」
さっきまで忘れてたじゃねえか!
「へ~、全く知らなかったわ…」
「そりゃそうだよ。葵ちゃんには話してなかったもん!」
……思い出した!
「あの時の親バカか!相変わらずだなぁ」
「僕の葵ちゃんへの愛が変わるはずないじゃないか!」
本当に相変わらずだな……。
「あんたが溺愛してる娘が葵とは……世の中狭いねぇ」
「それはそうと、葵ちゃんとはどういう関係なのかな…?名前で呼びあって……かなり親しそうだけど」
どういう関係って言われても……。
「もう!しつこいなぁ!友達だって言ったでしょ!」
「そういうこと」
葵に便乗しとこう。
「僕の葵ちゃんセンサーが圭くんは危険だと告げてるんだよ!これはどう説明するのかな!?」
知らねぇよ!何だその訳わかんねえセンサーは!
「今んとこ俺の股間のセンサーは反応してないから大丈夫。心配するな」
反応しかけたのはカウントしないよ!
「どうして!?葵ちゃんはこんなに可愛いのに!?」
「めんどくせぇ奴だな!だったらあれか!?ビンビンにして襲いかかればいいのか!?」
「な、何言ってるのよ!!」
え?
「ハプッ!?」
…へへ……脇腹にいいの貰っちまった…。まさか横にいた葵から攻撃されるたぁ……俺も鈍ったもんだぜ。
「何て事言い出すのよ!変態!」
なんてこった…。
「お前…肋は意外と弱いんだぞ」
年寄りならくしゃみで折れかねない。
「葵、ちょっとお買い物行ってきてくれる?」
このタイミングで言う!?
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
「ただいまー!」
「おかえり」
てか、なんで俺はまだいるんだろ。これもう家族水入らずの時間じゃないのか。
「じゃあ、俺はそろそろ…」
空気読むぜ!そもそも葵が買い物行ってる間、葵ママと親バカと話して待ってた時点であれだけど、空気読むぜ!
「あ、お風呂ですか?後でタオル置いときますね」
「はい、ありが……違う」
なんで初めてこの家に来た俺が当たり前のように風呂入るんだよ!葵ママはあれだな……あれだな!
「いや、そろそろ帰ろうかと」
「えぇ!?」
何で!?
「お夕飯食べて、お風呂に入って、婚姻届けに判押して、泊まっていかないんですか!?」
「バカかあんた!?」
あぁ、言ってしまった。言うまい言うまいと我慢してたのに、言ってしまった。だが悔いはない!
「僕の嫁に何てこと言うんだ!そりゃ、ちょっと……だけど」
めっちゃ小声になったけど、何となくわかった。
「な、何よ婚姻……って!?」
変な所似てるのね。……やっぱり親子だな。
「あら、葵が家に男性連れてきたのなんて初めてだし、てっきりそういうつもりだと思ってたわ」
あんたの娘、まだ学生ですよ。学生結婚なんていいことないよ。
「べ、べちゅ別にそそういうちゅ、つもりで連れてきたんじゃなん!」
めっちゃ動揺してるな。じゃなんって何だよ。
「娘は…娘はやらんぞぉ!!」
こいつは…もういいや。
「一人娘だからって大事に育てすぎたのかしら。……孫の顔が見れるか心配だわ…」
「ま、まままま孫ぉおおぉぉぉぉおぉぉ!?」
「もう!そんなんじゃないって言ってるでしょ!!」
僕は空気…僕は空気…。存在を感じさせずに玄関まで行くんだ。大丈夫、僕ならできる!
「あら?塩崎さん、やっぱりお風呂ですか?」
気付かれるの早すぎだろ俺!そして、そんなに俺をお風呂に入れたいんですか!?やっぱり臭いのかな!?
「まご…まご…まご…まご……」
あぁ!一家の大黒柱がピンチですよ!
「葵、それ寝室に寝かせといてくれる?」
「…わかった」
それって…。葵も、そんなに汚い物を見るような目をしなくても……。
やっぱり一家に男が一人だけだと、こうなるのかな。こわいな。
「じゃあ、塩崎さん」
「うぉっ!…はい、なんでしょ」
何故かわからないけど、ちょっとビビってしまった。…不覚!
「どうぞ遠慮なさらず、お風呂に入って下さい。私はその間にお夕飯の準備しますね」
え?…風呂入って夕飯食うのはもう確定なの?
……やっぱり臭いんじゃ…。
なんかもう、ギャルゲーだと葵ルート入ってるだろって感じですね。
どうしましょ…。
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