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38話 絆(4)

 ……何がおこった?


 真っ暗な空間でまるで水の中に沈んでいく感覚にレヴィンは目を細めた。

 ブクブクと身体が沈んでいく感覚はあるのに、意識はあり息苦しくもない。


 メフィストの悪戯か?


 考えるが、彼にいくら心の中で呼びかけても答えはない。


 ……もしかして死ぬのだろうか?


 体は沈んでいく感覚だけははっきりわかるのに、どれほど力を入れようとしても指一本動かせない。


 特に体調に異変はなかった。今まで普通に過ごし、頭が痛いなどの前兆もない。

 なのになぜ死に向かっているのかも、わからない。


 悪魔の力を借りて聖女の体をのっとったせいで相反する力が体に作用でもしたのだろうか?


 そもそも前例のないことをやっているのだ。体に害があるかどうかすらわからない事をやったのだから、突然死もあるのかもしれない。


 志半ばで意味もわからず唐突に死ぬとは笑えない――。


 結局自分の人生などこんなものか。

 何一つなせないまま、無駄に死んでいく。


 全てをわかった気になって、事前に手をまわし準備をしていても、予測のつかない事態には逆らいようがない。まるでレヴィンの今までやってきたことを全否定するようになんの前触れもない死に、いままで我慢していた何かがこみ上げてくる。


 少しくらい報われたかったと願うのはそれほど罪な事なのだろうか?


 もう少しで復讐が完了するというところまできて、理由もわからず死を迎える。


 もう意味がわからない。


 自分の目から流れた何かで、レヴィンは自分が泣いている事に気づく。

 それでも体が動かず涙をぬぐう事もできない。


 どれくらい時間がたっただろう。


 沈みきったのか、体が沈む感覚が消え、床に寝ている状態になる。


(ここが死の世界――?)


 わずかに動かせた目を横に向けると、そこには見えない壁を叩くように、必死に壁のようなものを叩いているセシリアの姿が見えた。


 泣きながら、見えない壁を叩き何かを叫んでいるセシリアの姿に苦笑する。


――このセシリア様が死ぬ前に見えた幻だというのなら、せめて微笑んでいてほしかった。幻ですら自分は彼女を泣かせる事しかできない。


 どうしたらよかった?

 どこで間違った?

 自分は何をしたらよかった?

 答えの出ない疑問に、もうどうでもよくなってくる。


 わずかに動いた頭を横にむけると、幻のセシリアと目があう。

 自分の顔をみるなり酷く傷ついた表情になるセシリアに、心がしめつけられる。

 自分の中の幻のセシリアですら自分を受け入れてくれない。

 それでも――、レヴィンは動かない手を懸命に彼女に伸ばした。


 ずっと、ずっと聞きたかった質問。

 どんなに考えても出なかった答え。


『どうしたら、私は貴方を幸せにしてあげられたのでしょう?』


 幻の彼女に問う。


 けれど答えは返ってこなかった。


「セシリアっ!!!!!」


 ディートヘルトの声で唐突に意識が戻ったのである。

 気づくとディートヘルトに上半身を抱えられた状態で、血を吐いて横たわっていた。

 口の中に血の他にわずかにエリクサーの味がある。

 ディートヘルトが飲ませたのかもしれない。


「……ディ」


 声をだすと、それとともに、血と薬が口から溢れ堕ちた。


「喋らなくていい、いま魔道具で医者と馬車を呼んだ。今すぐくる。だから、エリクサーをちゃんと飲んでくれ」


 そう言って、ディートヘルトが泣きながら飲ませてくれたエリクサーの味は血の味だった。


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