私と夫の話~幼馴染で、できちゃった婚した夫婦の秘め事~
私と夫が育ったのは、人口五百人もいない漁村だった。
生まれた時から一緒の私たちは、高校に入るまで常に同じクラス——クラスが一つしかなかったから当然である。
夫に恋したのが五歳の時、見た目が良かったし、何より私に優しかったのがきっかけだ。
だが、そんな私の気持ちは七歳で萎んだ。
何故なら夫の良い所は、顔だけだったからだ。
気持ちの冷めた私は、夫とそれなりに距離を置きたかった。
だが、残念なことにそれは叶わなかった。
互いの両親が漁に行っている間、両親を心配させないために夫といる必要があったからだ。
高校生になると夫が残念イケメンと言うのを知らない女子が、私に夫へのラブレターを頼んでくるようになった。
頼まれたものは、その日の内に夫の家のポストに突っ込んだ。
夫が何と返事をしたのかは知らない。
夫に彼女が出来たのもその頃だ。
最初の一週間は、上手くいっていたように思う。
だが、気づけば夫は彼女と別れていた。
相手に理由を聞くわけにもいかない私は、ただ傍観していた。
結婚してから夫本人に聞いた内容によれば、夫を彼女になった全員が残念だと言って去っていたらしい。
まぁ、夫が残念なのは七歳から知っているので、今更感が半端ない。
付き合っては別れを繰り返す内、私にラブレターを頼む女子が居なくなった。
それどころか、私に大変だね、頑張ってね、と励ましをかける人が続出した。
あの頃は何のことかわからなかったので、返事は曖昧にしておいたが……。
その意味がわかった今は、詳しい話を聞いておけば良かったととても後悔している
東京の大学に受かった私は、一人暮らしを満喫しながら地元の役場に勤められるよう資格を取っていた。
一方の夫は、顔がいいという理由だけでホストになった。
馬鹿なのにホストができるのか? と思っていたが、意外とうまい事やっていたみたいだ。
別々の所に住んでにいても私たちは、月に一度の頻度で会っていた。
約束したわけではない。
夫が休みのたびに訪ねてくるので、仕方なく本当に仕方なく、月一回だけ付き合っていただけだ。
そうして、あの日がやってくる。
その日夫は、泥酔近くまで酒を飲んでいた。
私は、下戸なので素面だった。
「ななみ」
「何?」
「おれねー。ななみがすっとすきだだったんだー」
「は? 気持ち悪いからやめて?」
出れッと笑って告白されるなんて、正直本気できもかった。
さっさと追い返そうと夫の腕を持ち立たせた。
ふらついた夫が、私の方へ倒れてくる。
ベットに倒れ込んだ私の上に夫が覆いかぶさった。
良からぬことを始めようとする夫に私は、かなり抵抗した。
腹を蹴り上げたり、顔を殴ったり。
なのに夫は、びくともしない。
それどころか、蹴るために上げた足を開くと言う暴挙にでたのだ。
もういい……その瞬間、私は処女死守を諦めた。
その結果、私のお腹には夫の子供が出来ていた。
まさかである。
たった一度の行為で、である。
子供が出来た私たちは、急遽結婚することになる。
嫌な気持ちのまま高校の友人に夫と結婚すると報告した。
すると友人たちは皆が一様に、結婚式は喪服着て行った方がいい? と真剣に聞いてきた。
友人たちも分かっているのだ。夫がとても残念だと……。
結婚した私たちは、実家のある漁師町に戻った。
私の夢が、地元の役場に勤めることだったからだ。
私たちの住む家は、互いの実家から徒歩一分の場所にある。
それ故に喧嘩しても私は、実家に帰らせていただきます! と、言うフレーズが言えなくなってしまった。
一人目の娘が無事に生まれ、夫は娘を溺愛するかと思われたがそんなことは無く。
きちんと馬鹿なりに勉強しないと馬鹿になるぞと教えていた。
お前は勉強したのかという目で娘が見ているが、夫は気づいていない。
娘が生まれて一番めんどうだったのは、両親ズだ。
毎日のように娘に会いに来ては、とれたての魚を持ってくる。
その魚をさばくのは私だ。めんどくさい以外の何物でもなかった。
そして、二人目の息子を妊娠した。
夫がオンラインゲームをしているのは知っていた。
まぁ、正直仕事はちゃんとするし、ゲームぐらいいいだろうぐらいに思っていた。
だが、ある夜。
眠った夫が寝言で「ミッチェル姫、すきだよ~」と言っているのを聞いてしまった。
ドン引きである。
翌日、私は夫に「好きな人いるなら、いつでも離婚するよ」と優しく微笑みを浮かべて言った。
その途端夫は、自室に戻りノートパソコンを私の前に持ってきた。
そして、徐にゲームをアンインストールした。
ノートパソコンを閉じた夫は、私を後ろから抱きしめた。
「俺が好きなのは、ななみだけだよ」
「そう。ミッチェル姫はいいんだ?」
「もう、覚えてない。ななみだけ」
「へ~」
と、言った身の毛のよだつ会話がなされた。
その日以降、どんなに寝言を聞こうとも私は、夫に好きな人がいるならとは言わなくなった。
そうして、現在私は三人目を妊娠している。
夫は、意外にも本気で私を好いていてくれたらしい。
そう思うのは、暇さえあれば私にかまうからだ。
その一方で、オンラインゲームの中で恋愛遊戯を楽しんでいる。
今の相手が、私とは知らずに……。
現実でもゲームでも、夫にかまわれて喜んでいる私もまた夫と同類なのかもしれない。