シェヘラザードの話が終わるとき
深夜二時。いわゆる丑三つ時という時間帯。
草木も眠る、しずかで、怪しげな何かが起こる時間。
そこに一通のメールが入る。
『今、ここのコンビニ前にこれませんか?』
位置情報と共にメールが来た。
会社の後輩の女の子。あまり話したことはない。一度だけ飲みに行ったくらい。
ちょうど眠れなかったので適当にパーカーとスウェットを身に着け、緑茶をグビッと一気飲みをして指定されたコンビニへと足を運ぶ。
夜のコンビニというのは、白い光で包まれ、眠そうな店員があくびを一つ。いつもの何気ない光景。今夜はその光景にプラス二人。彼女と自分の二人。
彼女はあたたかそうなコートを身にまといコンビニの壁によりかかり待っていた。
こちらに気づき、駆け寄ってくる。それはそれは嬉しそうな顔で。
「こんな夜中にありがとうございます!先輩!」
「それで、要件は?」
冷たく挨拶もなしに彼女の言葉を足げりする。
「あの、私ずっと先輩にあこがれていて…」
その先はなんとなく理解した。
「その…付き合ってほしくて…」
恥ずかしさからか急に声が小さくなった。さっきまで元気で明るいひまわりのような声が。
夜中ということもあり、大声よりかはと思った。
「ごめんなさい。」
その一言で彼女の顔のメイクを流していくように涙がボロボロと滝のように流れた。
「私こそ…ごめんなさい…驚かせてしまうようなこと言って…」
涙で袖の色を変え、しゃくりあげ言葉をつまらせながら謝罪をする彼女をただ見ていた。
今告白されたやつとは思えないほど他人のように。
彼女のぐずぐずな頬がコンビニの光に照らされ白くてかる。
こんな夜中にごめんなさいと最初と同じように言って彼女は肩を落として帰っていった。
どうするのが正解だったのだろうか。
LGBTの発達していないこの国で、世間の冷たい目にさらされながらも彼女と付き合うべきだったのか、彼女の懸命な告白を足蹴りしてでも自分の身を守るべきだったのか。
夜の静けさと葉のざわめき、冷たく体を吹き抜ける風、それらは私をあざ笑うようにそこに存在した。