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大魔法使いはファイヤーボールの修業中

「あぁ~、何度やっても投げれない!これじゃあ、ダメだ!!」

 掌に魔力で出した炎を揺らめかせながら、私は叫んだ。

 伝説の魔法「ファイヤーボール」を習得すべく、屋敷の敷地に作った魔法練習用の小屋に籠って今日で3日目だ。

 12歳の頃より、この魔法を使うことを目標として密かに練習を続けてきた。「大魔法使い」として自分の屋敷を構えてからは、仕事の合間を縫って月に1度、数日間だけ、この小屋に籠って1人で修業をしている。

 ただ、今日も炎は掌で揺らめくだけで、一向に私の思うようにはならなかった。

 

 「ファイヤーボール」は、魔法の炎を円形にして敵に投げつける攻撃魔法だ。平和な時代が続くなかで、戦闘の為の魔法は不要になり、魔力を持つ人間は減っていった。強力な魔力を持つ魔法使いは今はおらず、誰も使うことのできない伝説の魔法となっている。


「もう、時間が無いのに・・・・。」

 私は、一刻も早くこの魔法を習得しなくてはいけない。

 焦る気持ちを抑えて、私は、再度、魔力を掌に集中させた。




「やばっ、寝坊するっ。」

 昨日までの修業で疲れ切っていた私は、何度目かの侍女のノックの音で、慌ててベッドから飛び起きた。


 王国に仕える最高位の魔法使いである「大魔法使い」で、しかも3カ月前に若干18歳でその地位に任命されたばかりの私が、個人的な修業で仕事を休むとは言えなかった。悩んだ末、「風邪で熱っぽい」というわかりやすい仮病で、3日間休んでしまった。

 ただ、さすがに4日目ともなると、煩い役人どもが「女は体が弱いから大魔法使いは無理」だとか言い出すとだろうと思い、仕事に行くことにしたのだ。


「リリア、待たせすぎだぞ。」

 私が着替えだけ済ませ、屋敷の玄関ホールへ駆け降りると、呆れた顔の男性が立っていた。


「何度も、リリア様の寝室のドアを叩きましたが、お返事が無くて・・・。」

 若い侍女が男性の横で、おろおろとしている。


「リシャール!・・王子・・どうして?」


 リシャールは、護衛も付けず1人だった。私も何度か目にしたことがある彼が城下へお忍びで出るときに使う商人風の服を着て変装をしている。

 変装をしていても、その整った顔立ちとスタイルの良さは、どこでも人々、特に女性の目を惹きつける。お忍びで入った食堂で、何故か彼の注文した料理だけてんこ盛りだったり、良い肉が出てくる時は、大抵、熱い視線を送ってくる女性の店員がいる。


「リリアが、熱を出して3日も休んでいると聞いたから、優しい幼馴染の俺が、元気のでる食べ物を差し入れようと来たのだが、もう、平気なのか・・・?」

 そう言って、リシャールは、大げさにうなだれた。


「えっと・・じゃあ、大事をとって、もう1日休みます。」

 役人よりも偉い人(王子)の言うことには、逆らえない。私は、仮病の延長を決めた。


「元気そうじゃないか。大魔法使いが、仮病を使っちゃまずいだろう。どうせ、いつもの修業だろ。」

 リシャールは、にやにやしながら、私を見る。


 私が12歳でファイヤーボールの練習をこっそり始めた頃、誤って王妃のお気に入りのバラを燃やしてしまい、彼に助けを求めてた。それ以来、彼は私が「ファイヤーボール」の修業をしていることを知っている。


「うわー、このクッキー可愛いし、美味しい。」

 リシャールの目を見ず、私は言った。


 まだ午前中ではあるが、2人でティータイム中である。

 早く持ってきたものを食べろとリシャールが言うので、箱を開けたらクッキーだった。

 さすが、王家の料理人が作るクッキーで、クッキーひとつひとつに小さな砂糖菓子やら飴細工が宝石のように飾り付けしてある。


「なんでも、最近、砂糖菓子やクッキーに指輪を隠してプロポーズするのが人気らしいぞ。」

 リシャールは、照れたように言う。

 なぜか、私から目を逸らせて「と、とりあえず、これがお勧めだな。」とピンクの小さなバラの砂糖菓子が付いたクッキーを選んでくれた。


 クッキーなんて、病人に持ってくるものではないし、どうやら、リシャールは、私の欠勤がいつもの修行(仮病)だと知っていて、自分も公務の息抜き(さぼり)に来たらしい。


 私は、元々はこの国の男爵家の次女だったが、魔力が幼い頃より強かった為、10歳になった年に親元を離れ、城内の一画に建てられた合宿所のような施設で年上の大魔法使い候補達と共同生活を送りながら、先代の大魔法使いから直々に教育を受けていた。

 この国の第1王子であるリシャールとは、同じ年ということもあり、大人の目を盗んで良く遊んだ。


「そうだろ。リリアの為に料理長に頼んで作ってもらったんだ。新しい料理長は、焼き菓子が得意だからな。次は何を作ってもらおうか?」

 リシャールは、嬉しそうな笑顔を私に向ける。


 この笑顔がもうすぐ婚約者に向けられるのだとふと思い、目が潤みそうになる。諦めたはずの想いでも、本人を前にするとこみ上げてきそうになる。その想いをごまかす為に私は、無理やり言葉を発した


「それよりリシャール・・・王子、1人で出歩いたらだめですよ。あなたは、1ヶ月後、前王の喪が明ければ、正式に王となられる身です。婚約も内定したとお聞きしました。もう、1人の気楽な身では・・・・。」


「誰から聞いた?婚約など決まってない。」

 いつになく強い口調で、リシャールは言った。


 私は、修行に入る前日、仲のいい城の侍女から、お茶を運んだ際にリシャールが王家御用達の職人から指輪を受け取っているのを見たと聞いた。「横目でちらっと見ただけでもわかる美しいダイヤモンドの指輪だったから、婚約指輪に間違いないわよ。」と彼女は言っていた。

 その話を聞いた私は、まだ自分が「ファイヤーボール」の習得していないことに慌てて、仕事を終えると屋敷の小屋へ直行したのだった。


「リリアが傍にいてくれれば、俺は出歩かないよ。リリア、私の・・」

 リシャールは、私をじっとみつめながら話を続ける。彼に見つめられていると顔が真っ赤になってしまう。私は、慌てて彼の話を遮った。


「いや、無理ですよ。私は魔法使いです。お傍にはいれません。王をお傍で守るのは騎士の役目ですよ。魔法使いは、王の護衛はできませんし、戦争にも参加できません。それに・・・どんなに修業しても、まだ攻撃魔法は使えません。」


「まったく・・相変わらず魔法に夢中で話が通じてないな。」

 何故だか、ため息が聞こえた。

「前にも言ったが、攻撃魔法なんて、リリアには必要ないだろ?危険な魔法は、使わないで欲しい。」

 そう言って、リシャールは、また私の目をじっと見つめた。


 私は、城で一緒に過ごすうち、年々男らしくなっていくリシャールに戸惑っていた。そして、気が付いた頃には彼を目で追うようになっていた。自分の気持ちをはっきりと自覚した12歳の年、私は、彼の傍にいる為に2つの目標を立てた。


 1つ目の目標「大魔法使いになること」は、すでに叶えた。

 それは、私にとって、結婚しない為の唯一の手段だった。

 男爵家の娘である私には、「政略結婚」という役目があった。貴族の娘は、18歳の成人を迎えるまでに婚約者が決められ、20歳になる頃には嫁ぐ者がほとんどだ。

 父は、魔力があれば箔が付いて公爵家に嫁に出せるかもしれないと画策していた。私が17歳で大魔法使い候補の最後の1人になるまでの間、「婚期を逃すぞ、さっさと嫁に行け。」「そろそろ婚約者を決めるから家に帰れ」という手紙が何通も届いた。私は返事も出さず、家にも一度も帰らなかった。


 単純な魔法しか残っていない平和な今の時代、数少ない「魔法使い」は、人々の生活の為に魔法を使っている。辺境の領主に雇われ、土魔法で開拓の手伝いをしている者もいるし、風魔法を使って、重い木材を持ち上げ、大工と共に働く者もいる。

 昔に比べやや権威が落ちたように感じる「魔法使い」だが、「大魔法使い」は別格だ。「大魔法使い」は、国に仕える存在である。王に任命され、国の為に働くのだから、王の許可なく簡単に辞めることはできない。「大魔法使い」になれば、父も勝手に婚約者を決めることはできないはず、そう思い、私は寝る間も惜しんで必死に勉強に励んだ。


「ところで、リリアは、なんでそこまでファイヤーボールにこだわるんだ? そんなもの使えなくても、強い魔力を持つ若き大魔法使いは、国民に大人気だろ。

 先週、リリアが火消しも戸惑うほどの大火事をあっという間に水魔法で消して、集まった人々から大喝采が起こったと聞いたぞ。」

 リシャールは、私を見つめながら言う。


「ファイヤーボール」にこだわる理由、それは、あなたの傍にいたいからです、と答えたいが、答えられるわけがない。


 まだ叶えていない2つ目の目標は、「ファイヤーボール」を使えるようになって、王の護衛魔法使いになること」だ。

 リシャールを男性として意識し始めた頃、城を訪れた隣国の王族の護衛として付き添う女騎士を見たことがある。その人は、女性でありながら剣を極め「女騎士」として隣国の王に認められたのだと聞いた。その人を見て、攻撃魔法が使えれば、私にも王の傍にいる権利が与えられるかもしれないと思った。


 前王の喪が明ける1ヶ月後、彼は王になる。

 リシャールが王となるタイミングで、護衛の騎士たちの編成もおそらく変わるだろうと考え、そのタイミングで、「ファイヤーボール」と共に「護衛魔法使い」として名乗りをあげようとずっと修業を続けてきた。ただ、肝心の「ファイヤーボール」は、まだ、伝説の魔法のままだった。

 

 リシャールが王となる時、結婚する時、私ではない誰かを見て微笑んでいるとしても、彼の傍にいるだけでいい。身分と性別を意識した頃から、恋人だとか、年をとっても仲のいい幼馴染なんて位置にいることは、諦めている。ただ、彼の傍にいられる立場が欲しかった。

 

「大魔法使になったと言っても、若いからばかにされるし、男爵家出身だとか身分でけなされることもありますからねっ。伝説のファイヤーボールを復活させた大魔法使いなら、ばかにされないじゃないですか。そ、それに今じゃ、魔法使いは農家のために土魔法で土を掘るとか、火事を水で消すとか・・主に国民の生活を助ける存在ですからね。私は、昔の魔法使いの威厳を取り戻したいのですっ。」

 私は、今日も仮病で構わないから、修業をするべきだったと後悔しながら、心にもないことを早口でまくしたてた。 


「ふーん。俺は、身分なんて関係ないけどな。国民に人気のある若き大魔法使いなら、王妃としてみんな大歓迎だと思うけどな・・・。まぁ、そう言う訳なら、俺の目が届くところで修業してもらえばいいか。」

 リシャールは何か小声でつぶやいた。そして、また、私の目を見つめて言う。

「俺は、攻撃魔法なんて使えなくても、リリアが大魔法使いになってくれて、本当によかったと思っているよ。」


「だから、魔法使いは、護衛にはならないですよ。。」


「まったく、何言ってるんだ。リリアが、大魔法使いになってくれたから、こうして気軽に会いに来られるだろ・・会おうと思えば、城で毎日会えるし。あの男爵(おやじ)の策略を止めるのにどんだけ苦労してきたことか。リリアが、誰かと婚約でもしてしまっていたらと思うと、気が狂いそうになるよ。」


「えっ??」


「全く・・・。まだ、わからないのか。お前は鈍すぎる。鈍いから、わかるようにしてやる。このクッキーは、全部、自分で食べろよ。それに、返品不可だからな。」

 何故だか耳まで真っ赤になったリシャールは、拗ねたようにそう言うと、「城へ戻る。」と急いで出て行ってしまった。

 

「いや、そっちが何言ってるんだでしょ。」

 1人になった私は、お茶を飲みなおすことにして、クッキーを選ぼうと箱を開けた。どれも可愛らしく飾り付けしてあり、迷ってしまう。


「ん・・・?すごくて光る飴が付いてる?えっ・・!これって、宝石?」

 1枚のクッキーの飾りに、見たこともない大きな宝石が付いた指輪が使われていた。キラキラ光って、まるでダイアモンドのように美しい。


「リシャールのいたずら?・・返品不可って言ってたけど・・本物?」

 試しにかじってみるが、固くて食べることはできなかった。


 お茶を1杯飲みながら考えてみたが、リシャールのいたずらにしては、凝っているし、大人しすぎる気がした。


「とりあえず、今日も欠勤して時間があることだし、修行しよう。」


 わからないことを考えていても仕方がない。

早く「ファイヤーボール」を習得しなくてはと思い、私は立ち上がった。

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