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エピローグ いつもの日々

「「……」」


「おーーーい! ヴェル! エリーゼ!」





 俺とエリーゼは、古い石碑に埋め込まれたガラス玉が光ったように思えたので暫く観察していたが、それに気がついたエルに声をかけられた。

 みんなで地下室を出ようとしたのに、俺とエリーゼだけが残っていたので不思議に思ったようだ。


「このボロッちい石碑になにかあったのか?」  


「一瞬光ったような気がして。なあ、エリーゼ」


「私もそう思って」


「そうか? 気のせいじゃないのか? 実際に光ってないじゃん」


 エルにそう言われたので改めて確認すると、確かにもうガラス玉は光っていなかった。

 というか、実は最初から光っていなかったのか?

 いや、確かに光って……いたような気もするが記憶が曖昧だな。

 ほんの数秒前のことなのに、まるで数日前のように感じてしまう。


「ちょっとした角度のせいとかで、光っているように思えたんじゃないのか?」


「そうかな?」


「もしかしたらそうかもしれませんね」


「どのみちわかりやすいお宝がないんだから、内乱が終わらないと学術調査もできない。今はそのままにしておくしかないと思うな」


「それもそうだな。戻ろうか? エリーゼ」


「はい……あれ?」


「どうかしたのか? エリーゼ?」


「指輪なんですけど、昨晩あなたから魔力を満タンにしてもらったのに、なぜか空っぽで……治癒魔法を使った記憶もないのにおかしいですね」


「もしかして魔力が漏れた?」


「そんなわけあるか。高価な魔道具なんだから。不思議な話だが、俺が魔力を補充しておくよ」


 俺は、エルの意見を完全に否定した。

 あれだけの大枚を叩いて購入した指輪から魔力が漏れるなど、まずあり得なかったからだ。

 きっと補充を忘れて……そうだよな。

 魔力を補充していたつもりだったのに、実は忘れていたとか比較的よくあることだと思う。 


「ありがとうございます、あなた」


「じゃあ、出ようか?」


「はい」


「お二人さんは、仲がよろしいようで」


「悪いか? エル」


「まさか。バウマイスター伯爵家繁栄のためにも、仲良くしてくれよ。じゃあ、早く外に出ようぜ」


 俺とエリーゼはなぜか無意識に手を繋ぎながら、謎の古い石碑がある地下遺跡をあとにした。

 結局この地下遺跡にはなにもお宝がなかったが、俺もエリーゼも色々なことがあったような……気のせいかもしれないけど、ただエリーゼも同じ気持ちだったようで、二人で手を繋ぎながらみんなのところに歩いていくのであった。 





「信吾君、信吾君」


「ううん……」


「朝よ、信吾君。もしかして、おはようのキスが必要かしら?」


「させるか!」


「ふぁっ! 何事?」



 まだ終わらぬ夏休み、宿題も終わっているので少しくらい寝坊しても……と微睡の中にいたら、二人の女性が争う声が聞こえてきた。

 目を開けると、黒木さんと榛名が早朝から言い争いをしている。

 しかも、僕のベッドの隣でだ。

 先日、僕、榛名、拓真、黒木さんの四人で海水浴に行ってきたのだが、その時から黒木さんがえらくフレンドリーになったような気がする。

 あの時は、普通に友人同士で海水浴を楽しんだ……他にも色々とあったような気が……気のせいだと思うんだけどね。

 でも、海水浴以降に黒木さんの心境に大きな変化があったのは確かだと思う。

 今日もこうやって、榛名よりも先に僕を起こそうとしているのだから。


 僕、海水浴の時にそんなに酷い寝坊したかな?


「黒木さん、勝手に信吾の家に入るのはどうかと思うわよ」


「勝手にではないわ。信吾君のお母さんに許可をもらっているもの」


「なんですと!」


「信吾君を起こしたいって言ったら、お母さん、大喜びで『どうぞ』って言ってくれたわよ。だから、明日からは赤井さんは来なくて大丈夫よ」


「私は、幼稚園の頃から信吾を起こすことにかけては一家言持つ女よ。第一、黒木さんは家が遠いじゃないの」


「それは認めるけど、実はあと一週間もすると、私も信吾君と近所同士になる予定なのよ。お父さんの転勤がなくなるから、ちょうどこの町内に家を買ったの」


「もしかして、あの新築の家?」


「そうよ。というわけだから、これからは私が信吾君を起こしてあげるわ。そうだ! 新居への引っ越しが終わったら、信吾君を招待するから。お父さんとお母さんに信吾君を紹介したいし」


「えっ? それって……」


 僕と黒木さんは友達同士で……だから家族を紹介するってこと?

 きっとそうだよね。


「おいっす! 珍しく早起きな俺! 信吾、宿題の写しで漏れがあったから、あとで写させてくれ。できれば飯も」


「江木、ちょっとくらい自分で宿題をしたら?」


「そうね。信吾君を見習って」


「俺、完全にアウェーじゃないか!」





 こんな風に夏休みを友達と過ごす普通の高校生である僕、一宮信吾だけど、僕には他人に言えない秘密がある。

 それは、僕には前世というか別の世界での記憶があり、その世界の僕はヴェンデリンという田舎貴族の八男だった。

 体を乗っ取ってしまった本物の一宮信吾の意識というか魂は、多分ヴェンデリンの体に移ってしまったものと思われ、あの詰んだ実家の状況を考えると、僕は彼に申し訳ないと思ってしまうのだ。

 でも最近、なぜかよくわからないけど、彼も向こうの世界で上手くやっているのではないかと思えるようになってきた。

 きっと本物の一宮信吾も、僕のように友人にも恵まれ、あの田舎領地は出ているはずだから、王都辺りでエーリッヒ兄さんと共に上手くやっていはず。


 僕だって、この世界でどうにか上手くやっているのだから。

 きっとそうであろうと確信する僕であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作品はシリーズ通して大好きですが 伯爵(ユウ)にイラっとしたままなので星1で(笑
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