転変
起承転結って承が一番難しいんだな、と思った今回でした。二人を応援してやって下さい。
翌朝目覚めて部屋の隅で震えていた代耶に状況を説明しようとして右フックをかけられ再び昏倒した。
再び目が覚めて状況説明に再チャレンジすると今度は泣かれた。
責任を取れとか言われて悲しくなった。いたたまれなくなってテレビをつけた。
ユピと「ネクロノミコン」はもちろん行方知れずだった。
テレビでは南魚座フォーマルハウト星の変光現象と、それに伴うガンマ線だかによる電波障害だかのニュースをやっていた。テレビ、映ってるじゃねぇか。
テレビが映っている限り世界は平和なのだ。と村上小説風に言ってみても代耶と二人の部屋は暗い洞窟のようだった。違うんだ、信じてくれ。
「代耶、聞いてくれ。」
「いしゃりょ…何ですか?」
何を言いかけていたのかキョトンとして言った。
「俺のことは今すぐに信じてくれなくていい。もっと大事なことがある。クロがいない。」
代耶は改めて辺りを見回してからバッと立ち上がった。
「探しに行かなきゃ!」
緑色のスカートを翻して出て行こうとする代耶を制止して言った。
「待てまて、あてでもあるのか?」
「あるに決まってるじゃないですか!」
その通りだった。慌てる代耶をなだめて昨日の鍋の残骸を始末してから「アッシャムス」に向かった。店に着くと、箒と塵取りを持って出勤してきたシャムスと鉢合わせした。彼は露骨に顔をしかめた。
「営業時間外だ!」
「ごめん聞きたいことがあっ…」
「一晩中自分は紳士的だったと証明する方法か?逃げた盗人の行方を探す方法か?」
全部お見通しだ!
「見つける方法あるんですか!」
代耶が飛びついた。
「私の勘は当たるが予言者じゃない。そうご都合主義的に頼るのを止めろ。忠告してやったのに…」
シャムスは店に入ると扉を閉め切りCLOSEDの札を掛け直した。
「シャムス!」
「あの娘は嘘が苦手だ!だから嘘と真実を織り混ぜてどこが嘘だか分からなくするぞ!」
扉の向こうから声が響いてきた。
「尚満さん、あいつが言ってたのって…」
代耶に答えた。
「俺達が助けた女…」
その後俺は遅刻でも半休でもいいから(そういえば高校に半休なんてあったっけ)代耶に登校するように促した。
「彼氏と朝帰りでしたとか言っちゃおうかな…」
と意味深な笑みを浮かべて立ち去った彼女を見て、改めて女の怖さというものを思い知った。
その日の午後はほぼ、ユピの信頼度未知数の証言による町内調査に費やした。
昨日のメモは単に見つからなかったのか、俺の懐中にそのままあった。
それを持って町を歩き回るうちに俺は恐ろしくなった。ユピは人を翻弄する天才だった。
書いてあった関係先を訪ねては空振りに終わり、やはりデタラメかと思えば次の訪問先で尻尾を見せたと思わせ、再び闇へ消えた。
気付いたらお釈迦様の手のひらにいた孫悟空のようだと思った。ユピの嘲笑う声が聴こえる気がした。
結局午後5時まで自転車で奔走したのみだった。
得た収穫は唯一「振り出しに戻る」であった。
待ち合わせたファストフード店で食いなれない100円バーガーを噛み締めながら常磐代耶と向き合った。
「やっぱり怪しいのはあの中学校ですよね。」
彼女は言った。
「代耶、犯人は犯行現場に戻るっていう言葉知ってるか。」
俺は答えて言った。
あの中学校にまた乗り込まねばならない展開に俺はナーバスになった。あそこで何個犯罪を犯したんだ俺達は。
花の女子高生とお茶しているのに気分が優れなかった。代耶は朝のニュースで見た何とか星の爆発事件が気になると言い、慣れた手つきでスマホを検索していた。
突然照明が落ちた。