嵐の前
ヒールだか味方だか分からないキャラクター、ユピをどうぞ可愛がって下さい。お願いします(笑)
がががががが がががががが
がががががが がががががが
額をピッタリとドアにくっつけて呟いていた。
「デテコイデテコイデテコイデテコイ」
「怖すぎる!」
「あ、見つけたあ!」
こちらを見て猛然とダッシュしてくる女、重力を無視して真横に跳んだ!
瞬間、俺の前に立ち塞がった代耶が腕をクロスさせサイコ女の足を受け止めるという、漫画でしか見たことのない光景を披露した。
「うっへえ!」
女は空中を垂直落下し、大の字で地べたに張り付いた。
「参ったなぁこれ、任務失敗じゃん…」
等とアニメのように両目を×にして言った。
その後クロを見せて(決して脅した訳ではない。決して。)部屋に引き込み両手両足を縛った。
拳銃を懐から見つけたが案の定モデルガンだった。何となくいかがわしいことをしている気がする…。
「何か制服拘束趣味のロリコンみたいですね。」
代耶が手を振りながら言った。
「言葉が汚い!」どこで覚えた。さて。
「名前は?」窓の外からの夕日に照らされた顔に俺は聞いた。
「Anne Judith Boese.」
「お、おう。」
アンネから先が全く聞き取れなくて俺は軽く動揺した。
「アンネ、ユッビさん?」
代耶が言った。無邪気でいいな。
「めんどくせーならユピでいいよぉ。」
面倒臭そうにアンネ「ユピ」がそう言った。
「そうか、じゃあユピ、単刀直入に聞くぞ。誰の差し金だ?」
「アタシに命令した奴?イブリースとか名乗るやつであんたらが中学校の事件で助けてやった女でまたあの本の力が必要で…」
「ちょっと待って口軽すぎない!?」
その時グーっという音が鳴った。ユピはいきなり真顔になった。
「もしかして空腹か?」
そう言うと彼女はコクコクと頷いた。あまりにもベタ過ぎる。
「尚満さん、とりあえずだし取りますね。」
代耶が言った。
テーブルのおでんを囲んで俺と代耶と、両手を縛られたままのユピが対面するシュールな絵面になった。段々と動きが少なくなってきたユピの口に熱々のこんにゃくをつけた。
「Heiss!」
「嫌らしい…」
代耶に睨まれた。何とでも言いねえ。
ユピは俺から箸でつまんで差し出されたこんにゃくをくわえて一気に飲み込んだ。ほとんど噛みもせず。
「んっっっ!」
顔を真っ赤にしてバタつき始めた!
「喉に詰まらせた!」
「尚満さん、縄!」
解放されるユピ。醤油差しやら卓上塩が倒れ、七転八倒の悶絶だった。
「水、水!」
ユピは俺が持ってきたコップの水を二口で飲み干すと一息ついた。
「はあ、助かったぜぃ。」
「尚満さん良かったですね、殺人者にならなくて。」
「俺のせいなの!?」
「すまねぇなぁ。」
ひっくり返った取り皿やら調味料を戻し、ハンカチで拭くユピ。わりと几帳面だった。
ユピは命が助かった恩義を感じたのかさっきにも増して饒舌になった。こっそりと聞き取った内容をテーブルの下で書き取りながら世にもヤワな尋問を続けた。
「それにしても甘んめぇなぁこれ。」
卓上塩を取ると無造作に鍋に振り掛けるユピ。
「くるぁあ!」
思わず地声が出てしまった。
「尚満さん!」代耶にまた睨まれた。
「ごめんよぉ悪かったよ。」とユピ。
年甲斐にもなく怒鳴ってしまったことを後悔しつつも、箸先の震えは止まらなかった。
「…もういいから平らげちゃおう。」
俺と代耶とクロ(こんにゃくには目がない。)
で残りを食べ尽くした。
ユピは萎縮してしまったのかそのあとはあまり味の染みていない卵の黄身を食べただけだった。白身はクロにやり、消化するのを見て面白がった。
…なんだか眠くなってきた。代耶は既に部屋の隅で座布団を枕にして寝ていた。ユピが勝ち誇ったように見ていた。
塩、そういえば普段使ってるやつじゃないな。