ハードボイルド・エッグ ①
こんにちは。この章はユピことアンネ・ユーディット・ベーゼが主人公、1940代ドイツが舞台です。時系列がハチャメチャなことは今はつっこまないで下さい…m(__)m
よろしければお付き合い下さい…
私アンネは焦げたソーセージみたいな臭いのする、埃っぽい寝台の上で目覚めた。
「今日も私早起きだな…。」
小声でそう呟くと向かいで寝ていたバカの頭を叩いた。不満そうにブォーッと象みたいな声(象見たことないけど)をあげた。
再び寝に入ろうとするのをバカみたいに何度も叩いた。
「起床ーーー!」
聞きたくもない発狂したような怒鳴り声に肩をすくめて部屋を出る準備をした。
ヒトラー・ユーゲント、ドイツ女子同盟の長期夏季休暇を利用したスカウト・キャンプ、恒例の朝の号令だった。
せっかくの夏休みを汗をかいてルールのわからない球技にいそしんだり、野外料理教室や「おさいほう」の習い事とか田舎のオンボロ宿舎でそういうことをして過ごすのは物凄く気が進まなかったが仕方がなかった。
ただでさえ勉強嫌い、運動嫌いでほとんど同盟の活動に対する評価だけで学校にいられるのも奇跡的なくらい私は問題視されていた。
去年13才になった日、街中で通りがかった男の子の目の辺りをひっぱたいてケガさせたのが響いているらしかった。
9月のいきなり冷え込んできた日の夕方、厚着してくるのを忘れて家に急いでいるのをさもおかしそうに地べたにチョークで落書きしながら見ていたからだ。
なんとなくその前の年に死んだ自分の弟みたいで耐えきれないほど不愉快に感じたのだ。
弟は10才になっても自分で歯磨きも出来なかった。
そのわりに姉を差し置いてジャガイモには目もくれず、パンやソーセージをがっつくので、私にとってはまさに邪悪そのものだった。板チョコを持って、晴れた日に森を散歩することとは正反対の負の事柄だった。
ある日父母が集会に出掛けた夜、子守りを命じられた部屋にこっそり入って寝ているその顔に濡れた布を被せると息が止まり、そのまま動かなくなった。
帰って来て、父親が泣くのを初めて見て私は驚いた。
そういえばそのあとも布を掛けたことは言わなかったけど、どうなったんだろうと思った。少なくともそのときと同じで、自分は非アーリア的なものと闘ったのだから恥じることはないと考えた。
目が潰れた男の子も、どれ程立ち振舞いが白痴的で劣等人種めいていたのかを力説した。
調べられた結果その男の子はユダヤ人でありながら黄色の星を着けていなかったことが発覚し(黄色い星は男の子が脱いだ上着に着いていたが私がこっそり外して燃やした。)連行された。結局大手柄をあげたと言うのに私の扱いは酷かった。
私の隣にのそのそと歩いてやって来た「ジャガイモ」の方を向いてそう思った。
到底女の子には見えないゴツゴツした頭、東洋人のようにも見える黄色い顔と低い鼻で、まさにソ連共産主義勢力の退廃芸術的と言えた。
こんな「もの」と相部屋でセットにされるのはいいとしても、彼女が合唱のごく簡単な言い回しを何十回、何百回と間違えても自分で気づかず、指摘される度にまた違うところを間違え、元々間違えていたところもまた直っていないとかその他諸々の不始末をフォローしなければならないのは勘弁して欲しいと思った。
隠れたところで何度どつこうがマッチの火を目に近づけようが微動だにせず、誰にも訴えたりしないのはさすがだったが。さて。隊長の長い長い朝礼が始まった。




