エピローグ
応援ありがとうございますm(__)mここで一区切りとさせていただきます。更新お待ち下さい。(まだまだ二人の奇妙な冒険は始まったばかりです。続く)
天空には虹のアーチがかかり、金色の光輝の中、紫の雲が山間を行き交っていた。
「どこだ…ここ…」
呟いてから俺は背後に気配を感じギョッとして振り返った。
明らかに人間離れした3m近い女性が立っていた。人外の存在だとはっきり分かるのに「女性」だと思ったのはしなやかに伸びた蹄のある脚や、一対の枝分かれした角が伸びる頭部を流れる黒い艶やかな髪が、非男性的な性質を主張して止まなかったからだ。
「イホウンデー…!」
俺はあの丸鏡で見た光景を思い出していた。
突然首筋に衝撃を感じた。なすすべもなく引き寄せられた。よじれて陥没した彼女の顔がすぐそばにあった。桜の木の枝みたいな指が俺の額に触れた。雪崩みたいに映像が俺の頭に流れ込んできた。
未開の原野、猿人達が唸り声をあげながら枝に灯した火を分け合っていた。すぐに場面は切り替わり今度はちゃんと服を着た埃っぽい古代人が土で造られた釜を崩して金色に輝く青銅の塊を取り出した。
場面は替わりその青銅で作られた剣で女子供が虐殺される光景に移った。その男の顔は人間のものでありながら人間性を一切喪失した、名状しがたい何物かに変容していた。
ヒヤッとする指が俺の耳の穴まで入ってきていることに気づき、ビクッとすると女神は手を離し身を引いた。捻れに捻れた顔を更にひきつらせて何かを訴えていた。
「…力を善の為に使いなさい…」
耳障りな石と石が擦れる音のような、遠い遠い異国の言葉が耳ではなく頭で理解できた。
ゆっくりと意識が遠のいて行った。
「…さん!尚満さん!」
代耶の声で夢うつつを中断された。何か変な夢を見ていた気がする。
「来たときは見逃しちゃいましたけど、ほら見えてきた!」
窓の外はこの時期に東北地方にしては珍しく雪が被っていない街の光景が広がっていた。
小高い丘の上に巨大な白い観音像が鎮座していた。
「あれエレベーターで一気に上まで上がるんですよー!」
代耶はテンションが高かった。ユピは来たときと同じく両目をへの字にして寝入り、アナトリアはピュレグミをクチャクチャ音をたてて食べていた。
行きと比べて帰りは一人と一匹多かった。通路の向こうに座ったシャムスはクロが入る円缶の入ったバッグを抱えてスマホを操作し、自分の店のSNS更新に精を出していた。
別に涙の別れと言うわけではないが、マライアと住職に雪の降りしきるH駅前で最後にまみえた時に、寒そうに身を縮ませながらひょっこり姿を現し、頭に瓦礫が落ちてきてワシ一回死んだぞ、等と笑いながら清川さんもまた生存していることを告げられたとき、本当に恐ろしいのは邪神ではなくこの手のタイプの人間の方なのではないか?と痛烈に感じたのを覚えている。
白い大観音像は片手を掲げて人類の行く末を照らしていた。新幹線は仙台駅を通過したばかりだった。




