レベル7
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その日も若手の刑事一人を連れて専用車に乗り、H市内で起き続ける重大事件の後始末に追われた。
何の罪もない女子高生が男に鈍器で撲殺されたのを皮切りに、老婆がコンビニ内のトラブルで店員に気管が閉まるまで押さえつけられてその後外傷性ショックで死亡し、事情を聞きに行った先で私はスパナで急襲され、かと思えばトラックは突っ込みバスは激突し、女の子がまた殴り殺され、集団レイプは発生し、この事件に関しては関係者の中に私自身の息子が含まれていることを知り、そのとき軽く心の中で舌打ちしたのを覚えている。
結婚してこの愚息を産むなりブクブク肥太って別人みたくなった妻もそうだが、私の身の回りの人間たちは何故これほどにも愚かでどうしようもないのだろう?
そう薄暗い国道を助手席に乗って移動しながら物思いに耽るのだった。
「清川さん、だいぶ沈んでますね?」
この新米刑事はつとめて陽気な声で言った。
「いや、そんなことはないよ。」
応じながら私は、この能天気な男、世界の裏側でうごめき続ける「彼ら」やそれに関わり狂気の領域に足を踏み入れてしまった人々と、絶対に交わることはないであろうこの若者の幸せを祈った。
「何言ってんスか、憂鬱にだってなりますよ。これから邪悪な神々と闘いに行くんでしょ?」
「どうしてそれを!」
私は驚いて彼の顔を見やると絶句した。
目と口が青い鱗で覆われ、鼻があった場所にはくちばしのような突起が飛び出していた。
「俺はお前だ!」
迅速にシートベルトを外し、走行する車から転がり出た。降り積もった雪がクッションになり、もみくちゃになりながらも立ち上がった。
額からは生温かいものが垂れていた。手で拭おうとすると堅くてザラザラしたものに指が当たった。
ギョッとして自分の手を見ると、それはおよそいかなる言葉を使っても形容しがたい、生き物離れした何物かに変容していた。
車のヘッドライトが視界に入って目が眩んだ。短い間だけ運転席の中を覗くことが出来た。
雪面に跡を残して、一直線にこちらへ前進させるその男は他の誰でもない、私自身だった。




