確認
代耶が何を言おうとしていたのか、とうとう聞けずじまいだった。大広間に戻ると既に牛肉やネギがグツグツ煮えるいい匂いがした。
「関東風すき焼きか…。」
「"風"とかいいんですよ!早く頂きましょう!」
彼女は早速やる気をなくして萎びたようになったクロを座布団に置きやると自分の席に陣取った。
「行動は今夜です。生卵は禁止ですよ。食あたりなど論外ですから。」
各人に器を配りながらマライアは言った。
「だったらよく焼いたステーキとかにしようぜぇ。あんなに砂糖入れやがってよー。この甘さでヘドが出ちまうよ。」
ユピが口を尖らせて不平を言った。
「黙って食べなさい。」
マライアが声を震わせた。ユピの肩がちょっとビクッとなるのを見てしまった。
「皆揃っているようだな。」
シャムスがアナトリアを伴って現れた。その格好は褐色の羊毛のような材質のローブという、旧銀河共和国のなんちゃらを思わせるものだった。
「どうだ?様になってるだろ?」
彼は両手を広げて俺に問いかけた。
「え、買ったのそれ?」
「ああ、通販でな。」
「無駄な買い物してんじゃねえよ。」
「何言ってるんだ。エピソード4で使ったやつだぞ?」
俺は今度こそ飲みかけた麦茶を吹き出した。
「汚いな。」
「何やってるんだよ!?綺麗にしまっとけ!」
「ただのレプリカを?」
「レプリカかい!」
ユピに思いきり笑われて、最後の晩餐になるかも知れない時だと言うのに俺は怒髪天を突きかけた。
各人一本ずつ配られた割り箸をパァンと勢いよく割るといい具合に薄桃色になった肉を多めに取った。
「あ、ダメ!それまだ生!」
アナトリアに制止された。彼女の服装はこの場に及んで染みひとつない白衣のままだった。
「肉のゆで具合に口出す前によぉ、まず着替えて来たら?」
俺は低い声で彼女を牽制した。
「え何?怖い…」
柄にもなく眼を潤ませた。
目を背けると爺がローブの中をガサゴソやってどうやってしまっていたのか食パンを一斤取り出した。
「まさかここでそれを食う気?」
俺は問いかけた。
「…ああ。肉はちょっとな。」
「ベジタリアン料理も用意しておりますが?」
マライアが野菜炒めや煮物の皿を指した。
「味付けは何かね?」
「ええと、醤油、砂糖、味の素、みりん…」
「みりんか…。」
爺は顔を険しくして食パンの封を切った。
クロは代耶から糸こんにゃくを「アーン」してもらって生気が復活したのか、様々に形を変えたりこの場の人物に化けたりして俺達を楽しませた。最後に全裸の代耶になって場を凍りつかせた。




