哲学者の眼鏡
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「人間とは異なる門に属する生物、とでも言っておきましょう。」
アナトリアは答えた。
ブラウンの瞳がつり目ぎみにこちらを見て、普段ののほほんとした社会科教師の面影は全くなく俺は首を振った。
「こいつにおれたちの常識は通用しねぇって。」
畳の上であぐらをかいたユピが言った。
「自分の計画で誰が死のうが殺されようがお構いなしなのさ。」
「全てはこの世界を護るため。犠牲が最小限になるよう努力はした。理解してくれると信じている。」
アナトリアは俺達に向けて語るのだった。
代耶は俺の手を振り払って再び彼女に近づいた。
「おい、」
代耶は右手のひらを上に向けて差し出した。濃い緑色の気体がモワモワと立ち上ったと思うと、何か長いものが首をもたげて出現した。蛇だった。
メロンソーダみたいな色の体表を煌めかせて、小さな手の上でとぐろを巻いてシュゥッとアナトリアを威嚇した。
「……。」
彼女はその光景を黙って見ていた。
「私は私の生きているこの世界、私の他にもたくさんの生き物が生きているこの世界が大好きです。あなたの計画は皆の命を助ける為になることですか?」
あっけにとられている俺をそのまま放置して、代耶は言った。
「そうです。全くどこにも犠牲が出ない方法があるならそちらを選びます。今回だって私は間違っていない。何もしなければ人類はまたあいつの思い通り。石や木、土を削って神としていた時代に逆戻りすることになる。」
アナトリアが言い終わると代耶の手首に絡み付いた長虫は緑色の煙の筋になって消えた。
「この力、頂いたからには存分に使わせてもらいますよ。」
代耶は静かに自分の座っていた場所に戻った。
「何だ今の。」
「尚満、後ろ。」
シャムスが俺の疑問の声に応じるかのように指差した。
振り向くとテカテカした黒地に黄色の派手な柄をした生き物が二本足で立ち俺を見上げていた。
「ぶっ!」
年甲斐にもなく盛大にひっくり返り、テーブルの角で頭を打ちかけたのをクロが割って入った。ブニョっとした冷たい感触があった。
「なんだこりゃ!」
さっきから俺疑問系しか口にしてねぇじゃねぇか、と思いながら「それ」に目をやると顔を半分に割るくらい口をガバッと開けてニタァっと笑っているように見えた。貧相な胴体に比べて頭部の比率が大きかった。
「君の新しい相棒だ。」
爺が言った。
クロは警戒して感電した髪の毛みたいに触手を伸ばし、代耶の陰に隠れていた。




