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神在月 第一章①  作者: ブロンズ像
這い寄る混沌3
53/69

収拾

ストーリー、キャラクターへの質問、お待ちしています。

Twitter 青銅像@小説家になろう @inutocuma

慌ただしくサイレンや野次馬の発する声、ケータイのシャッター音が外から溢れてきた。

俺は今まで何処へ雲隠れだったのか、シャムス・イブン=ムハンマド(フルネームはもっとずっと長い)に啖呵を切った。

「人様の頭ン中勝手にいじくんなっつったろ!認識災害を起こすな!」

「何だ君は、命の恩人に何様のつもりだ?」

爺は極めて不快そうに俺の手を払い、代耶に声を掛けた。

「お嬢さん、身体は大丈夫かな?」

「はい!でも凄い、マジで今まで気づかなかったです!」

彼女は今や黒いドロドロの塊、「ショゴス」、ショゴ改めクロと遊び戯れていた。黒い触手が自分の裾に出たり入ったりするのを面白がる女子高生という絵面は見ていて相当シュールなものだった。

俺は昨日の夕食時、頭の片隅にちらついてしょうがなかった違和感の正体を目の当たりにして、認識はおろか人生そのものの記憶からそれらを消し去っていた、催眠術等とうそぶくジジイの謎のパワーの非常識さにおののいた。

「かの邪神は顔のない存在。こちら側に顕現する際人間の精神の力、特に闇を抱えた心の助けを借り、顔を"かぶる"ことがある。」

シャムスは語る。

「それを利用し、完全に奴の不意を突いた瞬間に現れる必要があった。二つの役が必要だった。よりしろになる人間と、そこから奴だけを狙って叩く人間とな。」

「敵を欺くにはまず味方からってか。」

俺は言った。

「それじゃあ俺達が来た目的は野郎を惑わす為だけか?それともこいつらみたいに"使い捨て"にするつもりだったのか?」

俺はすぐそばでのびている、見るも無惨な有り様になった二人を指した。

「石橋を叩いて渡る慎重さと言ったところだ。計画が奴の知るところであった場合、最低限私達の手伝いが出来るだけの力を君達には与えた。つまり今のこの状況みたいなことの為にだ。」

「俺達は保険かよ…」

先程の俺と瓜二つな男との儀式めいた会談を思い出しつつも俺はへなへなとなった。

というか本格的にヤバくなる前に代耶と二人でトンズラしようという計画が、今やガラガラと崩れつつあるような気がした。

老人のしわがれ声にはあたかもお前の浅はかな考えは全部お見通しだ、とでも言うような有無を言わせぬ威圧感があった。

「尚満君!」

大きな声にビクッと振り向いた。

青っぽい制服を着たご仁達が続々乗り込んできてたじろいだが見慣れた「日本の親父」的顔がこちらに向かって呼び掛けているのが見えてホッとした。

シャムスとさっと話を交わし、重傷者二人が何か特殊なベルトで固定されて担架で運ばれて行くのを見届けると、清川さんは近づいてきた。

「全部、話は通じてるから。」

「うわあ、ご都合主義ここに極まる…」

代耶がため息をついた。俺は頭を下げた。

「すみません、かなりぶっ壊しちゃって…」

「ああ、でもあの二人生きてて良かったよ。特に片方は俺のせがれだから。」

代耶のひっ、という声が聞こえた。




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