解禁
さてこの人誰だ!最初から読んでね!
扉は大監獄のシャッターみたいにビクともしなかった。振り返ると若くて痩せぎすの方(以降細い方)は顔の右半分が腐ったリンゴのように黒く焼け爛れ、太った方(以降太い方)は右腕を覆った包帯が血膿で皮膚と癒着し、黄色い皮下組織をむき出しにしてベロリと剥げていた。
「…まあ待て、話せば分かる…」
尚満が前に立ちはだかった。
太い方が口の端から泡を吹きながらうんうんと力なく呟いた。
「W…are…is…my…hand?………
My…nd…was…eaten…by…by……ゆうぅぅぅ!」
両手を前に突き出し黒い血をげぼげぼと吐いた。
「ぎゃあああ!」
私は階段を上がってとにかくこの場から逃れようと思った。
「フィイイイ!」
受け身の体勢など全くとることなく細い方ががむしゃらに突っ込んできた。
恐ろしいのは胴と腰がちぎれんばかりに痩せ細ったその身体を、衝撃から守ろうとする素振りもなく壁に打ち付けながらも肺活量を目一杯活用して爆笑していたことだった。
「あっはっはっはっはっ!」
「怖!」
尚満が私を押し退けて怪物に何かを突きつけた。あの中学校の屋上で見た、白い粘土でできたメダルだった。
「代耶!なんとか突破口開くから2階は行くな!」
と格好よくこっちを振り返って言った。
私は彼に飛びついて手を引っ張った。一瞬前までそれがあった空間に鋭いあぎとが噛み合った。
「全然効いてねぇな!」
私はツッコミを入れつつ魂が抜けた尚満を引っ張って階段を上った。古びた木製の手すりを掴みジャンプして着地すると目の前に人外二人がさっきと同じように控えていた。
「Why!?」
息を吹き返した尚満が今度は私を引っ張って階段を上った。最上段まで来たところで怪人二人とまた会いまみえた。
「ええい!」
私はポケットからパイナップル型のゴツゴツした物体を出して投げつけた。物体は弧を描いて怪物の真横へ飛び、大きなガラス窓にガンとぶつかって落ちた。
「伏せてください!」
尚満は私に覆い被さった。耳を覆ってもなお揺さぶられる轟音が響いて破片が降り注いだ。
「Iiiiaaa…」
二人分の怨嗟の声が聞こえてきた。
前髪を振り払って見上げると二人ともガラスと木片のサボテン状態だった。特に窓側にいた細い方が酷かった。
「やった…のか?」
尚満が声を漏らした。
「うぅRいやあああ!」
「いやああああああ!」
「あんま効いてねぇ!」
二人同時に飛びかかって来たのを二手に別れて避けた。大きな扉に張りつき、力いっぱい押したがやはり開かなかった。
「代耶、こっちだ!」
尚満が割れた大窓の方から叫んだ。細い方が這っていってその脚を掴んだ。
「尚満さん!」
私は駆け寄ろうとして振り向いたとたんつまずいた。開いた扉に思いっきり押されたからだ。
黒いドロドロした、目玉みたいな粒々がたくさんある気味の悪い何かが隙間から入ってきて怪人二人の脚に絡みついた。
扉が完全に開き、背の高い老人が入ってきた。
浅黒い肌の上にこれでもかと言うくらい重ね着したその男は私達を一瞥すると嫌味ったらしく言った。
「押しても駄目なら引けって聞かなかったか?」




