伝道
代耶視点の雪国旅情冬景色、第二回です。
二人は一時目を見開いて、男同士で見つめ合った。
「俺がいる!」「俺がいる!」
そう表情で語っていた。
…いや、よく見ると二人は全く同じではなかった。
尚満の方は分からないが尚満じゃない方はおそらく20代、無個性な尚満よりもさらに特徴がなく記憶に残りづらそうな顔だった。
「…まぁ座ってください。」
私はそこそこ客入りのいい店内で気まずくなって促した。尚満じゃないやつはゆっくりと私の前の方の席に座った。
「…どうも。私ストーリーテラーです。」
彼は前日からやり取りしていたニックネームで自己紹介した。
「あ、ども。伊勢尚満といいます…。」
見れば二人は軽く頭を下げる動作までシンクロしていた。
「代耶、この人とは初めてじゃないのか?」
尚満が聞いてきた。
「え?ええ。昨日からメールでセットアップしてましたから…」
「…そうか。」
機嫌が悪くなったようにそっぽを向く尚満。ジェラシーか?
一方のストーリーテラーさん(めんどくさいのでこれより非尚満で統一。)肩に掛けたショルダーバッグから何かの本を出してきた。テーブルに置き、何の迷いもなくあるページを開いた。
「これが頼まれていたものです。」
私と尚満は向かって右側のページに描かれた奇妙な図柄に眼を奪われた。
緑色で着色された三日月のシンボル、
黄色で着色された三角形のシンボルが上下に分けて描かれ、その脇には見たことのない文字で解説をするように書き連ねてあった。
「緑は代耶さん、黄色は尚満さんです。」
非尚満は言った。
私は様式化して5月の草むらのような緑で塗られたその三日月に意識を集中した。
「…産めよ、殖えよ、地に満ちよ…」
自然と言葉が漏れてきた。
「何だ、これ?」
尚満の一切人をはばからないダミ声で集中をかき消された。
吸いかけたフランペチーノのストローを折り曲げて彼の面めがけて弾いた。
「っあ!ちべた!」
オーバーにのけ反る尚満。大切な本をかばうように非尚満はページを閉じカバンにしまった。
「これで終わりですか?」
拍子抜けして私は聞いた。
「ええ、これで終わりです。」
「終わり、て何が?」
尚満が大袈裟に目をキョロキョロさせながら聞いた。マジウザいことこの上なかった。
「時間かかることもあるんですかね?」
「ああ、少なくとも今日中には何らかの変化があるかと。」
非尚満は私に答えた。
「ところで尚満さん。」
彼は椅子から立ち上がりつつ言った。
「怖くないですか?彼らに立ち向かうのは。絶大な力を持つ『あいつら』が恐ろしくはないですか?」
「ん?ああ、俺の経験則から言わせてもらやあ、こういう場合って一旦関わっちまったら行くとこまで行くしかねぇっつうか、でも退くに退けなくなるまで突っ込んでいく気はねぇよ。」
彼は私の方を確認して言った。
「そうですか。では今夜辺りを楽しみにしてお待ち下さい。」
非尚満はニヤリと微笑みながら言った。
「ところであんた、」
と尚満は自分によく似た男に親近感が湧いたのか、自分も立ち上がりながら声をかけた。
「年はおいくつ?」
「あ、28ですぅ。」
非尚満は微妙に訛りのある変なアクセントで答えた。
「9つ上かい!」
彼はズッコけた。




