雪国探索
そういえばデート描いてねぇな!と思ってました。
寺から一番近いバス停だった。乾燥した雪混じりの強風が吹き付けてきた。
「ちゃぶ!ちゃぶ!」
思わず両手をポケットに突っ込んで足踏みした。
「大丈夫だがー?」
何人かのおばあさん達が声をかけてきた。
「流石にこの寒さは堪えますねぇ。」
「お嬢ちゃんここの人なの?」
「いや、I県から来ました…」
しゃべると余計寒いんだから勘弁してくれと思いながら答えた。
「そんな都会の方からー!」
おばあちゃん達はそれだけでペチャクチャと盛り上がった。
「いや、ガチ田舎だし…」
白い息を吹きながら手を揉んで「彼」を待つことにした。
「いやースマンスマン。」
声が聞こえた。いつもながらこの男は時間にルーズだった。
「寝過ごした割には早かっただろ?急いで来たんだから。」
その割にはあまり息が切れておらず、ここに近づいてから一気にダッシュしてきたことが見え見えであった。
「いつまでも寝てるから一人で行っちゃおうと思いましたよ。」
伊勢尚満という男の今日のファッションは、赤と黒のチェック柄、あまりおしゃれに興味はなかったが上等なものだと分かった。
だと言うのにそれを覆う黒いジャンパーとズボンはヨレヨレの使い古し、白い雪がこびりついて救いようもない貧乏性オーラを発していた。
「昨日色々あって眠れんかったんだ。それより代耶、急いで行くから待っててって何度も電話したけど繋がらんかったんだけど?」
「ああ、着信拒否してるんだから決まってるじゃないですか。」
「Why!?」
大袈裟に手を広げて驚いた。彼のこういった日本人離れしたオーバーリアクションは初めて会った時から大嫌いだった。
絶対こいつ関西人だ。わたし常磐代耶はそう思うのだった。そういえばこいつ、出身地はともかく何歳くらいなんだろう?聞いてみたこともなかった。
「尚満s…」
「メシおごるから!」
彼は手を合わせて私を拝んだ。さえぎられた。
「どこでも好きなトコでいいから!解除して!」
「そういうんじゃねぇし!」
彼は思いっきりシュンとなった。心の底からぶっ殺したくなった。
…まぁ空腹なのは事実だし、(マライア何とかさんの作った朝食はかなり和食でヘルシーヘルシーしていた。)このあわれな乞食に少しくらい夢を見させてやってもいいかと思った。私は言った。
「じゃあ吉野家でいいですか?」
「えっ?吉野家って何?」
彼はキョトンとして言った。
「だから牛ど………街中のカフェあさりましょうか?」
彼の顔が明らかに落胆したものに変わっていったので慌てて言い直した。
女子が牛丼食べに行きたがって何が悪いんだろう…?
バスがやって来た。ベージュ色のかなり年季の入った車体に二人で揺すられた。
市民に大雑把に「城東」と括られるこの地区は大学の存在があってか若者が多かった。
ここに来た目的は勿論この勘違い男の援交まがいの連れ歩きに付き合う為ではなく、ある人物に会う為だった。
「尚満さん、寄り道はしていられないんですからね?」
バスを降りると私は言った。
「お、おう?分かってるよ?」
彼は戸惑ったように言った。
しばらく雪道を滑らないようにテクテクと歩いて私が指差した先にはお馴染みの緑の看板があった。
「結局スタバかい…」
小さく彼の口から漏れたのを私は聞き逃さなかった。
「何か?」
ちょっと低い声色で言うと、彼はむにゃむにゃ訳の分からないことを呟いた。
完全に注文を任せて、私は分厚い防寒具をかき分けてスマホを出し、指定された番号にかけた。
数十分後、凝った造りの古風な店内にその男は姿を現した。
地味なジャンパーにヨレヨレのズボン、一瞬尚満と瓜二つに見えた。




