レベルⅥ②
にーんーげんってイーイーなー(*^o^)/\(^-^*)
ドアチャイムの音は有無を言わせず、ダイスケを玄関まで招き寄せた。
魚眼レンズを覗くと自分の父親の姿があった。
ダイスケはほっと胸を撫で下ろすどころか肝が冷える思いだった。ドアをそっと開けて言った。
「何だよ、来るなら連絡くらいしろよ。」
「ああ、たまたま早くに切り上げたんでな。最近調子はどうだ?」
一応定年間際の刑事、いわゆるデカということになっている清川家の主、ダイスケの父親は年相応に恰幅のいい見た目はどこにでもいるような中年のオヤジだった。額に残った傷跡が痛々しかった。
この前鈍器で撲殺されかけたと聞いて慌ててバイトを早退して駆けつけたら、包帯巻いて病室で呑気に紅白歌合戦出演者予想見てたっけ、とダイスケはそこまで考えて深刻な問題に意識を戻した。
「ああ、ボチボチだよ…」
「お前ー先週の金曜の夜何してた?」
いきなり聞いてきた。全身から汗が吹き出した。
「何って?11時頃までバイトだけど?」
「…そうか。」
彼はうなずくとダイスケの視線の揺れをしばし注視したあと、何かを言い残して去っていった。
ダイスケはドアを閉めて鍵をかけた。
「ヤバい!ヤバいヤバいヤバいヤバい!」
トイレに行ったばかりだと言うのに猛烈な尿意がぶり返してきた。先週の金曜日の夜、ダイスケがバイトしていた筈はなかった。それをあの父親は知らない筈はなかった。
バイト先から遥か離れた場所、グループの一人の家、事が済んで用済みになった女を律儀に家まで送ろうと出たときにバッチリ車越しに目が合うほど鉢合わせしていたのだから。
彼が知らない筈はなかった。その日に限って女の子が男子中学生に殴られる事件があったと言うことだった。
「どうすりゃいいんだ!?」
ダイスケは頭を掻きむしってベトベトしたフローリングにフケを撒き散らした。ツンと来るような安物のシャンプーの匂いが彼の神経を逆撫でした。
「ニゲナキャー!」
尻尾を踏まれた猫のような異様な声が喉の奥からほとばしり出た。
思いドアを体当たりするように押し開け、寂れた住宅街を通り抜けて犬のフンが落ちているのも構わず踏みつけ、国道に飛び出した。光るヘッドライトがビュンビュンと飛び交っているのを見て冷静さは完全に崩壊した。
「わああああああ!」
目の前で見たこともない真っ赤な外車らしき車が停止した。ドアを開けて30才くらいの美貌の女性が出てきてキムワイプで彼の鼻と口を押さえた。彼の意識はあっという間になくなった。
目覚めると一個も窓がない一室のベッドに寝かされていた。階段が剥き出しで天井に繋がっていることから地下室であるらしかった。
「どこだ、ここ…」
ダイスケはソファーに座り、ただひたすら一点を見つめている一人の人物を見いだして絶句した。
顔の右半分が黒焦げになって、電子レンジで爆発したゆで卵みたいに割れ右目に当たる部分はどす黒い谷みたいになっていた。
「何だ!?これ!」
ダイスケはそっと手を伸ばした。
「もしもし、生きてますか…?」
その人物はいきなり前屈みになって顎がストーンと落ちたと思うとダイスケの手を飲み込んだ。
グイっと強引に引っ張られ目の前の人物の顔が真っ赤に染まったので何だろうと思って右手で触れようとした。右手がなかった。
それがあった場所からは鮮血が噴き出していて、果てるまで絶叫し続けた。




