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神在月 第一章①  作者: ブロンズ像
這い寄る混沌3
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起源

お待たせしました。這い寄る混沌です。

マライアは音もなくその社の戸を開けると俺達を中へと誘った。打ち捨てられたような外観の雰囲気とは裏腹に、中は妙に清掃が行き届いていた。

がらんどうの社の中には石像が2体、並んで置かれていた。

「当寺で祭っている弥勒菩薩と観音菩薩です。」

彼女は言った。

「何で神社に祭ってあるんだ?」

「尚満君、君ちょっとうるさい。」

清川さんが言った。

「怒られた!?」

「そもそも仏はともかく日本の神は大陸由来が多い。弥勒菩薩は古代オリエント世界で崇められたミトラ神に由来するともされ、有名な七福神の大黒さまだって元がインド神話のシヴァ神だ。海の向こうから来たありがたい神様としてこういうところで祭るのも決して間違っちゃいない。」

「信用していいのか?」

俺は言いつつも一人の神の名前に引っ掛かった。

「待てよ、ミトラ神…?」

「そうです。皆さんが見てきたはずのミトラ神と弥勒は名前からしても繋がりがあるものとされ、ここまで来ていただいた理由である存在なのです。」

マライアが口を差し挟んだ。

「数千年前、ナイアルラトホテップがこの地を訪れていた。最初は西方から来た偉大な太陽神ミトラとして、時代が下り仏教が隆盛するとありがたい未来仏、弥勒として。二人に共通するのは自分の身を犠牲にして人民を救済すること。多くの人の心を掴むプロパガンダとして良くできていたのでしょう。そうすることによって人々の精神的な祈り、崇拝によって自分の力を高められるとした。」

「観音様は?」

代耶が聞いた。

「彼には妻がいた。鹿の女神イホウンデー。石像の裏側をご覧下さい。」

マライアは言った。

俺と代耶は中性的な顔立ちをした像の裏に回った。後頭部には白く光る丸鏡が埋め込まれていた。二人で覗くと俺たちの顔が当然ながら映った。見ているとやがてそれはグニャリと歪み景色が映った。

夕焼けなのか山吹色に照らされた東洋的とも西洋的ともアラブ的とも言いかねる不思議な様式の城があった。危なっかしいほど金色に輝く空に突き出されたバルコニーに視点が移っていった。

そこに立つ一人の人物のアップ、頭から一対の鹿の角が生え、振り返ったその顔は渦のようにひきつれて陥没していた。

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