ready to die ③
保釈申請却下されたゴーン氏に捧げます。(嘘です。)
可哀想(´・ω・`)
サングレは先程生き別れになりかけた右手の小指をさすりながら巨大なホールに入っていった。
恐らくはこの自由の国において、ミスター・プレジデントに次いで権力を持つであろう大資産家、バフォメット氏を置いてさっさと全員が逃げ出してしまったニューアーカムシティビルは静かであった。
用心してエレベーターは使わず、非常階段でバフォメット氏の待つ最上階を目指した。
…3Fまで上がって息が切れたので素直にエレベーターを使うことにした。
何事もなくドアが開き、豪華な赤いカーペットが敷いてある一室にたどり着いた。
「おい!おい!誰かワシをトイレに連れていけ!チップをやるぞ!早く!」
一人の老人が常軌を逸した大声でひたすら怒鳴っていた。
脚が不自由な上に認知症の症状も表れ、元来から頑固な性格でもあるバフォメット氏を連れて逃げようという果報者は一人もいなかったようだ。
強盗グループは既にサングレの放った、彼らが立て籠った階層のガラスをあらかた吹っ飛ばす威力を見せた迫撃砲の威力におののいて撤退していた。
彼は車椅子に乗って同じ事を叫び続ける老人に近づき言った。
「おじいさん、ボクが連れてってあげますよ。」
「あげます、だあ!?馬鹿言っちゃいけないよ君。この合衆国に多大なる貢献をしたこのワシにもっと敬う言葉の選び方はないのかね!」
イラッとした表情の変化を隠そうともせず彼、ジャスティスヒーロー「サングレ」は車椅子を掴んで乱暴に揺すりながら案内表示を頼りにトイレまで運んだ。
「おい!もっとゆっくり、いや速く運べ!漏れそうだ!まったく最近の若者は!」
同じフロアの多目的トイレの入口まで近づくと、自分で漕いでいき扉を閉めた。
「自分で来れんじゃねえか…」
サングレは呟いた。数分後さっぱりした表情でバフォメット氏は現れた。
「いやーすまんな。あの悪党どもを追っ払ってくれた上に。ありがとう。」
いきなり気前のいい好好爺という雰囲気で出てきたのを見てサングレは戸惑った。老人は言った。
「何困った顔してるんだ?そうだな、君の考えてることを当ててみよう。それはカネだ。そうだろう。」
「さようでございます!!!」
サングレはいきなりバフォメット氏を見下していた目線を、同じ高さまで膝をついて合わせて言った。




