ready to die ②
日付が変わるまでこんな小説書いてた自分に愕然。
サングレは紫煙と黒煙を上げる広場を後にし、自らがコンキスタ(征服)号と名付けた人造人食い怪獣もとい、二足歩行型有人操作ロボットから降り太陽に映えるその機体を眺めた。(助手のセイント・ジョンが)徹夜で清掃後ワックスを塗布したお陰で新品同然にピカピカ輝いていた。
背後に軽々と飛び降りてきた影があった。別に全米ライフル協会がライセンスを出すわけでもないジャスティスヒーローを職業と言うならば同業者ともいえる、「セラフ」だった。燃える3対の翼は仕舞われていた。
自分のモノが小便をするだけのものではないことに気づき始めた小僧から、小便をするだけのものになりつつある老人にいたるまで、あらゆる男性の庇護を引き寄せるために生まれたような顔を、今は憤怒の形相にひきつらせて彼を睨んでいた。
「生身の人間に、銃を向けるな。」
キッチリ音節を区切って、彼女は言った。
「悪かったよ。威力を試したくて。絶好の機会だったから…」
「分かってる。」
彼女は成長していくに応じて愛するべき対象を変えていくことを、不幸にも受け入れられなかった一部の男性陣(要は掃き溜めの虫)から熱狂的な寵愛を受けるその顔を穏やかに戻して言った。
「世の中そんなに悪い人ばかりじゃない。決めるのは神様、裁くのは私たちじゃないわ。」
「…そうだね。」
彼は静かに言った。
「だがお前を裁くのはこの私だぁぁぁ!」
彼女は右腕の拳を彼の鼻面に向けて真っ直ぐに突き出した。首筋が嫌な感触を伴って軋む音をたてるのも構わず、彼は限界を遥かに超える速度で身体を捻って回避した。腸が捻転して灼熱の苦しみだった。
「おげぁあああっっっ!」
苦い味のする自身の涙をなめながらも彼は、先程までいた背後で「コンキスタ」脚部の白銅製フレームがひしゃげるのを見て肝を冷やした。
両足を捕まれた。そのままズルズルと機体の上まで引っ張りあげられて彼女は何をするつもりかと思った。
「ツッコんで…撃つ…」
彼女の愛らしい紅眼の眼差しの先には、先程まさに彼女に再起不能にされたばかりの連射式マグナム砲の曲がった鋒があった。
「止めて!掘らないでぇぇぇ!」
彼は自分の尻を押さえた。
「…じゃあ寄付する?」
彼女は幼女のように小首を傾げて彼に聞いた。
「寄付ってどこに?」
「私の基金。」
「そんな話聞いてないけど?」
彼は聞いた。
彼女はゴツゴツした金属の壁面の上で、片足で彼の両足の動きをロックし右手から潰しにかかった。
「分かった!寄付する寄付する!」
彼は誓った。
何をするつもりか分からなかったが、彼女はシスターのように両手を組んで彼に微笑みかけた。
「100万ドルもあれば世界中の心臓病で苦しむ子供達も救えるわ…」
「待って、100万ドル?無理だよ?」
彼女は彼の右手の小指を摘まんで外側に折り曲げた。
「AAAHHHHHH!」
サングレが解放されたのはそれから10分後、ほとんど読んで理解する時間を与えられず、100万ドル単位の寄付を彼女、セラフことアデラ・シーデーンが設立したボランティア財団(詳しい活動内容は不明)にするとした契約書に、ガッチリ手を掴まれながらサインしてからのことだった。




