清め
心臓へのショックは命に関わりますので。マジで。
「待って、ここ寺だよな?」
たまらず俺はマライアに聞いた。
「ああ、これから行く場所はこの格好でないと駄目なので。」
「さっきの服は何だったんだよ?」
「アレは住職の趣味です。」
何となくこれ以上詮索するとまずい気がして俺は口をつぐんだ。
「行きましょう。」
マライアは部屋を出て、先程俺達が通ってきた廊下を戻っていった。
俺達は無言でついていった。
外に出て薄い陽光を浴びた彼女は、さっきの俗世を忍ぶ黒いシスター姿とは対照的な艶やかさだった。
「すぐ中に入りますので。」
粉雪がちらつく中、繰り返される寒暖の差に辟易し始めた俺達に彼女は言い、境内のかなり建物で覆い隠された奥まった土地まで先導した。
一面黒く塗られた鳥居があった。俺はそれを見た瞬間先程見た「ミトラ神像」とやらを思い出した。
マライアは懐から巻物みたいな書を取り出して、声に出して読み始めた。
大和言葉と言えばいいのか、外来語はもちろん漢文的な表現すらも一切省かれていた。神聖なる領域に立ち入る我らの罪、汚れを祓いたまえ、要約するとこんな感じだった。
宗派はおろか、一体何を信仰しているのかも分からない寺だと思った。
マライアは一連の「祝詞」を読み終えたのか書を仕舞った。
近くにあった清水が涌き出ている泉水からひしゃくで一杯すくい取ったと思うと、俺の顔に一気にぶちまけた。
寒空の下、冷たさと気化熱吸収で暴力的に俺の体温を奪った。
「殺す気か!」
俺は発狂せんばかりにいきり立って怒鳴った。
女は俺を無視して清川さんにも冷水の洗礼を与えていた。代耶、ユピ、アナトリアはスルーしてひしゃくを元に戻した。
「何で男だけなんだよ!」
「…殿方様たちは穢れておりますので。」
と暗い声調でいうマライア。
とんでもなくヤバい地雷を踏んでしまいそうな気がして引き下がることにした。
「あの中です。」
マライアが指し示した先、黒い鳥居の向こうには普通の神社に比べるとやや小振りな社があった。
景気の良い賽銭箱や鈴の類いは一切なく、訪れた人の心の憩いとなりそうなおめでたいムードは皆無だった。
代耶もユピもアナトリアも清川さんも、女に連れられてぞろぞろ歩いていった。俺は渋々ついていった。
物凄く中を見たくない気分だった。




