歓迎
もちろんタイヤはスタッドレスですよ。
「おいおい、あんた警察官だろ。良いのかよ?」
ハリウッド映画開始30分くらいでしか見たことのないような運転テクニックを披露するアナトリアの横顔をおっかなびっくりで覗きながら、清川のオッサンに言った。
「まぁ一応制限速度以下だし…」
速度は55~60km/hをキープしていた。
突然深紅の車体が減速した。見通しの悪い十字路、一時停止の赤い標識が光っていた。
「交通ルールを守ってるんであれば別に…」
と言いながらも額には脂汗が浮かんでいた。
「…右良し左良し…」
とわざわざ彼女は口に出して呟き、また急発進させた。ものの数秒間で法定速度ギリギリまで加速した。俺は隣に座っている彼女に声を掛けた。
「代耶!何か言ってやr…」
白眼を剥いて何かを口から吹いていた。
「魂出てる!?」
助手席に座ったユピが顔を覗かせてきた。
「おい、命が惜しけりゃコイツを刺激しないこった。集中してるときに耳元でガーガー言われたら嫌だろ?危機に曝されたくなけりゃ黙ってろ。」
「充分曝されてるんだよ!」
「…ちっ」
舌打ちの音が聞こえた。真っ直ぐアナトリアは前を向きながら、先程横入りしてきた車の背を睨み付けていた。
無理やり追い越し車線に入り、その若いカップルが運転する軽自動車を追い抜いた。追い越す瞬間、プァーッと盛大にクラクションを鳴らした。
「待てーアナトリア!昨今あおりはヤバい!」
田んぼを縫うようにしてS字に曲がりくねった道路を、一切減速する素振りさえ見せず爆進した。
やがてH市市街地、中央からは少し外れた感じのある寂しげな街道に入るとようやく速度を落とし始めた。
「もうすぐよ。」彼女は言った。
「生きた心地がしませんでしたぜ…」
代耶が息を吹き返していた。
「弥勒観音菩薩寺」と書いてある古びた寺に徐行しながら近づくと裏門らしき場所から入っていった。こじんまりした駐車場に停まると黒い服装の少女が待ち構えていたように両手を合わせて立っていた。
およそこの場に相応しくない人種、白いストライプの入った黒いフードに隠された碧眼は蝋人形のような寒々しさを与え、その容姿はどこからどう見ても西洋のシスターであった。




