ready to die①
いきなり毛色の違う物語を投下。尚満、代耶が生きているのとは違う次元に存在する街が舞台です。本編に絡んだり、絡まなかったり。
「おい、セイント=ジョン!聞いてるのか?」
グラグラ揺れる操縦席の中で、彼はスピーカーに向けて怒鳴った。
「聞こえてるよぉ!.44レミントン・マグナム連射砲なら、昨日メンテ終わったからちゃんと撃てるって!」
ノイズ混じりのがなり声が聞こえた。
「OK!さすがだジョニー!あそこに隠れられたらアウトだと思ってたよ。」
「待って…ケサディーヤ溢さずに食べるの難し…えっ何だって?」
彼、そのチャールズ・ブロンソンの無邪気さとクリント・イーストウッドのニヒルさを良いところで掴み損ねた感をごった煮にしたような、物凄くこれじゃない感が漂う顔の青年、「サングレ」ことサンティアゴ・エルグレコ・ロドリゲスは通信を打ち切った。
バンバンと窓を叩く音がした。
強化ガラスの向こうに天使と見まごう少女がいた。
真っ白な法衣のような衣装に深紅の髪をたなびかせ、燃え上がる6枚の翼で羽ばたいて浮かんでいた。
「セラフ」ことアデラ・シーデーンはハイティーンにしては幼げに見える顔をそれなりに硬くして操縦席の中を覗いていた。
「…見てなって。」
外でなおも何かを叫び続ける彼女を尻目に、彼は操縦レバーの赤いボタンを握った。
凄まじい破壊力のマグナム弾が、先程標的が逃げ込んだコンクリートの壁の表層を剥ぎ取っていった。
AK-47みたいに連射出来るようにしろ、と言ったときのセイント=ジョンの絶望した顔は見物だったが期待を違えてはくれなかったようだ。
灰色の壁面がひび割れて崩落し始めたので、たまらず悪党どもが飛び出してきた。
「チョー気持ちイィんだものぉ!」
彼は自分の膝を叩いてそう叫んだ。
…操縦席の真ん前に何かが降り立った。
「セラフ」が機体の先端から飛び出した銃口近くの峰に陣取り、本気睨みでこちらを一瞥した。
「……。」
まだ20年も生きてない少女に威圧されてしまった…
彼女は黒い銃口をひっ掴むとリコリス飴みたいに押し曲げた。
帰ったらジョンの奴にまた泣かれるな、と思いつつ事の成り行きを見守ることにした。
わらわらと蜘蛛の子のように散る敵に、セラフは両手を上げて天を仰いだ。
ほぼ壊滅状態になっている(半分は彼の責任)元市のいこいの広場、今は瓦礫の見本市を囲むように紅蓮の炎が壁になって現れた。
逃げ惑う悪党どもは観念したように座り込むか、スマホで火柱を記念撮影したりした。
やがて極めて都合よく味方だけは焼かない炎の壁の中からSWATが飛び出してきた。
ニューアーカム・シティビル資産家人質強盗事件は、こうしてジャスティスヒーロー「サングレ」の手によって解決したのだった。と専属秘書ダイアン(ただのテープレコーダー)に吹き込むと、彼は機体を大きく回転させた。




