北方行
年明け早々の投稿となります。湯けむり殺人事件ではありません(笑)
大晦日前日の東京駅は殺人的にごった返していた。新幹線の出発まであと30分もあった。
「何と言うか…アレだな。早く来すぎた。」
「…はい。」代耶が答えた。
土産物屋街は少なくとも三回は周り、駅弁やコーヒー、お茶類はもう十分買い込んでいた。
途中下車して丸の内を散策するにも中途半端な時間だった。
「カフェもベンチも満員だしね…。」
アナトリアが壁に寄りかかったまま何かをコートのポケットから出して言った。
タバコでも吸うのかと思いきや、その四角い箱は「ハイレモン」だった。
俺が見ていると慌てた様子で一粒取りだしポケットに戻した。
「くれなんて言われないって…」俺は呟いた。
「あれ?あのサイコまたいないぞ?」
不意に気づいた俺に代耶が指差して教えた。
「あそこ…」
ユピが無表情のまま、誰かをつけ回していた。
さっき人混みの中で俺達に後ろからぶつかって来た若い女だった。その顔は物凄く強張っていた。
振り返ってユピに何か言い始めたがそんな彼女をユピは面白そうにスマホで撮影していた。
俺はそのショートヘアーの頭を後ろから叩いた。
「いってぇなぁおい。」
「…行くぞ。」
軽い身体をズルズルと引っ張っていった。しばらくするとアナウンスが始まった。四人でエスカレーターを上がり待っていると、青緑色の車体が位置を微調整するようにゆっくりと入ってきた。
発車と同時に弁当を開けたりトイレに立ったりするくだりは割愛、景色を楽しみながら宇都宮を越え、福島に差し掛かった辺りから空が曇り始めた。四人で向き合いながら食べた唐揚げ弁当は味が辛すぎて喉が乾いた。
段々と話題も尽きてきたのでユピなんかは両目をマンガみたいに八の字にして寝入っていた。
どういう顔の構造してるんだこいつ。
仙台駅の手前辺りで代耶がかなり切なそうな顔をしたのでちょっとドキッとした。
「乗り換えの電車、雪で止まらなければ良いけど…」
アナトリアの声でハッと目が覚めたように気がついた。
「寝過ごすと北海道まで行っちゃうからね。」
数時間後、新A駅で男と女3人は寒い連絡通路を通って在来線に乗り換えた。
目的地にたどり着いた頃には既に雪景色は青く染まっていた。
何か事件でもあったのかチラホラと見えるパトカーと赤く光る誘導棒を振り回す警備員を尻目に、身体が冷える前にと皆で予約のホテルに駆け込んだ。




