未知への恐怖
第2話です。書き起こして思ったんですが結構駆け足でした…。
カーテンを閉めると今時珍しくなってしまったブラウン管テレビ(チューナーつき)のスイッチを入れた。ニュースでは先日この近辺で起こった中学校襲撃事件を報じていた。何らかの薬品で生徒たちが昏倒させられ犯人は逃走中、目的も人物像もハッキリしない事件でマスコミ各社は絶賛発狂中だった。
テレビを消すと俺は立ち上がり中学時代から5年使っている上着を羽織った。テレビを消す瞬間画面の端にチラッと先程見たような緑色の制服が見えたような気がしたが忘れることにしよう。それがいい。女子高生がスカート姿で先の尖った柵を乗り越えようとしていたことなんてどうでもいい。
重たい円筒状の容器を何気ないショルダーバッグに入れながら、さっきのあの女はまだ10月とはいえあの格好で寒くなかったんだろうか、と思いがけず考えてしまう。苦心して取り付けた強化プラスチック製の窓から、無数の視線が俺を捉えた。
重たいショルダーバッグを背負いアパートを出た。
「ごめんショゴ、今日の飯はただの草だ。」
中のものが不定形に微振動するのを感じながら、俺は自転車に飛び乗った。
中学校に着く頃には今年残りわずかとはいえ、時刻は午後5時で馬鹿みたいに暗くなり、厚着してきたのを後悔させる生暖かい空気が漂っていた。それにしても人、いなさすぎじゃないか?
さっきのリポーターも休校中の校舎を出入りする関係者も、誰もいなかった。
重さを我慢してバッグを肩にかけた。あまりの人の少なさに逆に警戒心を抱きながら俺はポケットから紙片を取り出して中の粉を頭から被った。ガラスに写る自分の姿が消えるのを確認した。
さっきまで少女がよじ登っていたであろう鉄柵は街灯の明かりを受けてグロテスクなほど長い影を伸ばしていた。あそこについている赤いものは何だろうか…?
それほど見慣れている訳ではないが、槍のような形状をしたポールに垂れた液体は明らかに血液だった。あいつ串刺しになったんじゃないだろうな。点々とした跡は黄色い石鹸が下がった古臭い手洗い場の裏、校舎内まで続いていた。
いきなり耳元で羽ばたきが聞こえて年甲斐にもなくビクついた。
コウモリだった。やたら足長かったな…。
俺は街中にしては広いグラウンドの端に移動し、あの不法侵入女、常磐といったか…彼女のような大曲芸を演じなくても良い格好の侵入口を見つけた。塗装が剥げて赤茶色が剥き出しになった戸口だった。
ショルダーバッグを開けて中身を揺すると、細い糸が狭い隙間から無数に出て来て錆びた南京錠の前で合流し、黒い鍵穴の中に忍び込んで行った。泣くような音をたてて真鍮製の錠が開いた。
辺りを用心して見渡した後、ポケット、ベルトの裏、袖口につけたものを確認すると中に踏み込んで行った。
湿っぽい壁を伝って先程見ていた校舎入り口まで歩いた。何となく「殺気」を感じるような気がして壁際から離れた。
女の声が聞こえた。差し込まれた注射針を捻られたような大声。
バッグをしっかり抱えたままで俺は走り出した。
殺伐とした手洗い場、古い下駄箱棚の間をすり抜けて尋常ではない怒声、物音が聞こえる方へ急いだ。踵で無理やり勢いを殺すと、時代がかかった木製の戸を一気に開け放った。
眼の前に車のヘッドライトがあった