レベルⅠ
この小説一応ホラーでやってるんで…
ヨロシク☺✌
ヒロシは仕事から帰って来るといつものようにテレビをつけた。頭の中はいつにもなくゴチャゴチャしていた。
関東地方の各地で長年続けてきた短期の仕事をしては日銭を稼ぐ生活を止め、地元に帰って来たのは40歳を目前に控えたある年のことだった。
「馬鹿馬鹿しい…」彼は呟いた。
派遣会社を通じて入社したのが先月の上旬だからもう1ヶ月になるのか…
機械の電源を入れ、計器を見、記録するだけの作業が未だ出来ないのはあの若い社員が足を引っ張っているからに違いなかった。
「聞くたび聞くたびに違う教え方しやがって糞っ!」
何か壁にぶつかる度に心の底から黒い何かが沸き上がってくるのを、人に当たることでかき消そうとするのは幼少期からのことだった。
鏡を見るとギャグのように一本もなくなった頭頂部に嫌でも目が行ってしまう。
数年前どうしても金がなくて、無理矢理接着剤でくっ付けた前歯の付け根は、歯クソの塊のように汚ならしく黄色く盛り上がっていた。
我ながら見ていると風呂に入る気も失せていった。
…気が滅入ってしまった。今日も数本のストロングゼロをかっ食らって、いい気持ちで酔い潰れて寝てしまおうと思った。
冷蔵庫の中にはなかった。
「糞!」
ブツブツ言いながら家を出た。それなりに栄えている地方都市といえど、彼の住んでいる地区は夜になると真っ暗、この時間まで酒を売っている店はコンビニしかないはずだった。
「節約してるのに!糞糞!」
彼は雪道を運転しながらハンドルを何度も叩いた。
前方に薄らボンヤリした黒い影が見えたので速度を緩めた。
制服を着た女子高生らしき少女が雪を被った歩道をテクテクと歩いていた。この辺りでは見ない服だった。
「…。」
住宅街とはいえこの周囲は人が住んでいるのかどうかさえ定かではない、プレハブ小屋みたいな家々しかなかった。
彼女を見た瞬間思春期の頃から胸の奥で渦巻き続けるどす黒いなにかが、今に間欠泉のように爆発してしまうような気がして気づいた時には車を飛び出していた。
何故か車内にあったスパナで後頭部を一撃すると少女はうつ伏せに倒れ、一呼吸遅れて血が雪の上に流れ出してきた。
「…何やってんだ俺?」
ガックリと膝をついたままそう自分に聞いた。
「そうだな、君は何をやっているんだろうね?」
少女はクルリと首を一回転させてヒロシに言った。
その顔は人間とは思われなかった。