発見
あらすじ。無駄知識、最高!
校舎の奥には炊飯器から立つ湯気のような、溶けた半田のようなモヤモヤした匂いが立ち込めていた。懐中電灯の光量は最小にして、いつでも消せるように指をつけていた。
俺は代耶の手を取ったままその親指を強めに二回押した。事前に決めてあった立ち止まろうの合図だった。爪の付け根を押し返された。三回も。
(い、た、い。)そう言っていた。
俺は無言で痛みを堪えた。
俺達は校舎南側の突き当たり、体育館へつながる渡り廊下まで来た。
野球用品や卓球のラケットが入って積まれた箱とか、なんと言うか慌てて整頓されたみたいでつい昨日置き場から運び出されたみたいにしてあった。
(…見てみましょう…)代耶の小声がした。
体育館に立ち入った。何の異変も見当たらない用具置き場の引き戸があった。
代耶と二人で引き戸を開け、左右を気にしながら中へ入った。
明かりを向けるとユピが仰向けに寝ていた。
腹はあの軍服みたいな上着とシャツごと裂かれ開かれていた。
横で絶叫を圧し殺した声が漏れた。
思わず押さえつけた。自分の口を。
しばし電灯を置いてその場に佇んだ。元から人形のように整った顔はマネキンのように硬直し、両目は服にこびりついて乾いたイクラのように濁っていた。
俺は電灯を置いている段ボールの上に黄ばんだ紙が伏せてあるのに気が付いた。代耶にも見えるように持って中身を読んだ。
…ちくしょうあの女め。おれの
からだに何入れやがった
さんざんこき使いやがって
あいつはこうちょうしつにいろ
おなかが いた
代耶と二人で見えない顔を見合わせた。
「どう思う?」代耶に聞いた。
「何かあざといですね…」彼女は答えた。
「それに内蔵の配置もメチャクチャですし…。」
「何!?」
代耶は死骸に向かって呼び掛けた。
「クロちゃん!」
恐るべきことにユピの脱け殻だと思っていたものは至るところから黒い石油みたいな液体を流して崩壊した。後に残されたのは見慣れた虹色の光沢を放つ黒いドロドロの塊、ショゴスだった。
代耶の手が離れた。クロを抱きかかえているようだった。
俺は周囲に2番目の粉を撒き散らした。
「何するんですか!」
姿があらわになった代耶が叫んだ。
「うるせーコノヤロー!殴り込みだよぉ!見えなくちゃ不便じゃねぇか!ハハハハハハ!!!」
「キャラが変わってる…」
彼女は怯えていた。恐らくは今日初めて本気で。
俺の心は風邪が治った翌日みたいに晴れやかで、クロを連れて代耶と二人で狭い物置から飛び出した。