未知との邂逅…!
クトゥルー御大が登場するのはずっと先です…。
バスの外は生憎の曇天だった。俺はため息をついた。この調子じゃ土日は雨だな。俺には関係ないけど、とよく分からない独り言を呟いた。ふと視界の端に少女が映った。なんの動作だろうか?拳を握りしめそれを降り下ろした。そしてそれは凄まじい速度で襲いかかってきた。俺の下顎に。
「何するんだ!」
自分でもビックリするくらいにのけ反りながら叫んだ。
少女はその細い腕からは想像出来ない力で俺を引っ張っていった。なかば呆然自失のまま俺は次のバス停で下ろされることになった。
少女の服は見慣れたI県立高等学校のものだった。少女はアニメみたいに顔を真っ赤にして色々な言葉で俺を罵倒したが要約するとこうだった。
「痴漢した!死んで詫びるか金を払え!」
俺はこんなときには落ち着いて話し合うしかないんだ、と腹をくくって切り出した。
「殺すぞ!」
少女の目が点になるのも構わず俺は捲し立てた。俺は右手でスマホを操作し左手でつり革に掴まっていたこと、いきなり暴力に訴えることは正当防衛の証拠がない限り犯罪だということ、DNA鑑定なり出るところに出る用意はあること。少女から表情が失せていった。
いや、無表情というのとは違う。完全に無を見つめているというか頭が真っ白、言葉が入ってくるごとに呆けていく感じだった。
「………あっはい。」
「?」
「あっでも!」
「!」
「じゃあその証拠ってやつはどこにあるんですか!」
話を理解していなかった。
少女は常磐代耶と名乗った。代議士の代に耶蘇教の耶です、と言った。なんか偉そうだった。
段々と落ち着いてきたので俺も伊勢尚満という自分の名前を明かした。
この女は常に思考が感情に追い付いて行かないタイプらしかった。話し合っている間ずっと無表情になったりキレたりの連続だった。このまま再び冤罪でっち上げられてはかなわないと、彼女を無理やり振り払い帰路についた。この辺りから歩いてどれくらいだ…?
何で俺の住んでいる場所はバスが一時間待たないと来ないんだ、とぼやきながら家にたどり着いた。都心直通の新駅へのアクセスだけで選んだ自宅は築10年の、ボロいんだか新しいんだか分からないアパートの一室だった。
部屋の隅にカーテンで覆われた一角がある。見るからに怪しげだが万一部外者が入ってきても問題がないようになっている。そっと光が入らないように隙間を開ける。
何十個もの青黒い眼が俺を覗いた。