魔王が捕まりました。(2)
「ユティナ姫、確かにボクには才能がなかった」
シエラが後ろで倒れているユティナ姫に話しかける。
「でも、どんなに才能がない人でも、一つだけ後から授かれる才能がある」
「それが"努力"だよ」
「本当に努力だけでそんなになれるというのかしら?」
ユティナ姫が光り輝く剣を持つシエラに言う。
「うん。昔ボクには本当に何の才能もなかった」
「それでも、必死に努力して、ずっとずっと努力して、努力っていう才能だけでここまできた」
「でも努力にだって限界がーー」
「限界なんてない!!限界だと思ってるだけで、超えられないって思ってるだけで、本当は超えられるものを超えようとしないだけなんだよ!」
「……だから、見てて」
ユティナ姫は魔物に負わされた傷を抱え、ただシエラの後ろ姿を見る。
「ボクがもつ、努力っていう才能の形を、光を、強さを!!」
ー勇者・真の勇者の証ー
ー勇者・光攻撃ー
3分間攻撃力が5倍。
ー勇者・光防御ー
3分間防御力が5倍。
ー勇者・光加速ー
3分間速度が5倍。
シエラの体に光が帯び始める。
「ギギッ!!」
テスカトリポカがシエラに剣を振るう。
その剣の速度はユティナ姫のものよりはるかに早かったが、シエラはそれをなんとか目で捉え、躱す。
「やぁっ!」
シエラがテスカトリポカに剣を振りかざす。
ギィンッ!!
剣は剣で弾かれてしまったが、シエラとテスカトリポカの剣を振る力の差は互角といったところだ。
「ギギッ!!」
ー音速剣士・瞬風ー
テスカトリポカがスキルを使い、シエラの後ろに回る。
「まさかあいつスキルまで使えるの!?」
ユティナ姫がすぐに自分が持つスキルと同質のものと気がつき、驚く。
しかしシエラは。
「ふっ!!」
それを想定済みのようにすぐ身を翻し、躱す。
「ボクだって一時期ユティナ姫の強さの秘密を調べてたことがあってね、このスキルは知ってるんだ」
「ギギッ!!」
テスカトリポカが次々と連撃を放つ。
キュンキュンキュンキュン!!
以前タケルとユティナ姫が戦った時より素早い攻防が続く。
どんどん加速するテスカトリポカに、シエラの動体視力は当然追いついていない。
しかし、すべての攻撃を防いでいる。
無意識のうちに防いでいるのだ。
「なんであんな攻撃が防げるのよ……」
ユティナ姫が自分をも軽く超えた敵と互角に戦っているのを見て、感嘆の声を漏らす。
「ボクには努力っていう才能がある。そしてその才能には、他のどの才能も持たない牙がある!!」
シエラはテスカトリポカの連撃を受けきり、テスカトリポカの腹部に強烈な一撃を与える。
そこまで深くはなかったものの、しっかりとダメージを与えていた。
「ギギッ……」
「ボクには経験っていう牙がある!!」
シエラは再び構える。
そう、小さい頃に絶望に打ちひしがれてからからずっと絶えず努力を重ね、何度も死にかけながら様々な魔物と戦ってきた。
それらの血の滲むような努力からくる圧倒的な経験は、いくら敵の攻撃が速くても、いくら敵の攻撃が強くても、今まで何万何十万何百万と敵の攻撃を受けてきたシエラには、どこからどう敵の攻撃がくるかが直感的に分かり、そして無意識のうちに躱せるのだ。
体が覚えているのだ。どれだけ敵が強大でも、体は勝手に動くのだ。
したがって、この技には努力以外のどんな才能にもなし得ない、圧倒的な強さがある!
「本気で行くよ!!」
シエラが改めて気を構えると、聖剣が一層強く光り輝く。
「やぁっ!!」
シエラが一気に前に駆け出し、テスカトリポカに横薙ぎを入れる。
「ギッ!」
テスカトリポカはなんとかそのとてつもなく素早い攻撃を後ろに跳んで躱す、が。
ー勇者・光刃ー
突如その剣の軌道から現れた光の衝撃波が、テスカトリポカに当たる。
「ギギッ!!!」
ー勇者・瞬光ー
シエラが目に見えないほどの素早い速さで吹き飛んだテスカトリポカの後ろに回る。
「ギギッ!!」
テスカトリポカはなんと、自分の腹部を自らの剣で貫いて、後ろにいるシエラに攻撃を当てようとする。
がしかし。
シエラはその攻撃をたやすく躱す。
ただ体が覚えている動きのように。
「ギッ!?」
テスカトリポカは動じたものの、すぐにシエラが構えている聖剣の軌道を読み、剣をすぐ腹部から引き抜き、右側に剣を構える。
「えりゃあっ!!」
しかしシエラはそれすら読み、左足でテスカトリポカを上に蹴り上げる。
「ギッ!!!」
そしてテスカトリポカは上に大きく吹き飛び、シエラは地面に着地。
そして着地した直後大きく飛び跳ね、すぐにテスカトリポカの上に行く。
「ギギッ!」
テスカトリポカは上からの斬撃を警戒し、仰向きになった腹部に剣をかざす。
しかしシエラはまたそれすらを読み。
「光弾!!!」
略式詠唱で光の玉をテスカトリポカの剣の取っ手に撃ち、剣を弾き飛ばす。
才能がなく、ずっと努力をしてきた故に持つ、才能への切望。
そしてその気持ちから強さについて必死に調べたことにより持つ圧倒的な知識。
才能がなく、ずっと努力をしてきた故に持つ、数々の経験。
そしてその圧倒的な量の経験の積み重ねにより持つ、未来視にすら匹敵する直感力。
圧倒的な努力の数々が、紛れもなくシエラを真の勇者へと変えたのだ。
聖剣がこんな強い輝きを放ったのは、この世界の歴史上、二回目であり、1000年ぶりであると言えるだろう。
ー勇者・聖断ー
「えりゃああああっ!!!!!」
圧倒的な光量を持つ光の巨大な刃が、上からテスカトリポカを斬り下ろす。
「ギギィィィィィッ!!!!!!」
そのあまりの威力に、テスカトリポカは巨大な、アメジストのような魔石だけを残し、跡形もなく消え去った。
「そんな……あの魔物を……」
あまりの高レベルな戦いに、ユティナ姫はただ驚愕する。
気がつくと、ゼノアの死体は魔石すら残さず灰になっていた。
恐らく正真正銘全てをテスカトリポカの召喚に使ったのだろう。
「ふぅ……」
一気に力が抜けたシエラは後ろに倒れ、ユティナ姫に支えられながら一緒に地面に仰向けになって倒れる。
「正直私、あなたのことを見くびっていたわ」
ユティナ姫が話し始める。
「私は力こそが、才能こそが全てだと思って、才能がない人には何も守れないと思ってたわ」
「ボクもずっとそう思ってたよ」
「でも違ったわね。あなたは現に私を、そして自分自身を守れたわ。エッシェルがああまでして助けてくれた私とあなたの命を無駄にはしなかったのよ」
「私、正直タケルしか見ていなかったのだけれど、あなたとエッシェルを見て心を打たれたわ」
「でもボクがここまで来れたのはボクだけの力じゃない。ユティナ姫のことを見て学んだから、タケルがボクにアトバイスをくれたから、エッシェルがここまでボクを守ってくれたから、今のボクがあるんだ」
「あなた、つくづく勇者ね」
「そうかな」
「あ、でもタケルは渡さないからね?」
「それはこっちの台詞よ」
ふふふ、と二人は互いに微笑みを交わす。




