シャワーを浴びに行きました。(3)
「え」
「あ」
「えっ」
「へっ?」
四人が同時に声を上げ、場に沈黙が訪れる。
床に横たわるユティナ姫、そしてそれを押し倒す俺、そしてそれを見て固まるエッシェル達。
うん。これはまずいことになったな。
このままじゃ俺は完全にユティナ姫を襲ってる人じゃないか!!
「えっと、これはそのーー」
「なんでタケルがいるの!?!?!?」
「そっちかよ!?!?!?」
「えっと、ボクたち邪魔しちゃったかな……」
見当違いな驚き方をするエッシェルの横で、シエラが気まずい顔をしながら後ろに下がっていく。
「違う!!これは床が滑って倒れただけだ!!」
「そもそもどうしてユティナ姫がここにいるの……?」
「えっとな、多分俺たちが居た部屋が3階じゃなかったんだ」
「……というかあんまり見ないで欲しいんだけど……」
「あ、すまん」
そういえばエッシェルもシエラも裸だった。
俺はすぐに逆方向を向く。
「倒れる前は何してたの?」
エッシェルが言う。
「えーっと、その、背中を洗う的な?」
「背中を洗う!?!?」
シエラが勢いよく反応する。
「背中……私も混ぜて!!」
エッシェルが突然言い出す。
!?!?
「突然どうした!?!?」
「だってユティナ姫だけなんてずるいもん!」
「何故!?!?」
思わず振り向いて反応する。
すると、目の前にしゃがんでいるエッシェルがいた。
「うおっ!?」
「シエラも洗いっこしようよ!!」
いや流石にシエラは……
「…………」
シエラが反応しない。
どうしたんだ?
そう思った数秒後。
こくり、とシエラが頷いた。
「何故!?!?!?!?」
一体この数秒で何が起こったのだろうか。
エッシェルならまだ分か……
いや、最初に会った時のことを考えるとエッシェルの発言自体もだいぶあり得ないが、シエラは何故今のエッシェルの提案に賛成したんだ!?
俺は訳も分からず真下にいるユティナ姫を見る。
「あの……流石にどいてくれない?」
ユティナ姫が顔を真っ赤に染めながら言う。
「あ、すまん」
俺はすぐにどいて床に座る。
「てか体洗い合うとかユティナ姫がダメだろ!」
俺はすぐ近くにいるエッシェルに言う。
「ど、どうしてもって言うなら私は別にいいわよ」
「いいのかよ!?!?」
結局何故か体の洗い合いをすることになった。
意味がわからん。本当に。
「ボクの手、気持ちいい?」
「変な言い方するのやめてくれ」
「あっいや!そう言うことじゃなくて!!」
俺たちは何故かお互いの背中を流し合っている。
「次は私が流すよ!!」
「お、おう」
座る俺の後ろにエッシェルが膝立ちをする。
「よいしょっ!」
むにゅ。
後ろから柔らかく、暖かい感触が伝わって来る。
この感触……
絶対手じゃねえ!!!!
「やるなら普通に手でやってくれ!!」
「えー、手より石鹸つけやすいじゃん」
「そういう問題じゃねえよ!!」
「ちょっと、早く洗ってくれない?」
俺の前にいるユティナ姫が言う。
「ああ、すまんすまん」
俺は再び手をユティナ姫の背中に置く。
「あっ」
「だから変な声出すな」
というか全員最初と態度変わりすぎだろ!!
流石にこれはおかしい気がする。
なんかみんないつもよりなんか顔が赤い気がするし。
もしや王が夕食に変なものでも混ぜて俺がユティナ姫と同じ場所に行くように仕向けたり…………
そ、それはないな。
うん、考えないようにしよう。
それにしてもつくづく思うが、どうしてこうなったのだろうか。
俺たちが風呂でお互いの体を洗い合い始めてから数十分後。
俺とエッシェル、そしてシエラは部屋に戻っていた。
ちなみに二人がシャワー室に入ってきた時に俺たちに気がつかなかったのは、エッシェルが俺の服がカゴに入っているのを見ずに服を上からかぶせたかららしい。
「ふあー!!すっきりー!!」
エッシェルがベッドに倒れこむ。
「確かに今日は普段の数十倍体を洗ったからな」
「そうだね……」
シエラはまだいつもの調子に戻っていないようだ。
「そうだ、ここって結局何階なんだろう」
俺は窓から外を見る。
すると外は結構暗くなっていた。
向かい側の建物の窓の数を数えよう。
1、2、3、4……
「あ、ここ4階だな」
「やっぱり3階じゃなかったんだね……」
「ああ。ユティナ姫には悪いことをしたな」
「よく殺されなかったよね」
「まあ音速で石鹸投げられたり超音速のビンタくらって気絶したりしたけどな」
「よく生きてたね!?」
「まあ防御力はまあまああるからな」
「まあまあって次元じゃないんだけど……」
あ、そうだ。今は何時なのだろうか。
現在時刻:21時40分18秒
思ったよりシャワーで時間使ったな。
俺が呼び出された時間まではあと約20分か。
そろそろ出てもいい頃だな。
「なあエッシェル、シエラ」
「なに?」
「どうしたの?」
「俺ちょっと街に急用ができてな、今から行かなきゃいけないんだ」
「そうなの!?」
「今から!?!?」
「ああ。別にそんな大したことじゃないから気にしないでくれ」
「わ、わかった」
「気をつけてね」
俺はそう言い残し、すぐに部屋を出た。
かなり雑な出方だったけどまあ大丈夫だろう。
俺は右ポケットに紙がしっかりあることを確認し、廊下を歩く。
そういえば俺前の世界での私服のままだな。
この服に無理やり剣をつけてる今の格好は流石にダサいから今度服を買おう。
俺は城の1階、エントランス的な場所まで降りた。
「なあ、冒険者ギルド本部の場所ってわかるか?」
適当に出口の前に立っていた兵士に尋ねる。
「それならそちらの方向に見えるあの大きな建物です」
兵士が夜の街にあるひときわ大きな建物を指す。
「分かった。ありがとな」
俺は城を後にした。




