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とある魔王の娘の物語

「パパ!!パパ!!」


「なんだい?」


これはある少年がこの世界にやってくるよりずっと前のこと。

大きな玉座がある大広間に5歳くらいの見た目の少女の声が響き渡る。


「みてみて!!」


フワァン


少女が手を宙にかざすと、5つの赤黒い魔法陣が現れた。


「ほう!また新しい魔法を作ったのか!!」


玉座に座り、少女の功績を称えるこの男こそが現魔王である。


「これはね!!かっこいいパパをイメージして作ったの!深淵の超火って言うんだよ!!」


「それは嬉しいな!!まさか娘に自分をモチーフにした魔法を作られるとは!」


少女の父である魔王が笑顔を浮かべ、少女の頭を軽く撫でる。


「剣と弓も新しい強化魔法を作ったの!!」


「やっぱりエッシェルはなんでも出来るんだな!」


「パパの方がなんでも出来るじゃん!」


「なあに、パパのことなんてすぐに越せるさ」


「ほんとかなぁ」


少女がほっぺを軽く膨らませる。




魔王の一人娘として生まれたこの少女は、剣に弓に魔法に座学に身体能力に魔力に体力に特殊体質に。

ありとあらゆる才能を持って生まれ、そして周りから尊敬されていた。


この世界の人は知っているのだろうか。

才能、という言葉を。


この世界にもその類の言葉は存在していて、少女は周りの多くの魔族たちから才女、天才、才能の象徴など様々な呼ばれ方をしていた。


実際彼女の持つ様々な素晴らしい才能により、彼女は父である魔王以外どの魔族にも劣らなかった。

まだ幼い彼女は、いつか成長したらその魔王すら超えるだろう。


しかしそんなある時。


「魔王様!勇者からの襲撃です!!」


ある日、大広間の団欒を崩す声が入り口から聞こえてきた。


「何!?結界はどうした!?」


「それが何故か機能しておらず、勇者達の侵入を許してしまいました!!」


「勇者達は今どこにいる!!」


「それが……もう既に城内に……」


ドゴオオン!!

地響きがする。


「まさかもうこんなところまで……!!」

「エッシェル。この結晶を持って裏から逃げるんだ」


青く輝く結晶を少女は父から受け取る。


「いやだ!私も戦う!!」


「何を言っているんだ。いくらエッシェルでも勝てない」


「そんなことないもん!!私お父さん以外になら勝てるもん!!」


父が悲しそうな顔で少女を見つめる。


「え、うそ……」


そう、この戦いは少女の父である魔王にすら勝てる見込みはほとんどないのだ。


「ほら!!早く行きなさい!!!」


父が少女を急かす。


「エッシェル、生き延びてくれ!!」


「うぅっ!!!」


少女は涙を流しながら走り出す。


「誰か!!誰か助けて!!」


少女は父を助けてくれる人を探す。


「ねえ!!だれかいないの!?」


しかし廊下に響くのは遠くから聞こえる轟音と自分の声だけだった。


そこで少女は気がつく。


確かに少女は周りの人間から尊敬されていた。

尊敬はされていた。


ただ、孤独だった(・・・・・)


少女には父以外いなかったのだ。


自分と同じくらいの、自分を超えるような力を持った存在が。


友達といえる存在は一人もいなかったのだ。


いざという時、手を取り合って困難に立ち向かえるような友達はいなかったのだ。


誰も、誰一人自分が困った時に手を差し伸べてくれる存在はいなかったのだ。


自分一人では越えられない壁が迫った時。


その壁を越えられるよう上から手を差し伸べてくれるような。


そんな存在は誰一人、いなかったのだ。


少女はその場で膝をつき、泣き喚いた。


誰一人慰めてくれる人はいない。


誰一人肩を貸してくれる人はいない。


誰一人、手を差し伸べてくれる人なんていない。


手下はいても、仲間はいない。


少女は父の言葉を何度も胸に響かせ、城を飛び出し、森を掛ける。


そして何分も何時間も何日も走り続けた後、青い結晶を森の中で使った。


すると、その森は虹色の森へと変わり、眷属たちが一斉に現れた。


少女は魔法に長けていたため、何が起きたのかはすぐにわかった。


これは、父がくれた最後の、最後のプレゼントなのだ。


少女は、一気に力が抜けて倒れ込んだ。




それから、父が生きていることを信じ続け、ただただ誰かが手を差し伸べてくれるという奇跡を1000年間待ち続けた。







この世界の人は知っているのだろうか。

才能、という言葉を。

いや、きっとあの哀れな少女を除いては、誰も知らないだろう。



才能があれば尊敬される、才能があれば力がある、才能があれば何にでも勝てる。

才能とはそんな素晴らしいものではない。


才能とはその持ち主を孤独にし。


才能とはその持ち主の大切なものをいざという時に限って守ってくれず。


才能を持つものには決して誰も手を差し伸べてくれない。


そんな、恨めしい存在なのである。

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